2016年 司法試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
【事 例】
Xは,平成20年3月に大学の理工学部を卒業後,同年4月,Y社と,職種を限定せずに,期間の定めのない労働契約を締結して入社し,本社の研究開発部門に配属された。Xは,平成25年4月にY社のA工場に異動となり,液晶生産事業部(以下「本件配属部」という。)の技術部門を担当する課に配属となった。
Y社は電気機器製造を業とする株式会社であり,東京本社のほか,全国に複数の工場,支社を配置し,5000人以上の従業員を擁していた。Y社は,平成25年11月,A工場において,当時世界最大のサイズの液晶ディスプレイの製造ラインを構築するプロジェクト(以下「本件プロジェクト」という。)を立ち上げた。本件プロジェクトにおけるXを含む技術担当者の主な業務は,製品の製造装置の効率性を高める運転条件を調整する作業であった。Xは,本件プロジェクトの一つの工程において初めてプロジェクトのリーダーになった。
本件プロジェクトのリーダーは,常時,複雑な担当業務を多く抱え,時間外労働(法定労働時間を超える時間の労働をいう。以下同じ。)を余儀なくされており,Xは,本件プロジェクトが立ち上がってから平成26年4月までの間に,休日出勤を繰り返し,帰宅が午後11時を過ぎることもあった。Xは,平成25年12月から平成26年4月までの間,毎月80時間から100時間,月平均90時間程度の時間外労働を行っていた。
Xは,平成25年12月から,頭痛,めまい,不眠の症状が現れ,平成26年3月のY社の定期健康診断で不眠を訴え,同年4月2日,A工場の診療所で産業医から不眠症と診断されて薬を処方された。また,Xは,同月30日,自宅近くの心療内科の医院(以下「本件医院」という。)でうつ的症状と診断され,抑うつ及び睡眠障害に適応のある薬を処方された。ただし,うつ病に罹患しているとの確定的な診断はなされなかった。なお,Xには精神疾患の既往歴はなかった。Xは,未婚で両親と同居しており,私生活上のトラブルはなかった。
平成26年4月1日,本件プロジェクトの要員削減が行われ,同年5月9日,Xは,これまでの業務に加え,別の製品の開発業務も担当するよう上司Bから打診された。これに対して,Xは,体調不良を理由に難色を示したが,上司Bに受け入れられず,結局,その業務についても担当となった。一方,その頃,Xは,担当業務に遅延が生じていることにつき,上司Bから,本件配属部の会議で度々厳しい叱責を受けた。
Xは,平成26年5月中旬から,頭痛のために眠ることができず,頭痛薬を連日服用するようになった。Xは,その頃,同僚の技術担当者から,元気がなく席に座って放心したような状態であるなど,普段とは違う様子であると認識され,「大丈夫か。」と声を掛けられたことがあった。Xは,同年6月下旬,体調不良のため,上司Bに対し,別の製品の開発業務の担当から外してもらうよう求めたが,了解を得ることができなかった。Xは,その頃,本件医院の主治医から,しばらく休んで療養するようにと助言されたのを受けて,同年7月3日,約1か月間の休養を要する旨の本件医院の診断書を提出し,同月31日まで欠勤した。
その後,Xは,平成26年8月1日から1週間にわたり出勤したが,頭痛が生じたため再び療養することとし,同月以降,同年11月までの毎月初旬に,抑うつ状態で約1か月間の休養を要する旨の本件医院の診断書を提出して,欠勤を続けた。
上司Bは,Xの欠勤中,度々,Xに対し,職場復帰するか,又は休職申請するかを問い合わせていたが,Xは,現状では勤務を再開する状況にない旨の本件医院の診断書を提出したのみで職場復帰する意思を示さず,休職の申請も行わなかった。
なお,Y社の就業規則(抜粋)は,後記のとおりである。
〔設 問〕
1.Y社は,平成26年11月10日,Xに対し,同年12月15日をもって解雇する旨を通知した上,同日,就業規則第27条第4号の規定に基づき,Xを解雇した。
Xは,この解雇が無効であるとして,Y社に対して労働契約上の地位の確認を請求して訴えを提起した。検討すべき法律上の論点を挙げて,Xの請求の当否を論じなさい。
2.設問1とは異なり,Y社は,平成26年11月10日,Xを解雇せずに,就業規則第24条第1項の規定に基づき,Xに対して傷病休職を発令した。Xは,定期的な上司Bとの面談等を続けたが,Y社は,平成27年10月6日,Xに対し,同年11月11日をもって休職期間の満了により退職扱いとする旨を通知した。
一方,Xは,平成27年10月9日,本件医院の主治医が作成した同月7日付けの診断書(以下「本件診断書」という。)をY社に提出して,休職前に従事した職場以外の部署への配置換えを申請した。本件診断書には,「気分,意欲とも改善して,通常の勤務は可能である。ただし,当初は時間外労働は避ける必要がある。」との所見が記載されていた。
Y社は,平成27年10月20日,Xに対し,休職前の職場以外の部署への配置換えを拒否する旨を口頭で伝えた。そして,Y社は,同年11月11日,Xに対し,同日をもって退職になった旨を記載した書面を交付した。
Xは,退職扱いは不当であって,雇用関係は終了していないとして,Y社に対して労働契約上の地位の確認を請求して訴えを提起した。検討すべき法律上の論点を挙げて,Xの請求の当否を論じなさい。
【就業規則(抜粋)】
第24条 傷病休職
1.傷病により勤務に堪え得ない場合には,休職を命ずることができる。
2.休職期間は1年を超えることはできない。
3.第1項の規定により休職を命ぜられた者は,その休職期間が満了した時点をもって退職とする。
第25条 復職
1.前条第1項の規定により休職を命ぜられた者につき,休職期間中において休職事由が消滅し就業が可能であると認められたときは,復職を命ずる。
2.(略)
第27条 解雇
以下の事由に該当する場合は,解雇することができる。
一~三 (略)
四 傷病等により勤務に堪え得ず,復職の見込みがない場合
五~八 (略)
出典:法務省「2016年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。