2022年 司法試験 論文式 環境法 第1問
問題
配点 50点[環 境 法]
〔第1問〕(配点:50)
株式会社A(以下「A社」という。)は、B県内のC工場において金属の精錬の用に供するためにコークス炉(以下「炉」という。)を設置するため、大気汚染防止法(以下「法」という。)に基づいて、ばい煙発生施設の届出をし、炉の稼働をしてきた。C工場は、稼働の当初は法の定めに従って、測定を実施し、法の定める規制基準は遵守されていることを確認し、記録を保存してきた。しかしながら、炉の老朽化に伴って公害発生防止設備の機能が低下したため、ばい煙に含まれる法の規制対象物質、特に、いおう酸化物とベンゼンの濃度が上昇し、平成10年代の中頃には、いおう酸化物については基準値の10倍、ベンゼンについても基準値の1.5倍の値が恒常的に測定されるようになった(当時の測定記録はC工場に保管されていたため、後述のB県の立入調査の際にB県に提出された。)。それにもかかわらず、C工場の工場長は、費用の点から炉の改修を忌避し、ついには測定及び記録の保存そのものを平成20年(2008年)頃に独断で中止した(後にC工場関係者の証言等により判明した経緯からは、その後も長期にわたり法令違反が継続していたことが確認されている。)。令和3年(2021年)夏に入って、C工場の法令違反に関する匿名の通報がB県に寄せられ、これを受けてB県環境部の担当者がC工場の立入調査を実施したことから、C工場の法令違反が発覚するに至った。
〔設問1〕
本件設例において、いおう酸化物の基準値超過が問題となったのはK値規制基準に関してである。【資料1】のK値規制基準の計算式においてHe(一定の補正を受けた煙突の排出口の高さ)が用いられた趣旨について説明しなさい(Heの値の算出方法及びHeについて2乗とされた根拠については問わない。)。
〔設問2〕
いおう酸化物に関するC工場の法令違反に対してB県はどのように対応すべきかを関係規定を示しつつ説明しなさい。
〔設問3〕
ベンゼンは有害大気汚染物質であり、指定物質抑制基準が定められている物質でもある(【資料2】)。有害大気汚染物質対策の制度が設けられた趣旨を説明しなさい。その上で、指定物質抑制基準が設けられているベンゼンに関するC工場の基準値超過に対してB県はどのように対応すべきかを関係規定を示しつつ説明しなさい(ベンゼンは揮発性有機化合物であるが、法第2章の2「揮発性有機化合物の排出の規制等」については本問において検討しなくてよい。)。
〔設問4〕
本件設例において、A社は、立入調査時には施設の点検等を通じていおう酸化物及びベンゼンの基準値超過を解消しており、B県の調査方法に問題があったと考えている。〔設問2〕〔設問3〕において解答した対応をB県が実施しようとし、かつ、ベンゼンに関する基準値超過を含めてB県がその対応を公表しようと計画している時点において、A社はどのような法的請求を選択肢に入れて検討すべきかを説明しなさい(損害賠償請求は考えなくてよい。行政手続法上の手段、仮の救済・仮処分及び本案の主張は問わない。)。
【資料1】
K値規制基準は、大気汚染防止法施行規則(昭和46年厚生省・通商産業省令第1号)第3条第1項において、次のように規定されている。
q=K×10-3He2
(この式において、q、K及びHeは、それぞれ次の値を表わすものとする。
q いおう酸化物の量(単位 温度零度、圧力一気圧の状態に換算した立方メートル毎時)
K 法第3条第2項第1号の政令で定める地域ごとに別表第1の下欄に掲げる値
He 次項に規定する方法により補正された排出口の高さ(単位 メートル))

【資料2】
○ ベンゼンは大気汚染防止法施行令附則第3項により、同法附則第9項に規定する指定物質とされており、ベンゼンに関する指定物質抑制基準は定められて公表されている(コークス炉に関する指定物質抑制基準は省略する。)。
○ 大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号)附則(抜粋)
(指定物質)
3 法附則第9項の政令で定める物質は、次に掲げる物質とする。
一 ベンゼン(以下、略)
出典:法務省「2022年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。