2017年 司法試験 論文式 経済法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
化学メーカーA社及びB社は,化学製品Xの日本国内メーカーである。A社及びB社の年間国内売上高は,それぞれ2000億円及び3000億円である。
Xは,化粧品,シャンプー等の原材料である。Xについては,かつては,別の2社も日本国内で生産を行っていたが,需要家である日本企業の工場の海外移転による内需の減退や輸入品の増加により採算性が悪化したため市場から撤退し,現在では,A社及びB社のみが国内生産を行っている。現在,A社は,Xを年間50万トン生産しており,X生産用のP工場を関東地方に保有している。他方で,B社は,Xを年間40万トン生産しており,X生産用のQ工場を関西地方に保有している。両社とも,専ら国内販売のみをしており,Xの年商はそれぞれ,A社が約100億円,B社が約80億円である。このほか,主にアジア諸国から年間10万トン前後のXが,主としてコンテナを用いて輸入されているが,日本国内の需要家のきめ細かな要求に十分応えられず輸入量が伸び悩んでいる。
Xの国産品と輸入品との間で品質差はない。Xの国産品の販売価格は輸入品の販売価格より若干割高ではあるが,A社及びB社は需要家の多頻度小口配送等のきめ細かな要求に応えているため,需要家は輸入品に比して割高な価格を受け入れている。このような事情から,国産品は,現在の市場シェアを過去5年程度は維持している。しかし,国内の需要家は,輸入通関統計などから輸入品の価格を容易に知ることができるため,この価格を参照して,A社及びB社に対して,常に,価格の引下げを求めている。
上記のとおり,日本国内におけるXの需要減退により,A社及びB社は余剰生産能力を抱えており,それぞれ稼働率は,A社が50パーセント,B社が40パーセントにすぎない。A社及びB社のいずれにおいても,生産設備維持のための固定費(生産量の変化に関わりなく生じる費用)の負担が重く,この固定費がXの製造原価の引下げ,ひいてはXの価格の引下げへの障害になっている。そして,A社及びB社のいずれにおいても,X事業については,過去3年にわたって営業赤字が継続しており,事業存続性が問題となっている。
〔設 問〕
このような状況の中,A社及びB社は,厳しい事業環境にあるX事業の存続を図るため,次の⑴の事業統合あるいは⑵の業務提携を行うことを検討している。それぞれの事業統合案及び業務提携案について,独占禁止法上の問題点を検討しなさい。なお,Xの地理的市場は日本国内で画定されるものとする。
⑴ A社とB社は,それぞれのX事業を共同新設分割方式で切り出し,Xの製造及び販売を行う合弁会社を共同で設立する。その際,B社のQ工場は,X以外の製品の生産設備に転換することでXの生産をやめ,A社のP工場にXの生産を集約することにより,同工場の稼働率を大幅に引き上げて固定費を始めとする一単位当たりの生産コストを削減し,輸入品に価格面で対抗することを目指す。なお,この共同新設分割は,公正取引委員会に対して届出を行うことを要する。
⑵ B社は,Q工場の生産設備をX以外の製品の生産設備に転換するとともに,A社にXの生産を委託し,A社はその生産を受託するという,生産受委託(OEM)契約を締結する。そうすることにより,A社のP工場の稼働率を大幅に向上させ,生産コストの大幅な削減を目指す。なお,その際,B社は,A社によるXの生産に必要な主要原料(Xの製造原価の60パーセント程度)を,こうした委託生産に必要な量だけ,自ら生産し又は外部から調達して,A社のP工場に提供する。B社がA社に支払う生産委託費用は,主要原料費以外の製造原価の103パーセントとする。また,B社は,生産を委託したXの販売は自ら行うものの,当該販売に係る物流業務をA社に実費のみ支払って委託することとし,顧客及び出荷先に関する情報をA社に提供する。
出典:法務省「2017年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。