2022年 司法試験 論文式 倒産法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
次の【事例】について、以下の設問に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、試験時に施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事 例】
A株式会社(以下「A社」という。)は、主に、ラーメンの製造販売を業とする株式会社であり、その代表取締役はBである。A社は、創業者であるBが、個人で屋台を引いてラーメンの販売を始めた会社であったが、多数の支店を出店して無計画に事業を拡大したため、近年は業績不振に陥っていた。A社は、支店の敷地・建物などの資産を順次処分するなどして、これにより得た資金を負債の返済に充てたが、思うように業績は回復しなかった。そこで、A社は、メインバンクであるC信用金庫(以下「C信金」という。)に対して借入金の弁済の猶予を求めたが、これを断られた上、D銀行を始めとする他の金融機関からもつなぎの融資を断られた。これにより、令和4年4月末日の時点で、同年5月末日に予定しているC信金に対する借入金の弁済の見込みが立たない状況にあった。
そこで、A社は、令和4年5月9日、E地方裁判所に対し、予納金を納付した上、弁護士Fを代理人として再生手続開始の申立てをしたところ、同裁判所は、同日、弁護士Gを監督委員とする監督命令を発令した。
〔設問1〕
【事例】に加え、A社について以下の①又は②の事情がある場合に、E地方裁判所は、A社につき、再生手続開始の決定をすることができるか。①、②のそれぞれにつき、民事再生法所定の再生手続開始に関する要件及びその趣旨を踏まえ、論じなさい。なお、各事情はそれぞれ独立したものであるとする。
① A社は、Bの強い希望で、これまでの資産処分により残した本店にて事業を継続し、その収益を弁済原資とする再生計画案の作成を検討している。もっとも、今後も本店での収益は低額にとどまると見込まれ、むしろ、本店は立地がよいことから、A社所有の本店建物を取り壊し、A社所有の敷地を更地にして売却すれば、その売却代金は、再生計画に基づく弁済額よりもはるかに高額となることが期待できる。そこで、C信金はA社に本店敷地の売却を勧めたが、Bが事業の継続にこだわったため、C信金は、E地方裁判所に対し、A社の債権者として既に破産手続開始の申立てをしている。
② A社は、H株式会社(以下「H社」という。)に事業譲渡を行い、その譲渡代金を弁済原資とする再生計画案の作成を検討している。もっとも、A社は法人税及び消費税を滞納しており、H社が提示している譲渡代金の額では、上記滞納分の全額を支払うことができない状況にあるが、その一方で、A社は、弁護士F及び顧問税理士Iから、次のような報告を受けている。それによれば、滞納国税については、J税務署と交渉をした結果、J税務署も再生手続による再建に理解を示しており、延滞税について分納の合意ができる見込みがある、この分納の合意により、再生計画案の決議に至るまでの資金繰りにも見通しが立つ、事業譲渡代金についても、今後、原材料の仕入れルートの見直しや、経理、人事に関わる本社機能のH社本社への集約等によって、H社からの提示金額が増額される見込みは十分にあるとのことである。
なお、資金提供に応じてくれそうなものはH社のみであり、同社以外の会社が今後名乗りを上げる可能性はない。
【事 例(続き)】
E地方裁判所は、令和4年5月16日、A社について再生手続開始の決定をしたが、その後、以下のような事実が判明した。
A社は、業績不振となる以前からD銀行と以下の条項(以下「本件条項」という。)を含む銀行取引約定を締結していた。
A社がD銀行に対する債務を履行しなかった場合、D銀行は担保及びその占有している動産、手形その他の有価証券について、必ずしも法定の手続によらず一般に適当と認められる方法、時期、価格等により取立て又は処分の上、その取得金から諸費用を差し引いた残額を法定の順序にかかわらずA社の債務の弁済に充当することができる。
D銀行は、A社の再生手続開始の申立て前に、A社から、満期を令和4年5月17日とする約束手形(以下「本件手形」という。)について、取立委任のための裏書譲渡を受けていた。また、A社は、D銀行に対し、3000万円の当座貸越債務(以下「本件債務」という。)を負担しており、再生手続開始の申立て時に、本件債務の弁済期が到来し、D銀行は本件手形について商事留置権を有することとなった。
D銀行は、令和4年5月17日、満期となった本件手形を本件条項に基づいて取り立てて、取立金1000万円(以下「本件取立金」という。)を受領した。そこで、A社は、D銀行に対して本件取立金相当額の支払を求めた。これに対し、D銀行は、「再生手続開始の決定後もなお本件手形に商事留置権を有しており、本件手形が取立てにより取立金に変じた場合も、その取立金を商事留置権に基づいて留置することができる。」と主張した。
〔設問2〕
【事例】において、仮に、D銀行の主張するとおり、本件取立金に商事留置権に基づく効力が認められるとした場合に、D銀行は、本件条項に基づいて本件取立金を本件債務の弁済に充当することができるか、A社について開始された手続が破産手続である場合との相違を踏まえて論じなさい。ただし、相殺禁止について言及する必要はない。
出典:法務省「2022年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。