2018年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
A国とB国は,国境を接する隣国であり,両国の国境地帯には急峻なX山脈の山々が連なっている。両国の国境地帯であるX山脈の山中には,無人の廃墟であるものの世界的に著名なY遺跡がある。
X山脈中のA国とB国の国境線は不明確な部分が多かったが,1930年に両国政府は国境画定条約を締結し,同条約は両国による批准を経て1931年に発効した。同条約では,「A国とB国の国境線は,X山脈の分水嶺をたどるものとする」と条文中に明記された。同条約の締結を受けて,1931年,A国は,Y遺跡がX山脈の分水嶺のA国側に位置するとの理解を前提にY遺跡の領有を宣言したが,2018年に至るまでこの点についてB国から疑問や問題が提起されることはなかった。
2018年,A国及びB国の地理学者から,X山脈の分水嶺の位置について問題が提起された。そこで,A国及びB国は共同で,両国の政府関係者と科学者から構成される調査団を結成し,Y遺跡周辺のX山脈の現地調査を実施した。その結果,Y遺跡はX山脈の分水嶺のB国側に位置することが明らかとなった。これを受けて,B国外務省は,「1930年国境画定条約の条文に従えば,AB両国間の国境線は『X山脈の分水嶺をたどるものとする』とされており,X山脈の分水嶺のB国側に位置するY遺跡は国際法上我が国の領土にある。」との声明を発表した。この声明の発表後直ちに,B国政府は,Y遺跡にB国の軍隊を派遣してこれを占拠した。なお,B国軍隊が占拠したY遺跡の周辺は無人であり,付近に居住している住民はいない。
A国とB国は,いずれも国際連合加盟国であり,条約法に関するウィーン条約の当事国である。また,A国とB国は,いずれも国際司法裁判所規程の当事国であり,同規程第36条第2項の定める受諾宣言を行っている。なお,B国が行った受諾宣言には留保や条件が付されていないが,A国が行った受諾宣言には,「A国の国境に関する紛争であるとA国政府によって解釈される紛争を裁判所の管轄権の対象から除外する」という条件が付されている。
以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.A国は,Y遺跡がA国の領土に所在することを国際法上どのような理由に基づいてB国に対して主張することができるかについて論じなさい。なお,X山脈の分水嶺が2018年に行われたAB両国の共同調査の結果判明した位置にあることについては,両国間に争いがないものとする。
2.A国は,B国軍隊のY遺跡からの撤退を求めて,B国を相手取り国際司法裁判所に提訴したとする。この場合,B国は,国際司法裁判所が当該請求に関して裁判管轄権を持たないことをどのような理由で主張することができるかについて論じなさい。
3.A国による上記2の請求に関して,国際司法裁判所がB国軍隊のY遺跡からの撤退を命じる判決を下したにもかかわらず,B国がこの判決に従わなかったとする。この場合,A国はどのような国際法上の手段をとることができるかについて論じなさい。
出典:法務省「2018年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。