2021年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
A国とB国は,隣接する国家である。両国は共に太平洋に面した海岸線を有しており,両国の国境を成すサール川が太平洋に注いでいる。植民地統治時代,A国は「A行政区」,B国は「B行政区」として,C国により統治されていた。A国は1967年,B国は1978年に独立を達成した。
植民地統治時代のC国植民地法令によれば,「A行政区」と「B行政区」の境界はサール川の航行可能な水路の中間線であるとされていた。もっとも,サール川には多くの中洲があり,2つの行政区の境界は明確ではなかった。特にサール川が太平洋に注ぐ地点に位置する,約3.5平方キロメートルの広さのサールーガ島周辺は,植民地統治時代には,「A行政区」側と「B行政区」側の両方の水路が航行可能であり,両行政区の境界がサールーガ島のどちらの側にあるのかは明確ではなく,C国植民地法令にも明文の規定がなかった。また,同法令には,サールーガ島の帰属についても,明確な規定が置かれていなかった。ただし,現在のB国に当たる河岸の住民は,伝統的にサールーガ島を放牧と農業に利用しており,この住民たちのサールーガ島での活動に対する課税権は,植民地統治時代,「B行政区」の当局が管轄し,B国の独立後は,B国がこれを行使するようになった。
A国が独立した際,A国と「B行政区」の境界は,A国とC国の間で決定されたが,サールーガ島の帰属とその周辺の国境については,「B行政区」が国家として独立を達成した後に,当該国家とA国との間で決定されることになった。1980年,A国とB国は,サールーガ島の帰属と周辺の国境の画定のための交渉を開始したが,交渉は難航した。なお,両国がこの交渉を開始した時点では,サールーガ島のA国側の水路が浅くなり,航行に適さなくなっていた。
1980年代半ば以降,A国でサール川及びサールーガ島の希少な動植物の生態系を中心とする環境の保護への関心が高まった。1987年,A国は軍隊と警察を派遣し,サールーガ島への人の立入りを厳格に制限するようになり,B国の国民はここでの放牧や農業ができなくなった。
1970年代に,国際的な科学者の団体がA国と「B行政区」の沖合の大陸棚の調査を行い,この海域の海底は,地質的に1つの大陸棚を構成しており,この大陸棚に石油・天然ガス資源が賦存している可能性が高いとの報告書を提出した。1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)の採択後,A国は1992年,B国は1993年に,それぞれ同条約を締結し,領海,排他的経済水域,及び大陸棚に関する国内法を制定した。A国法は,サール川のB国側の水路の中間点から沖合に向かって,これらの海域を設定しているのに対し,B国法は,サール川のA国側の水路の中間点から沖合に向かって,これらの海域を設定している。
2005年12月,A国とB国は,サールーガ島の帰属と同島周辺の国境の画定に関する紛争を国際司法裁判所に付託することについて合意し,特別合意の締結のための交渉を開始した。また,サールーガ島の帰属と同島周辺の国境に関する紛争の最終的な解決まで,国連海洋法条約第74条第3項及び第83条第3項に基づき,サール川の沖合の海域の石油・天然ガス資源の探査及び開発を推進するための暫定的な取極を締結することに,原則として合意した。しかし,特別合意の締結のための両国間の交渉は難航し,締結には至っていない。また,暫定的取極の具体的な内容と実施に関する交渉も進展していない。
2010年5月,B国は,サールーガ島沖合の係争海域を含む,B国が自国の大陸棚であると主張する海域の石油・天然ガス資源の探査を開始した。その結果,A国が主張する境界線よりも更に1キロメートルB国側に入った海域で石油・天然ガス資源が発見され,2016年8月にB国の国有企業が開発を開始した。A国は,B国による探査及び開発の活動について,暫定的取極の趣旨に反すると外交上の抗議を行った。
2017年9月,A国は,サールーガ島沖合の係争海域を含む,A国が自国の大陸棚であると主張している海域における石油・天然ガス資源の探査及び開発に関する認可を甲社に与え,同社が海洋調査船X号(A国船籍)による探査を開始した。2018年9月,サールーガ島沖合のA国とB国との間の係争海域において探査を実施していたX号に対し,B国の沿岸警備隊が,B国の大陸棚の資源の探査活動を即時に停止し,当該海域から立ち去るよう命令した。X号は,資源探査に関してA国から認可を受けていると返信し,探査を続けたところ,B国の沿岸警備隊の船舶から発砲を受けた。そのうちの2発がX号に当たり,負傷者が出たことから,X号はこの発砲の後,A国の港湾に避難した。B国は,この発砲は威嚇射撃であったとの声明を出した。A国はB国に対し,この発砲事件について外交上の抗議を行った。また,A国は紛争の解決のための交渉を速やかに開始し,交渉により紛争が解決できない場合,第三者機関にこれを付託すべきであるとしたが,B国は協議に応じていない。これを受けて,A国は国連海洋法条約第15部に基づき,附属書Ⅶによって組織される仲裁裁判所に,この紛争を付託する旨の通告をB国に送付した。
なお,A国とB国は,国連海洋法条約第287条第1項の下での紛争解決のための手段を選択する宣言,及び第298条第1項に基づく宣言(第二節の規定の適用からの選択的除外に関する宣言)を行っていない。
以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.B国がA国に対し,サールーガ島からの軍隊と警察の撤退を請求するために,国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。
2.B国が,2010年5月からの石油・天然ガス資源の探査,及び2016年8月からの開発を正当化するために,国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。
3.A国が,国連海洋法条約附属書Ⅶによって組織される仲裁裁判所にB国の沿岸警備隊による発砲事件に関する紛争を付託することが可能か,及び,これが可能な場合,沿岸警備隊の発砲の違法性について,国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。
出典:法務省「2021年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。