2019年 司法試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
【事 例】
Xは,数軒の飲食店と娯楽施設を経営するY社に中途採用で雇用され,飲食店の1つで接客係として勤務していた。当初は6か月の期間を定めた契約社員であったが,契約を更新し,採用から1年が過ぎたところで期間の定めのない常勤スタッフとなり,頑張れば将来は店長や本部のマネージャーに昇進することも可能と言われていた。ところが,その1年後,新たな店長としてPが着任すると,なぜか折り合いが悪く,ささいなミスや客からのクレームを理由に,しばしば叱責を受けるようになった。半期ごとの成績評価でも,それまでの「標準,やや良」(B+)から「要改善」(C)へと低下したため,Pとの面談の際に納得できない旨を伝えたが,「その自覚のなさは絶望的だな。次回,不良(D)がつくと居場所はなくなるぞ。」と言われるだけであった。Xとしては,他の同僚と同等以上の仕事をしているのにPに狙い撃ちにされているように思われ,ストレスが高まった。
そのような中で,ある日の始業時のスタッフ・ミーティングの際,全員が集まったところで,PがXを前に呼び出し,前日に生じた客との小さなトラブルを非難して「勤務改善の誓い」と題された1枚の文書にサインするよう求めたため,Xは「いい加減にしてください。」と大声で叫び,同文書を破り捨てた。すると,Pは,そのまま自分の勤務に就こうとしたXにオフィスで待機するよう命じ,直ちに本社に連絡をして親戚に当たる社長Qの了解を得た上で,Xに即日解雇を言い渡した。Xが,どのような解雇理由なのかと尋ねると,Pは,「勤務成績不良と上司への反抗。本来なら懲戒解雇にしてもよいところであるが,温情措置として普通解雇の扱いとしてもらった。後で人事部から連絡があるはずだ。」と言い,ロッカーの私物をまとめてすぐに帰宅するよう命じた。その日の午後,Y社の人事部からXの携帯電話にメールで,①本日付けでY社はXを解雇する,②解雇理由は就業規則第32条第2号,第4号及び第7号である,③就業規則第33条ただし書に該当するので,同条本文の予告及び予告手当の支払は行わない,④退職手当は後日Xの銀行口座に振り込む,という4点が記された文書(解雇通知書)が送られてきた。
Xは翌日,Y社の人事部に電話をし,一晩考えてみたがやはりひどすぎると解雇の撤回を求めたが,担当者からは,解雇通知書に記した理由による正当な解雇である,それ以上に説明することはない,との回答しか得られなかった。また,Xは勤務していた店舗に出向いてPに面談を求めたが,Pは不在とのことであった。Xはやむなく立ち去ったが,帰り際,副店長のRに「こんな解雇は承服できない。知り合いの弁護士に頼んで裁判を起こしてやる。」と言った。Rは後刻,これをPに報告した。
【Y社就業規則(抜粋)】
第20条(退職手当)
従業員が死亡又は退職したときには,別に定める規程(略)に従い,退職手当を支払う。
第32条(解雇)
従業員が,次の事由の一つに該当するときには,解雇する。
1 (略)
2 能力不足又は勤務成績が不良で改善の見込みがないとき。
3 (略)
4 協調性又は責任感を欠き,従業員として不適格と認められるとき。
5・6 (略)
7 その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき。
第33条(解雇の予告)
前条の解雇に当たっては,少なくとも30日前に予告をするか,予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。但し,本人の責めに帰すべき事由による解雇については,この限りではない。
第40条(懲戒解雇)
従業員が,次の事由の一つに該当するときには,懲戒解雇を行う。この場合,第20条に定める退職手当は支給しない。
1 重要な経歴を詐称して,又は不正な方法により,採用されたとき。
2・3 (略)
4 業務命令に従わず,会社の規律又は正常な業務を妨害したとき。
5~7 (略)
〔設 問〕
1.Xから解雇を争いたいという相談を受けた弁護士は,本件解雇の適法性や効力について,どのように考えるべきか。請求や主張の仕方にも触れながら,あなたの意見を述べなさい。
2.Xが訴訟を起こすかもしれないというPからの連絡に基づき,Y社の人事部が,保存してあったXの採用時の応募書類をチェックしてみると,ホテル専門学校を卒業したとして添付されていた証明書のコピーに不審な点が見つかった。そこで調査を行ったところ,このコピーは偽造であり,Xは当該専門学校に入学したものの,中途で退学していたことが判明した。
Xが本件解雇の無効を主張してY社を相手に訴訟を提起した場合,Y社は,この応募書類の問題について,どのような対応を採ることが考えられるか。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。
出典:法務省「2019年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。