2020年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
A国とB国は,隣接する国家である。地理的に,A国はB国の北に位置している。A国の領域内のナーガ山脈を水源とするギリ川等のいくつかの川は,A国領域内のある地点で一つの川に合流する。この合流点から下流の川がナーガ川であり,ギリ川は,ナーガ川となるいくつかの川の中で最も主要な川である。ナーガ川は,上流国A国から下流国B国を貫流する国際河川である。
1975年,A国とB国は,「ナーガ川の利用と流域の環境の保護及び保全のための協力に関する条約」(以下「1975年条約」という。)を締結した。1975年条約の主要な規定は,以下のとおりである。第4条は,両当事国にナーガ川流域の環境の保護及び保全の義務を課している。
第5条は,両当事国にナーガ川の利用状況,水量及び水質等についての年次報告書を提出する義務を課している。第10条は,両国の政府代表と専門家が委員となる「ナーガ川の利用と流域の環境の保護及び保全のための委員会」(以下「ナーガ川委員会」という。)を設立する旨規定している。
第11条は,ナーガ川委員会の任務の一つとして,両当事国が提出する年次報告書の受理及び審査を挙げている。また,第12条は,ナーガ川の利用に関する新たな計画の実施には,ナーガ川委員会に特別報告書を提出し,同委員会の許可を得ることが必要であると規定している。なお,第13条は,ナーガ川委員会の意思決定は全会一致によると定めている。さらに,第19条は,この条約の解釈又は適用に関する紛争で両当事国間の交渉によって解決できないものは,いずれかの当事国により国際司法裁判所に付託できると規定している。
A国には十分な発電施設がなく,自国の火力発電所は必要な電力の10%しか供給できない状態であった。A国は,1980年にB国と「電力の安定供給に関する条約」を締結したほか,1982年には,A国の東側に位置し,B国と国境を接していないC国とも同じ内容の条約を締結した。これらの条約は,B国及びC国それぞれによる安定的な電力供給とA国による対価の支払の義務を規定している。また,それぞれの条約には条約と一体となる附属書が付され,毎年9月の当事国間の協議により,翌年の電力供給量を決定すると規定されている。この附属書により,例年A国は必要な電力量の約50%をB国から,約40%をC国から輸入していた。
2012年9月,A国法人たる甲社が,ギリ川にダム及び水力発電所を建設し,発電事業を行う計画についての認可をA国に申請した。甲社は,この事業によりA国に必要な電力量の20%を供給できるとし,A国のエネルギー安全保障の観点からの重要性を強調した。2013年4月にこの計画は認可され,2018年10月に発電所が稼働を開始した。
A国は,2013年1月にナーガ川委員会に提出した年次報告書で,ギリ川における甲社の計画について簡潔に言及したものの,ナーガ川の利用に関する新たな計画に当たらないので,第12条に基づく特別報告書を提出して,同委員会の許可を得る必要はないとの見解を示した。これに対し,B国は,この計画は下流のナーガ川に大きな影響をもたらす可能性があるため,ナーガ川委員会に計画の詳細と環境影響評価の結果に関する特別報告書を提出して,同委員会の許可を得るべきであると主張した。この計画をめぐるA国とB国の意見の対立が原因となって,ナーガ川委員会は2013年8月以降,実質的な活動ができなくなっている。なお,甲社がA国にこの計画の認可を申請した時から,国際的に定評のある環境団体が,甲社は必要な環境影響評価を実施していないと批判し,計画への反対運動を行ってきた。
2018年10月に甲社の発電所が稼働した後,ナーガ川の水量が40%減少した。またB国の調査によれば,水質も著しく悪化し,ナーガ川の水を水道水として利用してきたB国は,ダムの稼働後,新たな浄水施設を建設しなければならなくなった。このような状況を受けて,2019年3月,B国は,A国との「電力の安定供給に関する条約」を一方的に廃棄し,A国に対する電力供給を完全に停止した。
A国とB国は,国連加盟国であり,条約法に関するウィーン条約の当事国である。なお,両国は,国際司法裁判所規程第36条第2項に基づく選択条項受諾宣言を行っていない。
以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.甲社の計画にA国が認可を与えたことが国際法に違反するとの立場から,B国は慣習国際法又は条約に基づきどのような主張をすることが可能かを論じなさい。
2.B国による「電力の安定供給に関する条約」の一方的廃棄と電力供給の完全な停止が国際法に違反するとの立場から,A国はどのような主張をすることが可能かを論じなさい。
3.B国が,A国との紛争を国際司法裁判所に付託する場合,どのような管轄権の根拠で,いかなる申立てが可能かを論じなさい。また,それに対して,A国はどのような管轄権に関する抗弁を主張できるかを論じなさい。
出典:法務省「2020年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。