司法試験論文式過去問演習

過去問の答案を投稿・採点

2018年 司法試験 論文式 労働法 第1問

問題

配点 50点

[労 働 法]

〔第1問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

Y社は,建物の管理及び警備の請負等を目的とする株式会社であり,A病院から保安及び管理業務を請け負っている。Xは,Y社の従業員であり,平成27年4月以降,A病院に警備員として配置され,病棟等の複数の医療関連施設内外のモニター監視,病院施設全体の巡回監視並びに病院施設の空調設備及び医療関連設備の点検及び管理のほか,災害や事故等の突発的事態への緊急対応業務に従事している。

Y社の就業規則が定める変形労働時間制による勤務シフトにより,Xは,二人一組の体制で,午前9時から翌朝の午前9時までの24時間勤務に就いていた(以下このような勤務体制を「二人勤務体制」という。)。二人勤務体制については,24時間勤務に対して,1時間の休憩時間のほかに7時間の仮眠時間が与えられるところ,二人が交代で仮眠時間を取ることとし,一人が仮眠時間を取っているときは,原則として,もう一人が守衛室でモニター監視を行うとともに,適宜病院施設の巡回及び点検を行うこととするが,緊急対応の必要がある突発的事態が生じた場合には,仮眠時間中の者も随時その対応に当たることとされていた。守衛室には,監視用モニター機器,病院施設内の設備管理関係機器のほか,給湯設備があり,守衛室に隣接した小部屋に仮眠用ベッド等が備えられ,この小部屋が休憩・仮眠室とされており,守衛室と休憩・仮眠室のいずれも,飲酒及び喫煙は禁止されていた。警備員は,24時間勤務に従事している間は,病院施設からの外出は禁止されており,休憩又は仮眠時間中は,通常,守衛室か休憩・仮眠室で過ごし,食事も休憩又は仮眠時間中に守衛室か休憩・仮眠室で取っていた。なお,Y社は,仮眠時間を就業規則所定の労働時間に算入していなかったが,これに対応するものとして,「泊まり勤務手当」(1勤務につき3000円)を支給していた。ただし,仮眠時間中に突発的業務に対応した場合は,従業員が申告をすれば,その実作業時間に対して時間外勤務手当を支給する取扱いにしていた。

平成29年5月10日午前2時頃,Xの仮眠時間中に,突然,病院の全施設が停電となった。Xの相方勤務者であるBは,直ちに非常用電源への切替え,停止した監視用モニター機器の復旧,病院内各室の電気系統機器の作動確認等の種々の緊急措置を講じるとともに,仮眠中のXを起こし,守衛室で待機して関係部署との連絡調整に当たることを指示した上,守衛室から出て,病院内にいる看護師及び技師と協力しながら複数の病棟内の入院患者の安全確認や各施設設備の点検作業を行った。そして,ほぼ平常の状態に復した約30分後,Bが守衛室に戻ったところ,Xは待機しておらず,休憩・仮眠室の仮眠用ベッドで眠っていた。Bは,緊急事態は解消されたので,Xに声を掛けることなく,再び通常の監視業務に就いた。しかし,夜が明けてから,A病院に,複数の入院患者らから,未明の停電中,守衛室に問い合わせをしても誰も応対してくれなかった,守衛室には缶ビールの空き缶があった等の苦情が寄せられた。そこで,A病院は,Y社にこの苦情を伝え,厳正な対処を求めた。

ところで,Y社では,同年4月末に,C労働基準監督署(以下「C労基署」という。)から警備員の仮眠時間の取扱いについて同年5月中旬に調査に入る旨の連絡を受け,人事課長Dがその対応に当たっていたが,D課長は,この対応の準備の過程で,Xが匿名の電子メールでY社の警備員の仮眠時間の取扱いには問題があるのではないかとC労基署に相談していたことを把握していた。そこで,D課長は,X及びBの両人と個別に面談をして,A病院における同月10日の停電対応について事情を聴取した。この事情聴取において,Xは,これまで仮眠時間中に緊急事態が発生して仮眠を中断したことはほとんどなかったので油断して缶ビールを飲んで寝入ってしまい,停電時に守衛室で待機していなかった旨述べた上で,反省の態度を示した。しかし,Xの普段の勤務状況を聞かれたBの応答から,Xが過去にも複数回にわたり休憩・仮眠室で缶ビールを飲んでいたことが明らかとなった。

この事情聴取の後,D課長は,今回のA病院の停電時におけるXの行動は重大な失態であり,C労基署への匿名相談を含めてXの勤務態度には問題があるので懲戒処分が必要である旨,人事部長Eに報告した。これを受けて,Y社は,同年7月1日付けで,Y社の就業規則第60条第3号及び第65条第5号に基づき,Xを14日間の出勤停止処分に付した。

【Y社就業規則(抜粋)】

第60条 懲戒は,次の5種類とする。

1 けん責
始末書を取り,将来を戒める。
2 減給
始末書を取り,1回につき平均給与1日分の2分の1以内を減額する。ただし,処分が2回以上にわたる場合においても,減額の総額が1給与支払期における給与総額の10分の1以内とする。
3 出勤停止
始末書を取り,14日以内を限度として出勤を停止し,その期間の給与を支払わない。
4 諭旨退職
退職届を提出するよう勧告する。退職届を提出しない場合は,次号の懲戒解雇とする。
5 懲戒解雇
所轄労働基準監督署長の認定を受け,予告期間を設けないで即時解雇し,原則として退職金は支給しない。

第65条 社員が次の各号のいずれかに該当するときは,減給又は出勤停止に処する。ただし,情状によりけん責にとどめることがある。

1~4 (略)

5 自己の職責を怠り,誠実に勤務しない等の不適切な行為があったとき。

6~8 (略)

〔設 問〕

1.Xは,仮眠時間は労働時間に当たるので,突発的業務の有無にかかわらず賃金を請求できると考えている。このXの見解の当否について,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。

2.Xは,出勤停止処分は不当であり,無効であるとして提訴した。この出勤停止処分の有効性について,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。ただし,公益通報者保護法について触れる必要はない。

出典:法務省「2018年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。