2021年 司法試験 論文式 経済法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
甲製品は,主要な家庭用電動器具の一つであり,特有の機能・効用を有し,代替品は存在しない。甲製品には,その安全性に関する公的規格が設定されている。
甲製品の国内メーカーとして,従来からX社,A社及びB社の3社があり,令和元年における甲製品の国内販売台数のシェアは,X社が45パーセント,A社が25パーセント,B社が15パーセントであった。また,近年,Y社が参入し,その甲製品のシェアは毎年漸増しており,令和元年において15パーセントであった。先発の3社及びY社以外には,上記の公的規格による甲製品を製造・販売するものはいない。
甲製品は,各種の家庭用電動器具を専門に取り扱う販売店のほか,ホームセンター等の販売店で販売されており,これらの販売店では2社以上の甲製品を取り扱う併売が一般的であるが,後発のY社の甲製品を取り扱っている販売店は限定的である。甲製品の販売店にとっては,メーカーによる販売促進や技術面の支援が重要な意味を持っている。また,甲製品のユーザーは,販売店の助言や推奨によってメーカーを選定する傾向が強い。
X社は,家庭用電動器具の総合メーカーとしてブランド力が強く,また,国内における甲製品の最先発のメーカーとしてユーザーからの知名度も高く,販売店にとってはX社の甲製品を取り扱うことが不可欠である。X社は,その取引先販売店のうち,家庭用電動器具全体を対象にその販売力や技術力等を評価して選定したものをX社の「特約店」として認定し,家庭用電動器具の販売促進や技術面での支援策を総合的に提供する特約店制度を実施しており,X社の甲製品を取り扱う取引先販売店の約60パーセントが特約店となっている(なお,特約店にあっても併売が一般的である。)。こうした事情から,X社は,甲製品について大きなシェアを確保してきたが,近年参入してきたY社の伸長により,そのシェアをやや低下させてきていた。また,A社及びB社は,いずれも甲製品を主体とするメーカーであり,X社に比べればブランド力は強くないが,一定のシェアを維持してきた。他方,Y社の甲製品は,先発の3社の甲製品と比較して相対的に低価格であり,Y社は,そのことを強調した販売戦略により,甲製品の販売台数を増加させてきていた。
こうした状況において,Y社では,その甲製品の更なる販売拡大を目指すこととし,令和2年1月以降,従来Y社の甲製品を取り扱っていない販売店に対して新規の取引を申し入れる取組を強化し始めた。その結果,販売店の中には,Y社の甲製品の取扱いを新たに始めるものが出てきた。これに対し,従来から甲製品のシェアがやや低下してきていたX社は,その原因がY社の甲製品の伸長にあり,特にY社の甲製品をユーザーに積極的に推奨する販売店が存在していること,Y社が新たな取引先販売店の開拓に乗り出したこと,これまで甲製品の価格競争は限定的であったにもかかわらず,相対的に廉価なY社の甲製品の伸長が甲製品全体の価格水準に影響しかねないことに危機感を抱き,次の二つの措置を講じることとした。
まず,X社は,直ちに実施できる措置として,令和2年4月から,Y社の甲製品も取り扱う取引先販売店のうち,Y社の甲製品を積極的にユーザーに推奨しているものに対して個別に,このままY社の甲製品の積極的な推奨を続けると,X社の家庭用電動器具の販売促進や技術面の支援において不利な扱いをする旨示唆している(以下「措置1」という。)。そして,実際にX社から不利な扱いを受けた販売店も出てきており,また,X社の取引先販売店の間では,X社から不利な扱いを受けた販売店があるとの情報が流布している。このため,販売店の中には,X社との取引上不利になることを恐れて,ユーザーに対するY社の甲製品の積極的な推奨を取りやめるものが出てきており,Y社の甲製品の取扱いを検討していたX社の取引先販売店の中には,Y社の甲製品の取扱いを断念したものもある。
次に,X社は,措置1と並行して,特約店制度を利用した措置を採ることとし,令和2年10月から,X社の甲製品を取り扱う特約店に対し,ユーザーに対して専らX社の甲製品を推奨することを約束する場合には,X社の甲製品の販売台数の増加率に応じて家庭用電動器具全体の仕入額を計算基礎とする累進的なリベートを供与する旨提案し,これを実施し始めた。そして,X社は,特約店における上記の約束の履行状況を確認するために,自社の従業員又は第三者による特約店のモニタリングを実施し,必要に応じ,上記の約束を履行していない特約店に対する指導を行っており,改善されない場合には,リベートを供与しないだけでなく,特約店に対する販売促進や技術面での支援策を削減する旨通告している(以上の措置を以下「措置2」という。)。令和2年12月末時点では,X社の甲製品を取り扱う特約店の約半数が上記の約束をしており,措置2により,Y社による新たな取引先販売店の獲得に懸念が生じている。
〔設問1〕
X社による措置1及び措置2のそれぞれについて,独占禁止法に違反するか検討しなさい。
〔設問2〕
問題文に加えて,令和3年5月時点で以下の事情が認められる場合に,X社による措置1及び措置2の全体について,独占禁止法に違反するか検討しなさい。
X社の甲製品を取り扱う特約店のうち,専らX社の甲製品の推奨を約束しているものは,約70パーセントに達している。また,Y社,A社及びB社の甲製品の販売台数にかなりの影響が出ており,その結果,X社の甲製品のシェアは,令和3年第1四半期(令和3年1月から同年3月まで)において60パーセントに達した。さらに,Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店が少なくなり,また,Y社の甲製品を取り扱う販売店が増えていないことから,甲製品の価格水準は,従来どおり安定した状態にある。
出典:法務省「2021年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。