司法試験論文式過去問演習

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2019年 司法試験 論文式 労働法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

加工食品の製造販売を行うY社には,正社員で組織するX労働組合(以下「X組合」という。)が存在し,組合員資格のない管理職等を除けば,正社員のほぼ全員がこれに加入していた。

Y社とX組合は毎年,春闘の団体交渉により,賃金改定や夏冬の賞与などの労働条件を合意し,4月1日付けで期間1年の労働協約を締結してきた。また,上記労働協約とは別に,組合費のチェックオフ,掲示板の貸与及び苦情処理委員会等,労使間のルールに関する期間の定めのない労働協約(以下「本件労働協約」という。)があった。本件労働協約には,第27条から第29条までに掲示板の貸与についての規定が置かれていたほか,労使各3名の委員で構成される苦情処理委員会に関する規定が置かれており,人事評価,昇給・降給,賞与査定等について,同委員会で組合員からの苦情を受け付けて,労使の委員で協議するものとされていた。また,第51条に苦情処理委員会の運営に関する定めがあった。

ところで,Y社の賞与には,固定部分と変動部分があり,固定部分について労使交渉で基準支給率を定めた上で,変動部分については,固定部分の額の20%を上限として,上司による賞与査定に応じて加算される仕組みとなっていた。

X組合の組合員である女性社員Aは,平成30年冬期賞与支給に際して,変動部分における加算をゼロとされたため,以前に上司からの飲食の誘いを何度か断ったことが原因ではないかとして,X組合に相談の上,平成31年2月,苦情処理委員会に申立てをした。

苦情処理委員会で,会社側委員は,上司からの事前のヒアリングを基に,Aの賞与査定が低い理由は,Aが電車が遅れたと言っては度々5分ないし10分の遅刻をしたこと,業務上のミスが多かったことであると説明した。これに対し,X組合側委員は,遅刻やミスの事実はあるがいずれも加算ゼロとするほどの問題ではない,Aが上司の誘いを断ったことが真の原因ではないか,そうだとすると低査定は対価型セクシュアルハラスメントに該当すると主張し,事実無根である,二人きりの飲食に誘った事実はないと聞いているとする会社側委員と議論になり,長時間を費やしたが,協議は平行線のままで終了した。

そこで,X組合は,Aの賞与査定の問題に関して改めて団体交渉を要求したが,Y社は,そもそも個人の査定等の問題は集団的労使交渉にはなじまないから,労使合意により苦情処理委員会を設置したのであり,また,苦情処理委員会で労使の委員が長時間にわたって議論した結果,物別れに終わっており,これ以上説明することはないとして団体交渉に応じなかった。

Y社の態度に反発したX組合は,掲示板を利用して組合員に状況を報告することとし,苦情処理委員会におけるY社側の主張を紹介した上で,不当な賞与査定である,上司によるセクハラ行為である,Y社の対応はセクハラを隠蔽しようとするものでコンプライアンス上重大な問題がある,Y社は正当な理由なく団体交渉を拒否していると非難するビラを作成し,掲示板に掲示した。

Y社は,X組合に対し,当該ビラ掲示は,本件労働協約に違反するものであるから直ちに掲示を中止するよう通告したが,X組合が対応しなかったため,翌日,本件労働協約第29条に基づき当該ビラを撤去した。

X組合がこれに猛然と反発したため,春闘の団体交渉は難航し,合意に至らなかったところ,Y社は,労使間の信頼関係は既に破壊されているとして,本件労働協約について,書面により90日前の解約予告をした。また,Y社は,本件労働協約が失効すれば,使用者が組合費について賃金控除を行う法的根拠が失われると主張して,X組合に対して,本件労働協約の失効後は組合費のチェックオフを中止する旨を通告した。

【本件労働協約(抜粋)】

第27条 会社は,X組合に対し,X組合が組合活動に必要な宣伝,報道,告知を行うための掲示板を貸与する。

第28条 掲示物は,会社の信用を傷つけ,政治活動を目的とし,個人をひぼうし,事実に反し,又は職場規律を乱すものであってはならない。

第29条 会社は,X組合が前条の規定に違反した場合は,掲示物を撤去し,掲示板の貸与を取り消すことができる。

第51条 苦情処理委員会は非公開とし,委員会の委員及び関係者(苦情を申し立てた者,委員会によるヒアリングの対象となった者を含む。)は,苦情処理に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。

〔設 問〕

1.X組合が,Y社の本件労働協約第29条に基づくビラの撤去について争う場合,どのような機関にどのような救済を求めることができるか。検討すべき法律上の論点を挙げて論じなさい。

2.Y社が,解約予告から3か月後の給与支給日以降,実際にチェックオフを中止した場合,X組合は,どのような機関にどのような救済を求めることができるか。検討すべき法律上の論点を挙げて論じなさい。

出典:法務省「2019年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。