2019年 司法試験 論文式 国際関係法(私法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
X男は甲国に常居所を有する甲国人詩人であり,Y女は日本に常居所を有する日本人である。Xの弟A男は日本に居住しており,Yは過去にAと交際していた。
Yは,日本において日本語の小説(以下「被告小説」という。)を執筆し,日本のインターネットコンテンツプロバイダーC社の運営しているブログにこれを公表した。被告小説は,いわゆるモデル小説であり,AやXをモデルとしている(Xがモデルであることには当事者間に争いがない。)。被告小説中には,Xが甲国において出版した詩集に掲載されている詩(以下「本件詩」という。)の日本語訳が無断で掲載されているほか,Xに窃盗癖があるとの記述や,Xが精神疾患を患っていたとの記述もあった。
Xは,Cに対して被告小説の削除依頼をし,それは削除された。しかし,被告小説は,削除されるまでの間,甲国及び日本において,Xの知人たちを含む多数の人々に閲覧されていた。Xは,Yに損害賠償を求めて交渉したが,Yはこれに応じない。
下記の〔設問1〕〔設問2〕は,それぞれ,この事件がこの後異なった経過をたどったことを前提とする独立の問題である。
〔設問1〕
Xは,Yに対して以下のような訴えを日本の裁判所に提起した。
① 上記の窃盗癖の記述がXの名誉を毀損すると主張して慰謝料を請求した。
② 上記の精神疾患の記述がXのプライバシー権を侵害すると主張して慰謝料を請求した。
③ 本件詩の翻訳の掲載がXの有していた本件詩に関する日本における著作権及び甲国における著作権(具体的には,著作権に含まれる支分権の1つである翻訳権)を侵害すると主張して,損害賠償を請求した。
上記の各請求について判断するに当たり適用すべき準拠法の決定について論じなさい。国際裁判管轄権について論じる必要はない。なお,甲国は,文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(昭和50年条約第4号)の同盟国である。
(参照条文)文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(昭和50年条約第4号)(抜粋)
第5条〔保護の原則〕
⑴ 著作者は,この条約によつて保護される著作物に関し,その著作物の本国以外の同盟国において,その国の法令が自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が特に与える権利を享有する。
⑵ ⑴の権利の享有及び行使には,いかなる方式の履行をも要しない。その享有及び行使は,著作物の本国における保護の存在にかかわらない。したがつて,保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は,この条約の規定によるほか,専ら,保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。
⑶ 著作物の本国における保護は,その国の法令の定めるところによる。もつとも,この条約によつて保護される著作物の著作者がその著作物の本国の国民でない場合にも,その著作者は,その著作物の本国において内国著作者と同一の権利を享有する。
(以下略)
〔設問2〕
Xは,Yに対し,被告小説中のXの窃盗癖に関する記述がXの名誉を毀損すると主張して,甲国の裁判所に不法行為に基づく慰謝料を請求する訴えを提起した。
Yは,これに応訴しないでいたところ,甲国裁判所は甲国法を準拠法として,X勝訴の判決(以下「本件外国判決」という。)を言い渡し,本件外国判決は確定した。
しかし,Yは甲国には財産を有していなかったので,Xは,日本の裁判所に本件外国判決に基づく執行判決を求める訴えを提起した。
本件外国判決が日本における執行判決に係る他の要件を全て満たしているとして,次の各小問に答えなさい。次の各小問は,いずれも独立した別個の問題である。
〔小問1〕
本件外国判決は,下記の甲国民法P条を適用し,慰謝料に加えてその3倍程度の金額の懲罰的損害賠償請求も認容したものであった。
そこで,Xは,日本の裁判所において,本件外国判決に基づき,慰謝料及び懲罰的損害賠償の双方について執行判決を求めている。
Xの執行判決請求は認められるか。
なお,甲国法上,懲罰的損害賠償を得た者には,その一部を国,州その他の公的団体に納める義務はなく,その使途にも制限はない。
【甲国民法】
P条 契約から生じる義務以外の義務への違反に基づく訴訟においては,明白かつ確信を抱くに足る証拠によって,被告が抑圧,詐欺又は害意ある行為を犯したことが証明された場合には,原告は,現実の損害に加えて,見せしめのため被告に懲罰を科すための損害賠償を請求することができる。
〔小問2〕
本件外国判決に係る訴訟の訴状及び期日呼出状は,甲国法に従い,いずれもXの代理人弁護士からYに対し,日本語への翻訳文を添付し,訴訟に対応できる時間的余裕をもって,国際書留郵便によって直接郵送されていた。
Xの執行判決請求は認められるか。
出典:法務省「2019年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。