2020年 司法試験 論文式 環境法 第1問
問題
配点 50点[環 境 法]
〔第1問〕(配点:50)
A社は,B県内に所有する自社の事業所の敷地に,製造プラント工場を数棟保有し稼働させていたが,このうちにはトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物を使用し,これらを含む排水を排出する施設(水質汚濁防止法第2条第2項にいう特定施設に該当するものとする。)を伴う甲工場があったところ,A社は,事業の見直しに伴って,この甲工場を廃止して解体・撤去した。しかし,この際に,A社は,何らの措置を採ることなく,甲工場の跡地の区画(公道で区切られることなく,かつ,事業所関係者以外の立入りはない。)をそのまま引き続き自社の将来の事業用地として保有し続けていた。
A社は数年後に,この甲工場跡地に新たに乙工場を建設することを計画し,そのため甲工場跡地を,約1500平方メートルにわたって深さ数メートル程度掘り下げ,ここで発生した土壌を,自社の従業員に運搬させ,乙工場建設現場から離れており,事業所敷地内ではあるが敷地境界近くにある自社用地で長年空き地のままに放置されていた広場に運んで積み上げ保管した。
ところで,この広場の敷地境界を挟んだ隣地には,C市によって児童公園が設置されており,公園内の井戸の揚水機によってくみ上げた井戸水はB県の地域防災計画により災害時の用水として利用されることとされていたほか,さらに,井戸水を利用した池も設置されていて,夏には近所に住むDらの子を含む子どもたちがこの池で泳いだり,水遊びをしていた(なお,C市は,土壌汚染対策法(以下「土対法」という。)第64条による権限の委任を受けていない。)。
〔設問1〕
土対法の下で,⑴A社がこの甲工場を廃止し,解体・撤去をした後に,本来採るべきであった措置は何か。また,その措置が免除されるのは,どのような場合か。⑵数年後に,乙工場の設置準備のための工事を行った際,A社が本来採るべきであった措置は何か。それぞれにつき,資料も参照の上で,説明せよ。
〔設問2〕
A社が広場に積み上げて保管していた土壌に含まれていたトリクロロエチレンなどの発がん性のある揮発性有機化合物が,地下に浸透して地下水を汚染し,隣接する公園内の井戸水等を経由して,公園内の池の水をも汚染していることが新聞で報じられたため,Dらは不安を感じている。この場合にDらから相談を受けたB県知事は,A社に対していかなる法的措置を採り得るか,説明せよ。
〔設問3〕
Dらが,直接,A社に対して採ることが可能な法的請求があるか,論ぜよ。
【資 料】
〇 土壌汚染対策法施行令(平成14年11月13日政令第336号)(抜粋)
(土壌汚染状況調査の対象となる土地の基準)
第3条 法第5条第1項の政令で定める基準は,次の各号のいずれにも該当することとする。
一 次のいずれかに該当すること。
イ 当該土地の土壌の特定有害物質(法第2条第1項に規定する特定有害物質をいう。以下同じ。)による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことが明らかであり,当該土壌の特定有害物質による汚染に起因して現に環境省令で定める限度を超える地下水の水質の汚濁が生じ,又は生ずることが確実であると認められ,かつ,当該土地又はその周辺の土地にある地下水の利用状況その他の状況が環境省令で定める要件に該当すること。
ロ 当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態がイの環境省令で定める基準に適合しないおそれがあり,当該土壌の特定有害物質による汚染に起因して現にイの環境省令で定める限度を超える地下水の水質の汚濁が生じていると認められ,かつ,当該土地又はその周辺の土地にある地下水の利用状況その他の状況がイの環境省令で定める要件に該当すること。
ハ (略)
二 次のいずれにも該当しないこと。
イ 法第7条第4項に規定する技術的基準に適合する汚染の除去等の措置(法第6条第1項に規定する汚染の除去等の措置をいう。以下同じ。)が講じられていること。
ロ (略)
〇 土壌汚染対策法施行規則(平成14年12月26日環境省令第29号)(抜粋)
(使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査)
第1条 土壌汚染対策法(平成14年法律第53号。以下「法」という。)第3条第1項本文の報告は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める日から起算して120日以内に行わなければならない。ただし,当該期間内に当該報告を行うことができない特別の事情があると認められるときは,都道府県知事(土壌汚染対策法施行令(平成14年政令第336号。以下「令」という。)第10条に規定する市にあっては,市長。以下同じ。)は,当該土地の所有者等(法第3条第1項本文に規定する所有者等をいう。以下同じ。)の申請により,その期限を延長することができる。
一 当該土地の所有者等が当該有害物質使用特定施設(法第3条第1項に規定する有害物質使用特定施設をいう。以下同じ。)を設置していた者である場合(同項ただし書の確認を受けた場合を除く。) 当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された日
二,三 (略)
2,3 (略)
(人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の確認)
第16条 法第3条第1項ただし書の確認を受けようとする土地の所有者等は,次に掲げる事項を記載した様式第三による申請書を提出しなければならない。
一~五 (略)
2 (略)
3 都道府県知事は,第1項の申請に係る同項第4号の土地の場所が次のいずれかに該当することが確実であると認められる場合に限り,当該土地の場所について,法第3条第1項ただし書の確認をするものとする。
一 工場又は事業場(当該有害物質使用特定施設を設置していたもの,当該工場又は事業場に係る事業に従事する者その他の関係者以外の者が立ち入ることができないものに限る。)の敷地として利用されること。
二 当該有害物質使用特定施設を設置していた小規模な工場又は事業場において,事業の用に供されている建築物と当該工場又は事業場の設置者(その者が法人である場合にあっては,その代表者)の居住の用に供されている建築物とが同一のものであり,又は近接して設置されており,かつ,当該居住の用に供されている建築物が引き続き当該設置者の居住の用に供される場合において,当該居住の用に供されている建築物の敷地(これと一体として管理される土地を含む。)として利用されること。
三 (略)
4,5 (略)
(法第4条第1項の土地の形質の変更の届出の対象となる土地の規模)
第22条 法第4条第1項の環境省令で定める規模は,3000平方メートルとする。ただし,現に有害物質使用特定施設が設置されている工場若しくは事業場の敷地又は法第3条第1項本文に規定する使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場若しくは事業場の敷地(同項本文の報告をした工場若しくは事業場の敷地又は同項ただし書の確認を受けた土地を除く。)の土地の形質の変更にあっては,900平方メートルとする。
(法第4条第1項の土地の形質の変更の届出を要しない行為)
第25条 法第4条第1項第2号の環境省令で定める行為は,次に掲げる行為とする。
一 次のいずれにも該当しない行為
イ 土壌を当該土地の形質の変更の対象となる土地の区域外へ搬出すること。
ロ 土壌の飛散又は流出を伴う土地の形質の変更を行うこと。
ハ 土地の形質の変更に係る部分の深さが50センチメートル以上であること。
二~五 (略)
(土壌汚染状況調査の対象となる土地の土壌の特定有害物質による汚染状態に係る基準)
第28条 令第3条第1号イの環境省令で定める基準は,土壌溶出量基準とする。
2 令第3条第1号ハの環境省令で定める基準は,土壌含有量基準とする。
(地下水の水質の汚濁に係る限度)
第29条 令第3条第1号イの環境省令で定める限度は,地下水基準とする。
(地下水の利用状況等に係る要件)
第30条 令第3条第1号イの環境省令で定める要件は,地下水の流動の状況等からみて,地下水汚染(地下水から検出された特定有害物質が地下水基準に適合しないものであることをいう。以下同じ。)が生じているとすれば地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる区域に,次の各号のいずれかの地点があることとする。
一 地下水を人の飲用に供するために用い,又は用いることが確実である井戸のストレーナー,揚水機の取水口その他の地下水の取水口
二 (略)
三 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条第1項の都道府県地域防災計画等に基づき,災害時において地下水を人の飲用に供するために用いるものとされている井戸のストレーナー,揚水機の取水口その他の地下水の取水口
四 (略)
〇 水質汚濁防止法施行令(昭和46年6月17日政令第188号)(抜粋)
(カドミウム等の物質)
第2条 法第2条第2項第1号の政令で定める物質は,次に掲げる物質とする。
一~八 (略)
九 トリクロロエチレン(以下,略)
出典:法務省「2020年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。