2021年 司法試験 論文式 環境法 第1問
問題
配点 50点[環 境 法]
〔第1問〕(配点:50)
A県は,輸送量の増加に伴う渋滞緩和のため,A県内に6車線の一般国道(以下「本件国道」という。)の新設を計画している。本件国道の新設事業は,環境影響評価法の第一種事業に該当するものであったため,A県は,同法に基づく環境影響評価を実施し,国土交通大臣に対し,法令上必要とされる道路法第74条に基づく認可(以下「本件認可」という。)を申請中である。
A県は,計画段階環境配慮書において,道路の位置について,費用対効果が高いという理由でPルートを設定した。Pルート上のB地区には,A県の固有種で,絶滅危惧種の植物Qの稀少な群生地が存在していたが,道路の新設中止や別ルート設定の検討はなされなかった。
計画段階環境配慮書に対し,B地区に居住し,長年Qの研究・保護活動をしているC,及びA県に拠点を置く自然保護団体である特定非営利活動法人Dは,「輸送量の増加は僅かであるため,国道の新設自体が不要で財政上の無駄である。」,「Qを保護するため,少なくとも別ルートの検討をすべきである。」との意見書をA県に提出した。しかし,A県は,環境影響評価準備書においてQの一部を別の場所に移植する旨を記載するにとどまった。これに対し,C及びDは,「Qの移植が成功した例はなく,環境保全措置が不十分である。」との意見書を提出したが,環境影響評価書にはこの点に関するA県の見解は記載されていなかった。環境影響評価書作成後に,A県がQの移植実験を行ったところ,全株が消滅した。
また,Pルート上には密集市街地のE地区も含まれており,E地区の住民Fらは,計画段階環境配慮書,環境影響評価方法書及び環境影響評価準備書について,「E地区の近くにはG社の石炭火力発電所があり,同発電所による環境負荷との複合影響を検討すべきである。本件国道の供用により,環境基準を超える浮遊粒子状物質(SPM)及び騒音による健康被害や生活環境被害が生じる蓋然性が高く,少なくともE地区についてはトンネル化し,換気所にSPM除去装置を設置すべきである。」との意見書をA県に提出した。環境影響評価準備書及び環境影響評価書には「本件事業により環境基準を超えるSPMや騒音が発生するおそれはない。」と記載されていたが,A県に対するFらの情報公開請求により,SPMに関する予測データの一部が改ざんされていたことが明らかになった。
〔設問1〕
⑴ C,D及びFらは,前記の環境影響評価手続には瑕疵があり,また,環境影響評価法及び【資料】に照らし,国土交通大臣が本件認可をすることは違法であると考えている。本件認可が違法であることの論拠としては,どのようなことが考えられるか,説明しなさい。
⑵ C及びDは,本件国道の新設を阻止するために,どのような行政訴訟を提起することが考えられるか。⑴の検討も踏まえて論じなさい。
〔設問2〕
環境大臣は,環境影響評価法の下で,2015年以来,複数の石炭火力発電所の設置に関して意見表明をした。その内容は,事業者の対応は国の地球温暖化対策の2030年度目標と整合しないため「現段階で是認できない。」とするものであった。このことを重要な契機として,2016年にエネルギー関連の法律の仕組みが,温暖化対策に資するように改正された。この改正経緯には,環境影響評価法の2011年改正が相当程度影響したといわれる。環境影響評価法のどの点の改正か,同法の規定を挙げた上で,改正の趣旨と効果を述べなさい。
〔設問3〕
C,D及びFらは,生物多様性への影響や複数の汚染源による複合影響について適正な環境配慮を行うためには,現在の計画段階環境配慮書制度のみでは限界があり,環境基本法第19条を具体化するために新たな制度の導入が必要であると感じている。ここでいう現行制度の限界及び新たに導入すべき制度として,具体的にどのようなことが考えられるか,説明しなさい。
〔設問4〕
本件国道が設置された後,E地区における大気中のSPMの濃度は環境基準を超え,その後Fらは呼吸器系疾患に悩まされるようになった。これについては,本件国道に起因するSPMとG社の石炭火力発電所から排出されてきたSPMその他の大気汚染物質との競合の可能性も指摘されている。Fらは,①誰に対して,いかなる規定に基づいて損害賠償請求ができるか。また,②請求する場合,いかなる点を主張立証しなければならないか,説明しなさい。
なお,本件国道の道路管理者は,A県とする。また,国に対する請求は考慮しなくてよい。
【資 料】
○ 環境影響評価法施行令(平成9年政令第346号)(抜粋)
(第一種事業)
第1条 環境影響評価法(以下「法」という。)第2条第2項の政令で定める事業は,別表第一の第一欄に掲げる事業の種類ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる要件に該当する一の事業とする。
(以下,略)
(免許等に係る法律の規定)
第3条 法第2条第2項第2号イの法律の規定であって政令で定めるものは,別表第一の第一欄に掲げる事業の種類(第二欄及び第三欄に掲げる事業の種類の細分を含む。)ごとにそれぞれ同表の第四欄に掲げるとおりとする。
(環境の保全の配慮についての審査等に係る法律の規定)
第19条 法第33条第2項各号の法律の規定であって政令で定めるものは,別表第四に掲げるとおりとする。
別表第一(第1条,第3条,第7条関係)(抜粋)
第一欄 事業の種類
1 法第2条第2項第1号イに掲げる事業の種類
第二欄 第一種事業の要件
ホ 道路法(昭和27年法律第180号)第5条第1項に規定する道路(首都高速道路等であるものを除く。以下「一般国道」という。)の新設の事業(車線の数が4以上であり,かつ,長さが10キロメートル以上である道路を設けるものに限る。)
第四欄 法律の規定
事業主体が国土交通大臣以外の者である場合につき,道路法第74条(以下,略)
別表第四(第19条関係)(抜粋)
三 法第33条第2項第3号の法律の規定であって政令で定めるもの
道路法第74条(前後,略)
○ 道路事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(平成10年建設省令第10号)(抜粋)
(位置等に関する複数案の設定)
第3条 第一種道路事業を実施しようとする者は,第一種道路事業に係る計画段階配慮事項についての検討に当たっては,第一種道路事業が実施されるべき区域の位置又は第一種道路事業の規模に関する複数の案(以下「位置等に関する複数案」という。)を適切に設定するものとし,当該複数の案を設定しない場合は,その理由を明らかにするものとする。
2 第一種道路事業を実施しようとする者は,前項の規定による位置等に関する複数案の設定に当たっては,既存の道路を活用する場合その他第一種道路事業を実施しないこととする案を含めた検討を行うことが合理的であると認められる場合には,当該案を含めるよう努めるものとする。
○ 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋)
(国土交通大臣の認可)
第74条 指定区間外の国道の道路管理者は,当該国道を新設し,又は改築しようとする場合においては,国土交通省令で定めるところにより,国土交通大臣の認可を受けなければならない。(以下,略)
○ 道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)(抜粋)
(指定区間外の国道の新設又は改築の認可)
第7条 指定区間外の国道の道路管理者は,法第74条の規定により国道の新設又は改築について認可を受けようとする場合においては,別記様式第九の申請書を地方整備局長又は北海道開発局長に提出しなければならない。
2 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 工事計画書
二 工事費及び財源調書
三 平面図,縦断図,横断定規図その他必要な図面
出典:法務省「2021年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。