2015年 司法試験 論文式 国際関係法(公法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(公法系)]
〔第1問〕(配点:50)
X国,Y国及びZ国は国際連合(以下「国連」という。)加盟国で,Y国は国連安全保障理事会(以下「国連安保理」という。)の常任理事国である。X国,Y国及びZ国は,いずれも「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(以下「モントリオール条約」という。)の当事国であり,いずれもモントリオール条約批准時に同条約第1条に定義する行為を国内刑法上の犯罪とし,当該犯罪行為に重い刑罰を科すとともに,同条約第5条1及び2に定める場合に,上記犯罪行為に自国の裁判権を設定するための必要な国内法改正を行っていた。また,Z国は同国の国内法で,上記犯罪が国外で自国の国民に対して行われた場合も自国の裁判権を行使することを定めていたが,X国及びY国の国内法はこのような裁判権の設定をしていない。
Y国法人が運航するY国登録の民間航空機が,Y国からZ国に向けて飛行中に公海上空で爆破され,Y国籍の乗員乗客150名とZ国籍の乗客10名が死亡した。4年後,同事件の実行犯がX国籍の甲であり,甲がX国領域内に所在することを突き止めたY国及びZ国の各警察当局は,当該犯罪行為がモントリオール条約第1条1(b)に定める業務中の航空機を破壊する行為に当たるとして,それぞれ,同行為を犯罪化した自国の刑法を適用して甲の逮捕状の発付を受けた。X国とY国の間及びX国とZ国の間には犯罪人引渡条約は締結されていなかったが,Y国とZ国はそれぞれX国に対して甲の仮拘禁を要請し,それに続いて甲の引渡しを請求した。X国の逃亡犯罪人引渡法は,犯罪人引渡条約の存在を引渡しの条件としていないが,同法は自国民の引渡しを禁止している。X国の警察当局は,自国の法令に基づき甲を仮拘禁した後,事実についての予備調査を行う一方,甲が自国民であるので,甲のY国及びZ国への引渡しについては拒否した。しかし,X国の警察当局は,その後3年を経ても,同国における財政事情により十分な捜査人員を確保できていないとして,甲に関する事件を,訴追のために検察当局へ付託しなかった。
そこで,Y国は,政府内で,「国連安保理に『安全保障理事会は,X国による甲の引渡し及び訴追の拒否が国際の平和と安全に対する脅威を構成すると決定し,国連憲章第7章の下に行動して,X国に対して甲をY国に引き渡すよう決定する』という決議案を提出し,その決定を受けて甲の身柄を確保すべきである」という強い意見もあったものの,最終的には,モントリオール条約第14条1に従い,X国を相手として本事件を国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に提訴することを決定した。そして,Y国は,ICJに「①X国は甲が本件犯罪行為の容疑者であることを認識しながら甲のY国への引渡しを拒否し,その後3年を経ても,X国の財政事情を口実にして,甲を訴追するために,権限のあるX国当局に当該事件を付託することを怠っていることにより,モントリオール条約第7条に継続的に違反していること,②したがって,甲を直ちにY国に引き渡すことによって国際違法行為を停止する義務があること」を宣言するように請求した。
Z国も,モントリオール条約第14条1に従い,X国を相手として,X国による同条約第7条の継続的違反行為の停止を請求する訴えをICJに提起した。この訴えにおいて,Z国は自国の原告適格につき,「被害者の国籍に関係なく,Z国がモントリオール条約の当事国であることに基づいて,X国による継続的違反行為の停止を請求する原告適格を有する」と主張した。
以上を踏まえて,下記の設問に答えなさい。
〔設 問〕
1.ICJに対するY国の請求に対して,ICJはどのような判決を出し得るかを論じなさい。管轄権の問題は論じなくてよい。
2.Y国政府内で強い意見があったとされている国連安保理決議案を,Y国が実際に国連安保理に提出し,同案が国連安保理決定として採択されたとする。これに対し,X国が「X国とY国の間にはモントリオール条約が締結されているから,甲のY国への引渡しについては,X国は同条約の規定に従って対応する権利を有している」と主張した場合に,Y国はどのような反論ができるかを論じなさい。
3.原告適格に関するZ国の主張を国際法に照らして評価しなさい。
【参考資料】モントリオール条約
この条約の締約国は,
民間航空の安全に対する不法な行為が人及び財産の安全を害し,航空業務の運営に深刻な影響を及ぼし,また,民間航空の安全に対する世界の諸国民の信頼を損なうものであることを考慮し,
そのような行為の発生が重大な関心事であることを考慮し,
そのような行為を抑止する目的をもつて犯人の処罰のための適当な措置を緊急に講ずる必要があることを考慮して,
次のとおり協定した。
第1条 1 不法かつ故意に行う次の行為は,犯罪とする。
(a) (略)
(b) 業務中の航空機を破壊し,又は業務中の航空機に対しその飛行を不能にする損害若しくは飛行中のその安全を損なうおそれがある損害を与える行為
(c)~(e) (略)
2 (略)
第5条 1 いずれの締約国も,次の場合には,犯罪行為につき自国の裁判権を設定するために必要な措置をとる。
(a) 犯罪行為が当該締約国の領域内において行われた場合
(b) 犯罪行為が当該締約国において登録された航空機に対し又はその機内で行われた場合
(c) 機内で犯罪行為の行われた航空機が容疑者を乗せたまま当該締約国の領域内に着陸する場合
(d) 犯罪行為が,当該締約国内に主たる営業所を有する賃借人若しくは主たる営業所を有しないが当該締約国内に住所を有する賃借人に対して乗組員なしに賃貸された航空機に対し又はその機内で行われた場合
2 容疑者が領域内に所在する締約国は,1(a),(b),(c)又は(d)の場合に該当する他のいずれの締約国に対しても第8条の規定に従つてその容疑者を引き渡さない場合に第1条1(a)から(c)までに定める犯罪行為及びこれらの犯罪行為に係る同条2に定める犯罪行為につき自国の裁判権を設定するため,必要な措置をとる。
3 この条約は,国内法に従つて行使される刑事裁判権を排除するものではない。
第6条 1 犯人又は容疑者が領域内に所在する締約国は,状況によつて正当であると認める場合には,その者の所在を確実にするため抑留その他の措置をとる。この措置は,当該締約国の法令に定めるところによるものとするが,刑事訴訟手続又は犯罪人引渡手続を開始するために必要とする期間に限つて継続することができる。
2 1の措置をとつた締約国は,事実について直ちに予備調査を行う。
3 1の規定に基づいて抑留された者は,その国籍国の最寄りの適当な代表と直ちに連絡をとるための援助を与えられる。
4 いずれの国も,この条の規定に基づいていずれかの者を抑留する場合には,前条1(a),(b),(c)又は(d)の場合に該当する国,抑留された者の国籍国及び適当と認めるときはその他の利害関係国に対し,その者が抑留されている事実及びその抑留が正当とされる事情を直ちに通告する。2の予備調査を行つた国は,その結果をこれらの国に対して直ちに報告するものとし,かつ,自国が裁判権を行使する意図を有するかどうかを明示する。
第7条 容疑者が領域内で発見された締約国は,その容疑者を引き渡さない場合には,当該犯罪行為が自国の領域内で行われたものであるかどうかを問わず,いかなる例外もなしに,訴追のため自国の権限ある当局に事件を付託する義務を負う。その当局は,自国の法令に規定する通常の重大な犯罪の場合と同様の方法で決定を行う。
第8条 1,2 (略)
3 条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない締約国は,犯罪人引渡しの請求を受けた国の法令に定める条件に従い,相互間で,犯罪行為を引渡犯罪と認める。
4 各犯罪行為は,締約国間の犯罪人引渡しに関しては,当該犯罪行為が行われた場所のみでなく,第5条1(b),(c)又は(d)の規定に従つて裁判権を設定すべき国の領域内においても行われたものとみなす。
第14条 1 この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争で交渉によつて解決することができないものは,それらの締約国のうちいずれか一国の要請によつて仲裁に付託される。紛争当事国が仲裁の要請の日から六箇月以内に仲裁の組織について合意に達しない場合には,それらの紛争当事国のうちいずれの一国も,国際司法裁判所規程に従つて国際司法裁判所に紛争を付託することができる。
2,3 (略)
出典:法務省「2015年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。