司法試験論文式過去問演習

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2018年 司法試験 論文式 労働法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

医療機器の製造及び販売等を行うY社には,従業員で組織するZ労働組合(以下「Z組合」という。)が存在し,かつては管理職を除く全従業員が加入していたが,近年は加入率が低下して60パーセント前後となっている。Y社とZ組合との間には,労使関係に関する基本協定が期間の定めのない形で締結され,同協定において,組合事務所及び掲示板の貸与並びに組合費のチェックオフ等が定められている。また,Y社とZ組合は,毎年1月から3月にかけて,賃金及び一時金等に関する団体交渉を行っており,例年,遅くとも3月中旬までに交渉が妥結して労働協約が締結され,Y社は同月内に,その内容を反映した就業規則の改訂を行ってきた。

Y社の業績は,ここ数年,辛うじて赤字は免れているものの,低迷が続いており,平成29年秋,投資ファンドを運営するP社がY社の株式の過半数を取得すると,経営陣を大幅に入れ替え,他の業界からスカウトしてきたAを社長に就任させた。Aは,着任時の従業員へのメッセージの中で,①Y社の近年の業績不振の原因は,厳しさを増す経営環境に対して労使とも危機意識を持たないまま,ぬるま湯的な経営を行ってきたことにある,②これを抜本的に改めるため,来年度から2年間,全従業員の基本給を10パーセント削減する,③ただし,経営改革による生産性向上によって業績が好転した場合には,2年目以降,個々の労働者の成果に応じる形で夏季・年末一時金の中に反映させていく,という方針を打ち出した。

これを受けて,平成30年1月に始まった第1回目の団体交渉の冒頭,人事部長Bを従えて自ら出席したAは,Z組合が提出した3パーセントの賃上げ要求は認識が甘すぎると批判し,同年4月から2年間,基本給を10パーセント引き下げる旨の労働協約案を提示して,直ちに受諾するよう求めた。Z組合側は反発し,副委員長Cが,これまで賃金引下げは行われたことはなく,今それが必要であることの説明も全く不十分だと指摘し,強い言葉で協約案の撤回を求めたが,Aは,経営再建のために不可欠な措置であると反論し,そのまま物別れに終わった。次の第2回目の団体交渉でも同様のやり取りが行われ,苛立ったCが,Y社やAを激しく非難する発言をすると,Aは,「Z組合がそのような態度を取り続けるならば,基本協定の解消を含む労使関係そのもののリセットを考えざるを得ない。」と述べた。

その後,Z組合は執行委員会を開催し,今後の団体交渉の進め方について協議した。Cは,争議行為も辞さない覚悟で強く闘うべきだと主張したが,委員長Dが,「組合員の多くもY社の方針はやむを得ないと考えているようであり,このまま強硬な態度を取れば脱退者が続出しかねない。今は我慢の時ではないか。」と述べて,2年間に限定した基本給の10パーセント削減に応じる態度を示した。Cは驚き反対したが,他の出席者からは,Dの考えを支持する発言が相次ぎ,今後,見返りとして他の条件の改善を求めることが可能かどうか,交渉の中で探っていくこととなった。

しかし,Cはこれに納得できず,親しい友人であるZ組合の組合員E及びFと共に,Y社を批判するビラを作成した。C,E及びFの3名(以下「Cら」という。)は,翌朝,勤務時間の開始前に,オフィス街にあるY社の本社社屋の前で,Z組合の組合旗とのぼりを立て,拡声器を使って演説を行いながら,1時間にわたり,このビラを通行人に配布した。ビラには,「Y社の驚くべき賃下げ提案を糾弾する!」というタイトルの下に,「A社長の独断専行」,「経営の責任を転嫁」,「あれが誠実団交か?」,「企業再生の美名と内実」などの見出しが並び,Y社とAのほか,P社及びその代表を務めるQに対する批判も書かれており,末尾に「Z組合有志」と記載されていた。また,C個人の管理するウェブサイトに,ビラの全文や抗議活動の写真を,誰でも見ることができる形で掲載した。

Y社は,Z組合に対し,A名義の文書で,①Cらの行動は就業規則の懲戒事由(会社の名誉・信用を失墜させる行為)に該当するので,戒告の懲戒処分に付する予定であるが,Y社とZ組合の信頼関係も大きく損なわれてしまった,②この信頼関係を回復させるためには,Cらについて,Z組合自身が一定の処分を行うなど,毅然とした対応を示すことが必要である,と通告した。

これを受けたDは,現在の状況を考えると,Cらに対し,Z組合としても何らかの処分を行う必要があると考えている。また,Cを団体交渉の担当から外すとともに,これ以上交渉が長引くと更に組合内部で分断が拡大しかねないので,平成30年3月中旬に予定されている次回の団体交渉の席で,Y社の提示した労働協約案を受け入れて調印することを決意した。

なお,Z組合の組合規約には,次のような規定がある。

第3条 委員長は組合を代表してその業務を統括する。

第10条 組合員が次の各号のいずれかに該当したときは統制処分の対象とする。

1 組合規約又は機関の決定に違反したとき。

2 組合の統制秩序を乱したとき。

3 組合の運営,事業の発展を阻害する行為のあったとき。

第11条 統制処分は戒告,権利の一時停止,解任,除名の4種とする。

第12条 統制処分は組合大会の決議により行う。ただし,事態急迫の場合には執行委員会の決議により行うこともできる。この場合には,次の組合大会で報告して承認を得るものとする。

〔設 問〕

1.Cらは,Y社が自分たちに懲戒処分を行うことは不当労働行為に当たると主張している。これに関して検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。

2.Dは,Y社との関係を修復するために,Cらに権利の一時停止の統制処分を行おうと考えている。その場合に検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。

3.Dが次回の交渉の席でY社の労働協約案に調印した場合,Z組合の組合員に対していかなる効力が生じるかについて,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。なお,調印後に予想されるY社の就業規則の変更について論じる必要はない。

出典:法務省「2018年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。