2023年 司法試験 論文式 国際関係法(私法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
A女(甲国籍)は、甲国K市の理工系の大学院に在学中、留学生のB男(乙国籍)と知り合い、両者は親密な交際を始めた。両者の関係は、Aが大学院を修了後に、日本の工作機械メーカーO社の甲国における現地法人P社に技術者として就職してからも継続した。やがて、AはBの子を懐妊するに至ったが、その直後に両者の関係が悪化し、両者は話合いの末に交際関係を解消した。Aは、Bとの関係を解消してから間もない2010年1月、未婚のままでYを出産し、Yは出生により甲国籍を取得した。その後しばらくして、Bは大学院を修了したが、Yを認知しないまま乙国に帰国し、それ以降、BとA及びYとの間に一切の連絡はない。
その後、Aは、Yを育てながらP社で働いていたが、ある時、O社からP社に一時的に出向してきていたX男(日本国籍)と知り合い、両者は親密な交際を始めた。しばらくして、Xは、Aの歓心を買うため、血縁関係のないYを自分の子として認知することを決意し、2012年1月上旬、甲国K市の身分登録所にAと連れ立って出頭した上、身分登録をつかさどる官吏に対し、Yを自分の子として認知する旨の意思表示を行い(以下「本件認知」という。)、甲国の身分登録簿には、Yに係る身分事項として、本件認知が登録された。さらに、同月下旬、AとXは、甲国K市において、甲国法上の方式で婚姻し(以下「本件婚姻」という。)、甲国の身分登録簿には、Aに係る身分事項として、本件婚姻が登録された。その翌月の同年2月、Xは、戸籍法第41条第1項の定めるところに従い、甲国K市駐在の日本国領事に対し、本件認知及び本件婚姻に関してそれぞれ作成された証書の謄本を提出し、その後間もなく、Xの戸籍には、その身分事項として、本件認知及び本件婚姻が記載された。
2015年、XがP社への一時的な出向を終えてO社に復帰することとなったことを契機として、O社とP社との間で、A及びXの要望に基づき、AをP社からO社に出向させるとともに、A及びXをいずれも、O社の東京本社に配属する旨の人事上の調整が行われ、同年4月、A及びXは、Yを伴って日本に転居し、東京都内の住宅において同居生活を開始した。
ところが、日本での同居生活を開始してから、AとXの関係は次第に悪化していき、ついには、両者の婚姻関係は実質的に破綻している状態となった。そこで、A及びXは、話合いの末に別居することとして、2018年10月以降、Xは横浜市内の住宅に単身で居住し、AはYと共に従前と同じ東京都内の住宅に居住している。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、〔設問1〕と〔設問2〕は独立した問いである。
〔設問1〕
Xは、2019年7月、東京家庭裁判所に対し、Yを被告として、本件認知が血縁の事実に反することを理由として、認知の無効の訴えを提起した。この訴えについて、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。また、本設問において反致の成立はないものとする。なお、甲国法及び乙国法には、親子関係の成立等に関し、それぞれ次の規定が存在する。
【甲国法】
① 嫡出でない子は、その父が認知することができる。
② 認知は、身分登録吏又は裁判官の面前での意思表示によってする。
③ 認知をした者は、認知の時から7年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。
【乙国法】
④ 非嫡出父子関係は、親からの意思表示を要することなく、血縁関係が証明されるときに成立する。
〔小問1〕
本件認知が方式上有効に成立しているかについて論じなさい。
〔小問2〕
本件認知は方式上有効に成立しているものとする。この場合において、Xによる認知無効の請求は認められるか。訴訟上、Yの血縁上の父がBであることが不明のままであるときと、提出された証拠により、Yの血縁上の父がBであることが証明されたときのそれぞれについて、論じなさい。
〔設問2〕
Aは、2019年4月、Yを連れて行くことについてXの同意を得た上で、Yと共に甲国へ帰国し、そのまま現在まで甲国K市で生活している。Xは、2015年に日本に帰国してから甲国に渡航したことはなく、現在も日本で生活している。
Aは、2022年4月、甲国のK裁判所に対し、Xを被告として、離婚を請求するとともに、附帯処分として財産分与を申し立て、提訴した。
甲国と日本との間の司法共助に基づき日本において訴状の送達を受けたXは、甲国の弁護士を訴訟代理人として選任した上、K裁判所における答弁として、主位的には、甲国の裁判所は国際裁判管轄権を有しないとして訴えの却下を求め、予備的には、請求に理由がないとして請求棄却を求めた。これに対し、K裁判所は、2023年4月、下記の甲国法⑤及び⑥の規定に基づき、離婚及び財産分与のいずれについても国際裁判管轄権を有すると判断した上、Aの離婚請求を認容するとともに、財産分与として300万円の支払をXに命じる内容の判決(以下「本件判決」という。)をし、翌月、本件判決は確定した。
そこで、Aは、東京家庭裁判所に対し、本件判決のうち300万円の支払を命じる部分について、民事執行法第24条に基づいて執行判決を求める訴えを提起した。
この場合において、執行判決の要件である民事訴訟法第118条第1号の要件が具備されているかについて論じなさい。
【甲国法】
⑤ 離婚に関する訴えは、原告が甲国に1年以上継続して住所を有するときは、甲国の裁判所に提起することができる。
⑥ 裁判所は、甲国の裁判所が離婚の訴えについて管轄権を有するときは、財産の分与に関する処分についての裁判に係る事件について、管轄権を有する。
出典:法務省「2023年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。