司法試験論文式過去問演習

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2016年 司法試験 論文式 労働法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

Y社は,バス車両100台により,路線バス事業を営む株式会社である。

Y社の従業員は,300名であり,うち200名の従業員により組織されるX労働組合(以下「X組合」という。)があり,近年においても,毎年,Y社に新規採用される従業員は,採用後1年以内にその3分の2程度の者がX組合に加入していた。

Y社の従業員の賃金は,基本給と諸手当で構成されている。Y社では,新規採用者の基本給の額は,バス車両の運転をする「運転職」,バス車両の点検・整備をする「整備職」,本社における管理業務,営業所の窓口業務,営業活動等を担当する「事務職」という各職種別に定められていた。そして,従業員の新規採用年度後の基本給は,新規採用時の基本給の額を基に,毎年度の定期昇給分とベースアップ分を加算して決定されていた。

X組合は,上記のとおりY社の新規採用者の3分の2程度の者が採用後間もなくX組合に加入して組合員となっており,また,従業員の基本給は,新規採用時の基本給の額を基に決定されていることから,毎年度の春闘における団体交渉の際,Y社に対し,当年度の新規採用者の基本給の額は前年度の新規採用者の基本給に当年度のベースアップ分を上乗せした金額とするよう求め,これまで,Y社は,これに応じてきた。

Y社は,近年,自動車の普及,営業区域における住民の高齢化・減少等に伴い,旅客数が減少して旅客運賃収入が落ち込み,厳しい経営状態となってきていることから,運賃の値上げ,各種経費の削減等の経営合理化を進めてきたが,その一環として,今般,人件費を削減することとした。ただ,Y社としては,現在の従業員の賃金を減額することは困難であると思われたので,新規採用者の基本給の額を引き下げることによって対応しようと考えた。

そこで,Y社は,平成28年2月1日,X組合に対し,平成28年度の新規採用者の基本給について,平成27年度の新規採用者の基本給の額に比して各職種一律にその10パーセントを減額した額とすること(以下「本件基本給引下げ」という。)を通知した。X組合は,本件基本給引下げの実施後に採用された従業員がX組合に加入した場合,それより前に採用された組合員との間で賃金格差が生じ,同一職種内で異なる賃金水準の集団が併存することになる上,本件基本給引下げより前に採用された組合員が退職するに従って組合員全体の賃金水準が低下していくことになるなどとして,本件基本給引下げに反対することを決定し,同月10日,Y社に対し,本件基本給引下げについて団体交渉を開催するよう要求した。

Y社は,平成28年2月15日,X組合に対し,新規採用者の基本給の額の決定は,使用者であるY社の裁量に委ねられている上,本件基本給引下げはX組合の組合員を含む在職者の賃金に影響を与えるものではなく,これから採用する者については,いまだX組合の組合員ともなっていないのであるから,本件基本給引下げは団体交渉の対象事項とはならない旨回答して,団体交渉を拒否した。その後も,X組合は,Y社に対し,繰り返し,本件基本給引下げについて団体交渉を開催するよう要求したが,Y社は,一貫して,同様の回答をして団体交渉を拒否した。

そこで,X組合は,本件基本給引下げの撤回とこれについての団体交渉を求めて平成28年3月8日の終日,更には,Y社の回答がX組合の要求を全く受け入れないものであるときは同月15日の終日,ストライキを予定することとし,同月2日,Y社に対し,その旨を通知した。ストライキは,「運転職」の組合員についてのみ行うものであった。

これに対し,Y社は,引き続き,本件基本給引下げについての団体交渉を拒否するとともに,平成28年3月7日,社長名で,「我が社が厳しい経営状態にある中,X組合の皆さんになるべく迷惑を掛けないよう,組合員の皆さんの基本給は引き下げずに,新規採用者の基本給を引き下げるという決断をしたものです。これ以外にY社の存続はあり得ないと考えています。ところが,X組合の幹部の皆さんは,会社の誠意をどう評価されたのか分かりませんが,これを団体交渉の対象としなければならない事柄であると強弁し,会社が団体交渉を拒否したとして,ストライキに入ると宣言しました。これは,ストのためのストであって,甚だ遺憾なことであり,会社としては,重大な決意をせざるを得ません。」と記載した声明文を,Y社の全事業所に一斉に掲示した。

X組合の組合員の間では,上記声明文に対して,先行きに不安を感ずるという意見を述べる者はいたが,X組合の執行部を批判したり,ストライキの実施に反対したりする者はいなかった。そして,X組合は,平成28年3月8日の終日,予定どおり,ストライキを行った。このストライキ後も,Y社は,本件基本給引下げについての団体交渉を拒否したことから,X組合は,同月15日にも,終日ストライキを行った。Y社は,同月8日のストライキの際,バス車両の3分の1について,「運転職」の非組合員により運行したが,その余のバス車両の運行はできず,運行できなかったバス車両の所属する営業所においてはバス車両の点検・整備をする必要がなくなるという状態となった。そのため,Y社は,同月15日のストライキに際し,同月14日,X組合の組合員であるZらを含む,これらの営業所に所属する「整備職」の従業員に対し,同月15日の終日ストライキの間,休業することを命じた。これに対して,Zらは,Y社に抗議をしたが,Y社は,同日終日,就業を認めず,Zらに対し,同日分の賃金を支払わなかった。

〔設 問〕

1.X組合は,Y社の団体交渉拒否や社長名の声明文の掲示がいずれも不当であると考えている。X組合として救済を求めるには,どのような機関にどのような救済を求めることが考えられるか。検討すべき法律上の論点を挙げて論じなさい。なお,X組合が労働組合法上の労働組合に該当することを前提に論じてよい。

2.休業することを命じられたZらは,平成28年3月15日分の賃金が支払われなかったのは不当であると考え,Y社に対し,賃金及び休業手当を請求する訴えを提起した。検討すべき法律上の論点を挙げて,Zらの請求の当否を論じなさい。

出典:法務省「2016年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。