2023年 司法試験 論文式 経済法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
甲精密工作機械(以下「甲機械」という。)は、機械部品を効率よく高精度に自動で加工する工作機械である。我が国における甲機械のメーカー(以下「メーカー」という。)は5社あり、その売上額に基づく割合(以下「シェア」という。)はほぼ均等である。甲機械に代替する工作機械はなく、この10年間に甲機械の製造販売業に新規参入したものはなく、また、輸入もほとんど行われていない。
甲機械を使用して機械部品を加工する甲機械の需要者(以下「需要者」という。)にとっては、これをメーカーから購入する方法と、リース事業者から甲機械のリースを受ける方法がある。リースとは、需要者があらかじめ選定した甲機械をリース事業者がメーカーから購入し、これを需要者がリース事業者から中長期にわたって賃借する方法である。リースには、①初期に多額の購入費用が掛からず、毎月のリース料の支払だけで済み、費用を平準化できること、②管理や事務の負担を軽減できること、③陳腐化しやすい甲機械にあって常に最新のものを導入できることなどのメリットがあり、こうしたメリットを重視する需要者は、甲機械の購入ではなくリースを選択している。どのメーカーにおいても、甲機械の販売台数に占める購入する需要者向けとリース事業者向けの比率は、おおむね50パーセントずつとなっている。
リース事業者であるA社、B社、C社及びD社(以下「リース4社」という。)は、我が国における甲機械のリースの取引において、それぞれ約13パーセント、約11パーセント、約10パーセント及び約7パーセントのシェアを有している。その他のリース事業者も多数存在し、競争は活発に行われているが、そのシェアはいずれも5パーセント以下である。また、国内における甲機械の販売台数全体のうちリース4社が購入する割合は、それぞれ約7パーセント、約6パーセント、約5パーセント及び約4パーセントとなっている。甲機械のその他の購入者で3パーセント以上の割合を有するものはいない。
近年、甲機械に対する需要の鈍化に伴い、メーカーには甲機械の在庫が増えている。こうした中で、メーカーのうちX社及びY社(以下「メーカー2社」という。)が、それぞれ、甲機械の販売のみならず、甲機械のリースを希望する需要者に対して自ら直接リースを行うこと(以下「直接リース」という。)を始めた。これにより、リース4社の取引先である需要者の中にも、メーカー2社から甲機械の直接リースを受けるものが出てきた。
メーカー2社による直接リースによって大きな影響を受けていたD社の営業部長dは、他社の状況を知りたいと考えて、A社の営業部長a、B社の営業部長b及びC社の営業部長cに情報交換を呼び掛けた。この呼び掛けを受けて令和5年4月10日に開かれた会合では、リース4社がそれぞれ直接リースによる影響を受けていることについて情報交換が行われた後、出席者から次のような発言があった(発言順)。
d:「メーカーによる直接リースがこのまま拡大していくと、我々リース事業者は大きな打撃を受けることになる。」
b:「リースに関する知識や経験に乏しいメーカーがリースを行うと、需要者に対して十分な説明ができず、需要者の利益にならない。」
d:「リース事業への需要者の信頼を失わせることにもなる。」
a:「メーカーは、需要者に販売することは自由にできるのだから、リースについては我々に任せるべきだろう。」
c:「リースを知らないメーカーによる直接リースはやめさせるべきだ。」
b:「メーカー2社が直接リースを続けるなら、メーカー2社からの甲機械の購入はやめたい。」
a:「メーカー2社に直接リースをやめさせるには、ここにいるリース4社がメーカー2社からの甲機械の購入をやめることが最も有効な方策ではないか。」
c:「確かにリース4社で協力すれば、メーカー2社への圧力になる。」
a:「メーカーに対してリース事業者の利益を守るためには、この場にいるリース4社の結束が必要だ。」
c:「今のところ直接リースを始めたのはメーカー2社に限られているが、他のメーカーに直接リースをさせないための牽制にもなる。」
b:「メーカー2社が直接リースをやめれば、他のメーカーも直接リースを始めようとは考えないだろう。」
情報交換を呼び掛けたdは、会合の途中から発言しなくなったが、a、b及びcの発言に異を唱えることはなかった。また、a、b及びcは、D社がメーカー2社による直接リースの影響を大きく受けていることを知っていた。
その後、A社、B社及びC社(以下「リース3社」という。)は、それぞれ、令和5年4月24日、メーカー2社に対して、直接リースを今後行わないこと、直接リースを今後も行うメーカーからは甲機械を購入しないことを申し入れた。D社も、同月26日、メーカー2社に対して、リース3社の申入れと同趣旨を申し入れた。これらの申入れを受けて、メーカー2社のうちX社は、今後、直接リースを行わないこととしたが、Y社は、引き続き直接リースを行っていた。このため、リース3社は、それぞれ、同年6月8日、Y社に対して、今後Y社から甲機械を購入しない旨通知した。D社も、同月10日、Y社に対して、リース3社の通知と同趣旨を通知した。これにより、Y社も、以後、直接リースを行わないこととするに至った。
〔設 問〕
リース4社の上記行為について、独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。
出典:法務省「2023年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。