2022年 司法試験 論文式 経済法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
【前 提】
甲製品は、特有の効用を有する比較的高額な家庭用機器であり、代替する製品はない。その機能やサイズ等に応じて、多様な機種がある。
日本では、X社及びY社を含む5社のメーカーが甲製品を製造しており、それらは小売業者を通してユーザーに販売されている。ユーザーは、小売業者の店舗において、装備されている機能や使用方法等に関する説明を受けながら甲製品のメーカーや機種を選定して購入することが一般的である。小売業者は、通常、複数のメーカーの甲製品を取り扱っており、甲製品のメーカーと小売業者の間に資本関係等はない。
甲製品のメーカーは、それぞれの甲製品の機種ごとに希望小売価格を設定し、取引先小売業者に通知している。各メーカーの甲製品の希望小売価格は、他社の同等の機種の希望小売価格を参照しつつ設定されており、その水準に大きな違いはない。
日本における甲製品全体の販売台数に占めるX社製甲製品の割合(シェア)は、約30パーセントで第1位である。また、Y社製甲製品は、そのシェアが約20パーセント(第3位)とやや低いものの、その特有の機能が一部のユーザーから高く評価されており、ユーザーの中にはY社を指名して購入しようとするものも少なくない。このため、甲製品の小売業者にとっては、X社製及びY社製の甲製品を取り扱うことが営業上有利である。なお、甲製品の各メーカーのシェアに大きな変動はない状況が続いている。
〔設 問〕下記⑴及び⑵の設問に解答しなさい。
⑴ 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に、X社のそれぞれの行為について、独占禁止法に違反するか、違反する場合には違反行為期間を含めて、検討しなさい。
X社は、従来、X社製甲製品の機種ごとに設定している希望小売価格について、それが参考である旨明記してきていた。X社の取引先小売業者は、通知された希望小売価格を参考に、それぞれの判断で販売価格を設定してきており、平均販売価格は希望小売価格をやや下回る水準で推移してきていた。そうした中で、X社は、平成28年4月、取引先小売業者に対し、新機種を含めた全機種の希望小売価格を通知する際に、X社製甲製品の性能やブランド力からみて、希望小売価格で販売することが十分可能であることを強調する説明を加えた。
その後、X社の取引先小売業者の中に、X社製甲製品について希望小売価格からの値引き幅を強調して販売するものが出てきた。このため、X社は、X社製甲製品の販売価格を調査することとし、令和元年10月、取引先小売業者に対し、機種ごとの希望小売価格を明記した調査表に実際の販売価格を記入する方法で回答することを求めた。その調査表には、販売価格に関する回答の正確性を確認することがある旨付記されていた。
X社が実施した価格調査の結果、大幅な値引き販売を行う取引先小売業者は少ないものの、ある程度の値引き販売を行う取引先小売業者が相当数存在することが判明した。このため、X社は、X社製甲製品の販売価格の管理を強めることとし、令和2年4月、全機種について、従来の「希望小売価格」に代えて「販価」と表記し、また、参考である旨の記述を削除して、取引先小売業者に通知した。この通知には、必要に応じ、X社において取引先小売業者の販売価格の調査を行う旨明記されていた。X社の取引先小売業者の多くは、X社からの通知が販価どおりの価格で販売してほしいという趣旨であることを理解した。
しかし、X社が令和2年4月の通知の直後に調査会社に委託して実施した価格調査の結果、引き続きX社製甲製品を販価から値引きして販売している取引先小売業者が一部存在することが判明し、その後も変わりなかった。このため、X社は、令和2年10月、取引先小売業者に対し、販価どおりに販売するよう改めて要請し、この要請に反した取引先小売業者に対してはX社製甲製品の出荷を制限することがある旨通知した。また、この通知の直後に、X社は、従来から値引き販売を行っていた取引先小売業者に対して、実際に出荷を制限する措置を講じた。この措置が取引先小売業者の間に広く知られたこともあり、出荷制限を受けることを恐れて、取引先小売業者がX社製甲製品を値引きして販売することはほとんど見られなくなった。
その後、X社は、令和4年1月、取引先小売業者に対し、販売価格に関する従前の通知や要請、措置等を全て廃止することを表明した上で、参考である旨明記した「希望小売価格」を改めて通知したが、その価格は令和2年4月に通知した販価と全く同じであった。通知を受けた取引先小売業者は、X社からの通知の内容を理解したものの、現在に至るまで、値引き販売はほとんど行われていない。
⑵ 上記の【前提】に加え、以下の事情がある場合に、Y社の行為について、独占禁止法に違反するか検討しなさい。
Y社は、Y社製甲製品が他のメーカーの甲製品にはない機能を有しており、取引先小売業者がユーザー(潜在的なユーザーを含む。)に対してY社製甲製品の特有の機能を含めて使用方法等を十分説明することが不可欠であり、また、それが甲製品の新たなユーザーを発掘するとともに、Y社製甲製品に対する評価を高め、Y社を指名して購入するユーザーを増やすことにつながると考えている。
しかし、甲製品が普及するにつれて、特に買換えをしようとするユーザーの中には、小売業者による甲製品の使用方法等の説明が不要であり、あるいは煩わしいと感じるものもいるようになってきている。また、甲製品の小売業者の中にも、甲製品の使用方法等に関する説明を丁寧に行おうとすると費用が掛かることから、こうした説明を省略し、むしろ低価格を訴求した販売を行いたいと考えるものが出てきている。
こうした中で、Y社は、令和3年4月、取引先小売業者に対し、上記のようなY社の考えを改めて説明した上で、来店するユーザーに対してY社製甲製品の使用方法等を説明することを義務付ける条項を取引先小売業者との取引契約に追加することとし、これを実施している。この条項においては、来店するユーザーの甲製品やY社製甲製品の使用歴等に応じて説明すべき事項が設定されており、例えば、甲製品を既に使用しているユーザーに対してはY社製甲製品の特有の機能を説明することで足りるものとされている。
出典:法務省「2022年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。