2017年 司法試験 論文式 知的財産法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
社会福祉法人丙は,ある市においてチャリティーコンサート(以下「本件コンサート」という。)を開催し,無報酬での出演を引き受けてくれた歌手Aに歌ってもらった。本件コンサートは,この市の職員を対象としたもので,50名が来聴した。入場は無料だったが,会場で配布されたプログラムの中に,市内の福祉施設への寄附のお願い文と封筒が挟んであり,そのお願い文には,寄附をしたい者は封筒に金銭を入れて出口に置かれた募金箱に投じるようにと記載されていた。丙は,今後も近隣の市において同じ演目のチャリティーコンサートを催す予定である。
本件コンサートの主催者は丙であるが,歌の選曲はAに任されていたところ,歌われた曲の中に,乙が作曲した曲を10曲集めて自ら発行したCD(以下「本件CD」という。)に含まれていたMという曲があった。
Mの歌詞は,反戦活動家の甲が,全国各地の戊辰戦争の戦場を巡り,その土地に伝わる戦争に関する詩を集めて編んだ詩集(以下「本件詩集」という。)に収められた詩の一編である詩Pを,そのまま利用したものである。本件詩集は,戦争の悲惨さを格調高く歌った詩60編を甲が厳選し,テーマごとに6章に分けて構成したものであり,詩Pは,「戦の果てに」と題する章であるQ章を構成する10の詩の中の一つであった。平和運動家としても知られる乙は,本件詩集を読み,Q章「戦の果てに」において,戦争により荒れた田畑や戦死者の遺族の悲しみを詠んだ詩がまとめられているという構成に初めて接して感銘を受け,平和を祈念してQ章「戦の果てに」の10の詩に曲を付けて本件CDとして発行したが,収録した曲の順序は,本件詩集のQ章の収載順とは異なっていた。
以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.乙は,本件コンサートにおけるMの歌唱は乙の著作権を侵害するものであるとして,丙に対して,今後丙が催す予定の同じ演目のチャリティーコンサートの開催の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する丙の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。なお,本件コンサートのプログラムには,Mの作曲者が乙であることは表示されていたものとする。
2.インターネット上で,エンターテインメントに関するニュース配信の事業を行っている新聞社丁は,本件コンサートが開催されたという記事(以下「本件記事」という。)を配信し,この記事にAがMを歌っている場面の動画(丁が取材して録画したもの。以下「本件動画」という。)を貼り付けた。本件記事の文章は500文字であり,本件動画は,Mの歌唱全体が7分間であったうちの1分間で構成されている。画面上,本件動画の部分は画面の8分の1の面積の窓になっており,その横に本件記事の文章が配置されている。なお,丁の配信記事に配信期限はなく,一旦配信されたものは,そのまま配信され続けるシステムになっており,本件コンサートの開催から1年以上経過してもなお本件記事は配信されている。
乙は,丁に対して,本件動画の配信は乙の著作権を侵害するものであるとして,本件動画の配信の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する丁の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
3.乙は,本件CDに収められた楽曲の創作及び発行に際し,甲の許諾を得ておらず,本件CDに本件詩集や甲についての言及もなかったので,甲は,乙の本件CDの発行は甲の著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして,本件CD発行の差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。甲は,どのような主張をすべきか。これに対する乙の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
4.乙は,本件CDに収められた楽曲の創作及び発行に際し甲の許諾を得ており,同楽曲に関する著作権を著作権管理団体Jに信託的に移転していたものとする。戊は,劇団主宰者であり,戦争を茶化した喜劇の背景音楽として,Mを繰り返し再生している。再生に際し,戊は著作権管理団体JからMの再生の許諾を得ていた。乙は,戊のMの使用態様は乙がMを作曲した意図を損ない,戊がこのような趣旨によりMを再生することは乙の権利を侵害すると主張して,Mの再生の差止めを求める訴訟を提起した。乙は,どのような主張をすべきか。これに対する戊の反論として,どのような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
出典:法務省「2017年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。