2022年 司法試験 論文式 労働法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。
【事 例】
食品の製造販売業を営むY社は、同社の全ての事業場で労働者の過半数を組織するA労働組合との間で30年前になされた書面化されていない合意に基づき、同社の正社員(無期労働契約で雇用されている労働者)に対し、7月と12月の年に2回、それぞれ基本給月額の2か月分の賞与を支給してきた。その支給要件は、7月に支給される賞与については前年度の10月から3月までの期間、12月に支給される賞与については当年度の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割以上出勤し、賞与支給日に在籍していることとされ、30年間、この取扱いが同社内で問題とされることはなかった。その間、同社の正社員に適用される正社員就業規則(後述する令和2年の改定の前のもの)には、賞与の支給に関しては、「会社は、会社の業績や経営状況等により、7月と12月の年に2回、賞与の支給日に在籍している正社員に対し、賞与を支給することがある。」との規定が置かれているのみであった。一方、同社の契約社員(有期労働契約で雇用されている労働者)に適用される契約社員就業規則(後述する令和2年の改定の前のもの)には、賞与の支給に関する規定はなく、同社の契約社員には賞与は支給されていなかった。
Y社は、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)による「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号)の改正(同改正により同法の題名も改められた。)が令和2年4月1日に施行されることに合わせて、同年7月から、契約社員にも賞与を支給する方針を固めた。Y社は、令和元年10月から令和2年3月にかけてA労働組合と団体交渉を重ね、同月27日に、A労働組合との間で、「令和2年7月以降の賞与は、正社員については基本給月額の1.8か月分とし、契約社員については基本給月額の0.5か月分とする。」との書面による労働協約を締結した。なお、同社は、同年3月末時点で、200人の正社員と125人の契約社員を雇用しており、正社員である労働者は、ユニオン・ショップ協定に基づき、取締役を兼務する部長6名と総務部の次長・課長2名以外の全員がA労働組合に加入しているが、同社の契約社員は、ユニオン・ショップ協定の対象外とされ、A労働組合に加入していない。
Y社は、同労働協約の締結後、正社員就業規則の前記の賞与規定を改定して、「会社は、7月と12月の年に2回、7月に支給される賞与については前年度の10月から3月までの期間、12月に支給される賞与については当年度の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割以上出勤し、賞与支給日に在籍している正社員に対し、基本給月額の1.8か月分の賞与を支給する。」との規定を設け、契約社員就業規則には、新たに、「会社は、7月と12月の年に2回、7月に支給される賞与については前年度の10月から3月までの期間、12月に支給される賞与については当年度の4月から9月までの期間に、所定労働日数の9割以上出勤し、賞与支給日に在籍している契約社員に対し、基本給月額の0.5か月分の賞与を支給する。」との規定を設けた。Y社は、A労働組合から、「各就業規則改定に賛成する」旨の意見を聴取し、令和2年3月31日、所轄の労働基準監督署長に改定後の各就業規則の届出をした上で、同社の全ての労働者に対し、社内電子メールを送付して改定後の各就業規則を周知した。
Y社の正社員でA労働組合の組合員であるX1は、令和2年7月に支給された賞与が従来支給されていた基本給月額の2か月分から1.8か月分に減額されたことに不満を持っている。
また、平成29年4月1日に契約期間1年の有期労働契約でY社に雇用された契約社員であるX2は、同契約を3回更新され、令和2年7月を迎えたが、同月に支給された賞与が基本給月額の0.5か月分であったことに不満を持っている。X2が、Y社に対し、正社員と契約社員の間の賞与の相違とその理由について説明を求めたところ、Y社の総務部長は、X2に対し、「会社の就業規則にそう規定されています。」と述べて、同社の正社員就業規則と契約社員就業規則の該当規定を提示した。
なお、X2は、Y社で食品衛生管理に関する事務作業に従事しているが、その職務の内容は、同じ部署で働いている入社3年目の正社員と同じであり、同部署の入社1年目の正社員に対して、業務遂行について教育指導を行うこともあった。Y社の契約社員の基本給は時間給制であり、契約社員には勤務地の変更を伴う配置転換はない。Y社の正社員の基本給は経験と能力に応じた職能給(月給)制であり、正社員には勤務地の変更を伴う配置転換があるほか、同社の幹部になることを視野に入れ、長期的に人材育成がなされるものとされていた。Y社には、契約社員から正社員に登用される制度はない。
〔設 問〕
1.X1は、Y社に対し、基本給月額2か月分の賞与の支払を請求することができるか。考えられる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
2.X2は、Y社に対し、正社員と契約社員の間の令和2年7月以降の賞与の相違について、何らかの請求をすることができるか。考えられる論点を挙げて検討し、あなたの見解を述べなさい。
出典:法務省「2022年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。