2020年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
X社は,電子部品である甲(以下「甲部品」という。)のメーカーである。Y社は,電子機器である乙(以下「乙機器」という。)のメーカーである。X社及びY社は,Y社がX社の全株式を取得することを計画している(以下「本件計画」という。)。
甲部品は,乙機器の製造に不可欠な重要部品の一つである。乙機器の製造原価に占める甲部品の仕入原価の割合は大きくない。乙機器は装置である丙(以下「丙装置」という。)に組み込まれた後に,世界中の産業需要家に販売される。丙装置の製造原価に占める乙機器の仕入原価の割合はごく僅かである。甲部品には,乙機器メーカーを需要者とする組込品のほか,乙機器や丙装置の修理のための交換品も存在するが,交換品の取引規模は小さい。また,甲部品が乙機器以外の製品の製造に用いられることもあるが,それら製品の製造に係る甲部品の取引規模は僅少である。Y社が乙機器以外のそれら製品を製造することはない。
X社やY社を含む甲部品及び乙機器の各メーカーは,複数の国に製造,配送の拠点を有している。また,甲部品及び乙機器ともに,重量に比して価格が高いとの特徴から,輸送費が価格に占める割合は低く,輸送費が取引上の障壁とはならない。そのため,甲部品及び乙機器について,日本を含む世界中の需要者(甲部品については乙機器メーカー,乙機器については丙装置メーカー)は,供給者の所在する国を問わず発注しており,供給者もそれに応じ得る状況にある。次に見る乙機器の仕様の差異に基づく価格差を除けば,甲部品及び乙機器ともに,地域にかかわらず世界における販売価格は実質的に同一である。
最終製品である丙装置は,メーカーの違いにより機能や性能に大きな差異はないが,メーカーごとに仕様が異なる。丙装置の仕様ごとに,乙機器の仕様も若干異なる。ただし,仕様が異なっても,乙機器に係る基本的な製造設備や製造工程は同じであり,製造のために特別な技術を要することもない。丙装置の仕様に応じた乙機器の製造設備の調整の費用は大きなものではないが,製造設備の調整から商業的な乙機器の製造まで2か月から3か月を要する。それら調整は製造設備ごとに行われ,各製造拠点において,丙装置の仕様に対応した仕様の異なる乙機器の製造が可能である。丙装置メーカーは,乙機器メーカーに対して取引上の立場が強い。甲部品は,メーカーの違いにより機能や性能に差異はないほか,丙装置や乙機器とは異なり,いずれのメーカーの仕様も同じである。
全世界における甲部品の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は,X社が約50パーセント,A社が約45パーセント,B社及びC社がそれぞれ約5パーセント未満である。これらメーカー間では活発な競争が行われてきたところ,製造設備の更新期にあったA社は,工場を新設するなどして製造設備を増強した。その結果,A社には十分な製造余力がある。また,B社にも若干の製造余力がある。他方,X社及びC社に製造余力はない。甲部品の製造には高額な設備を要することから,投下資本を回収するために製造設備の稼働率を高く維持することが,甲部品の各メーカーにとって,経営上重要になっている。
次に,全世界における乙機器の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は,D社が約40パーセント,Y社が約30パーセント,E社が約20パーセント,F社が約10パーセントである。D社は甲部品のほとんどをA社から購入している。Y社は甲部品の多くをX社から購入しているが,安定調達の観点から,A社,B社及びC社から購入する分もある。E社及びF社は,いずれも甲部品のほとんどをX社から購入している。Y社及びF社に製造余力がない一方で,D社及びE社には若干の製造余力がある。D社及びE社は,製造余力を活用すべく,甲部品を含む乙機器の製造に要する部品について,入札手続の導入等によるより良い条件での調達を模索している。さらに,E社は,必要となる甲部品の一部を自ら製造することを計画しており,今後2年以内に,少量ではあるがその商業的な製造が開始される見込みである。
なお,F社は,X社から,甲部品以外の製品を相当量購入している。X社におけるF社との取引の多くは,甲部品以外の製品に係る取引で占められており,X社にとってF社は,甲部品以外の製品について極めて重要な顧客である。他方,それら甲部品以外の製品について,F社がX社以外の取引先を確保することは容易である。
〔設 問〕
本件計画について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点を検討しなさい。
出典:法務省「2020年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。