司法試験論文式過去問演習

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2019年 司法試験 論文式 経済法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

各種の医療・ヘルスケア製品の研究,開発,製造及び販売を行うX社及びY社(以下「当事会社2社」という。)が,Y社を存続会社とする吸収合併を行う計画(以下「本件計画」という。)を検討している。当事会社2社は,日本法人であり,国内外に製造及び販売拠点を有し,国内外での販売拠点を経由して,製品を国内外の医療機関等に販売している。

点滴静脈注射(以下「点滴」という。)の器具(以下「点滴関連製品」という。)としては,点滴容器,点滴チューブ,点滴針等があり,点滴容器と点滴チューブと点滴針を組み立てて点滴は実施される。点滴針のうち針甲は,一時的かつ短時間の点滴に用いられる。針甲以外に,持続的に点滴を行う目的で使用される点滴針である針乙が存在するが,針甲とは形状も異なり,針乙を用いて一時的かつ短時間の点滴を行うことはできない。

点滴針の流通は,製造販売業者から流通業者を経て,需要者である病院等の医療機関が購入するという実態にある。点滴針について,国内の製造販売業者,国外の製造販売業者の日本法人又は輸入総代理店が個々の製品を国内で販売するためには,それぞれ,点滴針の種類別に用途を特定して,法律に基づく承認(以下「販売承認」という。)を受けなければならない。したがって,国内での販売が認められる針甲は,販売承認を受けたものに限定されており,需要者である医療機関も,販売承認を受けた製品のみを購入・使用している。このような承認制度の下,現時点で販売承認を受けた針甲を国内向けに供給している製造販売業者は,当事会社2社及びA社の合計3社である。

平成30年度における針甲のメーカー別国内販売シェアは,A社が45パーセント,X社が30パーセント,Y社が25パーセントである。針甲以外にも,当事会社2社のいずれもが製造販売している製品はいくつか存在するが,それらの製品については,当事会社2社のシェアは小さく順位も低く,当事会社2社以外に競合事業者が多数存在している。

A社は,国外で販売する針甲を国内向けに振り向けることで国内向け供給量を増やすことができる。ただし,針甲の全世界でのメーカー別販売シェアを見ると,当事会社2社の合算シェアは65パーセント,A社のシェアは20パーセントであり,A社の国内向けの供給余力は十分ではない。A社が針甲の生産を第三者に委託することで,国内向け供給量を増やすことは可能であるが,かかる第三者は現時点では見当たらない。

現在,国外において当事会社2社及びA社以外に針甲を製造販売している事業者は,少数である。また,当該事業者が製造する針甲については,これまで国内で販売実績はない。一般に,国内の医療機関は,国内で販売実績のない医療製品を購入することはまれである。

新規参入事業者が針甲を開発して国内で販売しようとする場合,当事会社2社及びA社の既存製品と同等の機能では,実績のない新規参入事業者から針甲を調達する医療機関は少ないため,新規参入には既存製品にはない機能を付加して参入する必要があると考えられている。しかしながら,そのような新製品の開発には一定の期間や投資を必要とする。

一定規模以上の病院では,医療製品の購入に際して,見積り合わせ等による競争的な購入方法を採ることが一般的である。医療機関は,このような購入方法により低価格での購入を試みている。反面,医療機関としての規模の大小にかかわらず,実際の製品選択は使用者である看護師等の意見を聞きながら医師が行っている場合が多く,医師は製品の品質及び使い慣れを重視して製品を選択する傾向がある。針甲についても,異なる製造販売業者の製品の間で使用方法に若干の違いがあることから,医師は頻繁には他の製造販売業者の製品に変更しない傾向がある。

〔設問1〕

本件計画について,独占禁止法上の問題点を検討しなさい(企業結合に関する独占禁止法上の届出基準は充足されているものとする。)。

〔設問2〕

公正取引委員会の企業結合審査において,企業結合により独占禁止法上の問題が生ずると判断される場合,当該問題を解消するために企業結合当事者が企業結合計画の修正を試みることがある。上記設例において,公正取引委員会が本件計画に対して独占禁止法上の問題が生ずると判断した場合,当事会社2社が本件計画についてどのような修正を試みることによって独占禁止法上の問題を解消できるか,以下の事実を前提に,当該修正が競争に及ぼす影響を踏まえて検討しなさい。

点滴関連製品を取り扱っている国内流通業者6社(以下「6社」という。)のうちの1社であるM社は,針甲と同時に使用される点滴関連製品である点滴チューブ丙について15パーセントの販売シェアを有している。6社の取扱製品には差異はあるものの,針甲及び点滴チューブ丙を含む点滴関連製品については競合流通業者の間で激しい販売競争が展開されており,シェアの変動もある。このような競争状況を反映して,点滴関連製品の製造販売業者も,取引先流通業者の変更や取引内容の随時見直しを行うことが可能である。

本件計画が検討されている現時点において,M社は,針甲の製造も販売も行っていない。しかし,M社は,過去にX社製の針甲を販売し,一定のシェアを獲得した実績もあり,針甲の販売を行う十分な経験及び能力を有している。なお,X社製の針甲の販売に関するノウハウの蓄積があれば,他社製の針甲についても,競合事業者との競争の中で販売を行うことは可能である。また,M社は,針甲の製造経験はないものの,製造を行うための設備や人材,ノウハウ等を包括的に取得できれば,それらを有効に活用する能力を有している。

M社は,点滴関連製品の国内販売で豊富な実績を有していたが,点滴に必要な一連の器具のうち点滴針の品ぞろえに弱点があった。M社が,針甲の製造を含む供給手段を獲得し,針甲を取り扱うこととなれば,かかる弱点を克服することができる。そのため,M社が針甲の事業を営もうとするインセンティブは高い。

M社は,当事会社2社及びA社との間に,株式の保有や役員兼任等の資本関係・人的関係を有していない。

出典:法務省「2019年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。