2015年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
X国はY国に隣接する小国であり,Y国は,海洋に面した経済大国である。Y国に所在するY国法人である会社甲社及び乙社は,Y国内の大規模な工場で石油からガソリンを精製し販売している。X国にはガソリンを精製する会社がなく,ガソリンを甲社及び乙社からの輸入に全面的に依存している。ところが,甲社及び乙社は,談合の上,ガソリンの供給量を減少させた。この結果,X国及びY国におけるガソリンの価格は2倍になった。そこで,Y国の公正取引委員会は,甲社及び乙社の上記行為がY国の独占禁止法に違反する行為に当たるとして,甲社及び乙社に対して,制裁金を科すための審査手続を開始した。他方,X国の公正取引委員会も,甲社及び乙社の行為がX国の独占禁止法に違反するとして,Y国に所在する甲社及び乙社に対し,制裁金を科すための審査を開始すると決定した。Y国は,X国による同国の独占禁止法の適用は国際法違反であると主張した。それにもかかわらず,X国の公正取引委員会の担当官は,Y国に所在する甲社及び乙社に赴き,本件談合に係る可能性のある資料を提出するように命じる書面を手交した。X国の独占禁止法では,提出命令を拒否した場合には,制裁金が科されることとなっている。
ところで,この事件の5年後に,甲社は,石油を用いてプラスチック製品を作る工場を,X国との国境付近のY国領域内に建設することを計画した。Y国政府は,工場からの排水に含まれ得る有害物質について,Y国の国内法に定める環境基準に照らし,十分な対策がとられていることを事前に確認の上,その建設及び稼働を許可した。そこで,甲社は計画に従って工場を完成させた上,同環境基準に従った操業を行っていた。しかし,ある時,同工場で作業員によって同環境基準に違反する操業が行われた。このため,同工場から出された汚染排水が地下水を通じてX国に流入し,X国民に対し,重い健康被害を広範囲にもたらした。そこで,X国政府は,「X国民に被害が出た以上は,Y国は,発生した損害について,Y国政府として責任を負わなければならない」と主張した。その後,Y国政府は,甲社の上記工場からの排水について検査を行い,同国国内法に定める環境基準の遵守を徹底するように甲社に命令した。これを受けて甲社は,直ちに同工場に当該環境基準の徹底遵守を指示するとともに,同工場に新しい排水浄化装置を設置した。甲社は,新設した排水浄化装置は最先端の設備であり,現在の科学的知見に従えば,排出される有害物質の量は微小で,その人体への影響は完全に無視できるほど小さいと主張している。これに対しX国は,甲社の主張に対抗する有力な科学的見解があり,同見解に従えば依然として健康被害が引き起こされる可能性は十分にあると主張している。X国は,Y国を相手取り,甲社の上記工場の操業停止を求めて国際司法裁判所に提訴し,同時に,甲社の同工場の操業を直ちに差し止めるようにY国に命じる暫定措置を要請した。X国とY国は,共に国際司法裁判所規程の当事国であり,選択条項受諾宣言をしている。
以上を踏まえて,下記の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.甲社及び乙社が談合の上ガソリンの供給量を減少させ価格を引き上げた行為に対してX国の独占禁止法を適用することは国際法違反であるというY国の主張に対して,X国はどのような反論をなし得るか論じなさい。
また,X国の公正取引委員会の担当官が談合に係る可能性のある資料を提出するように命じる書面をY国において手交した行為に対して,Y国は,執行管轄権の観点からどのような主張ができるか論じなさい。
2.X国政府の「X国民に被害が出た以上は,Y国は,発生した損害について,Y国政府として責任を負わなければならない」という主張に対して,Y国は,国際法上,どのような反論をなし得るかを論じなさい。X国政府のこの主張以降にY国政府のとった措置は考慮しなくてよい。
3.国際司法裁判所において,X国は,暫定措置を要請するに当たり,甲社の工場の操業を差し止める必要性を,どのような根拠で主張し得るかについて論じなさい。
出典:法務省「2015年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。