2015年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
内装建材甲(以下「甲」という。)は,日本家屋の建築に欠かすことのできない内装建材で,日本の建材メーカーのみが製造販売しており,現在輸入はなく,近い将来輸入される見込みもない。現在のところ,甲に代替する内装建材は存在しない。甲は,その製造販売業者から建材専門商社に販売され,建材専門商社から住宅メーカーに販売される。甲は,比較的軽く,その輸送は容易である。甲の製造販売業者,甲を購入する建材専門商社及び住宅メーカーは,いずれも全国にその拠点を有している。甲の製造販売業者は,21社存在している。
X社を除く甲の製造販売業者20社(以下「20社」という。)の担当営業部長は,20年前から,「甲の会」を組織し,一般的な経済状況や景気動向,内装建材業界を取り巻く社会・経済環境,甲の安全基準などについて情報交換を行い,20社各社の事業運営に役立てている。「甲の会」の規則上の最高意思決定機関は総会であるが,実際には,会長1名及び副会長2名によって構成される幹部会において「甲の会」の方針等が決定されることが多く,20社の担当営業部長がこの幹部会による決定に異を唱えたことはない。X社は,甲の製造販売業者として比較的古参であり,高い知名度を維持する有力な事業者であるが,自社の営業担当者を「甲の会」に入会させず,20社とは一線を画する事業運営を行ってきている。なお,「甲の会」では,甲の価格,製造数量,販売数量,取引先などに関する情報交換は行っておらず,20社の間では比較的活発な価格競争が行われている。
近年,一般消費者の健康への意識が著しく高まっており,「甲の会」においても,甲の安全性への信用や評判が大きな関心事となっている。別の内装建材丙については,それに含まれる化学物質の種類や量に関する法令上の基準は遵守されていたが,昨年,一般消費者に皮膚障害をもたらすおそれのある化学物質が含まれていたということが大きく報道され,内装建材丙の需要が大幅に減退したことがあった。また,甲についても,近年,科学的根拠は不十分であるものの,一般消費者に皮膚障害をもたらすおそれのある化学物質が含まれているのではないかという疑問を公にする消費者団体が現れている。このため,「甲の会」では,甲に含まれる化学物質の種類や量について,法令上の基準を遵守するだけでは不十分であり,法令上の基準を超える厳しい安全基準を設ける必要があるとの意見が大勢を占めるに至った。そこで,「甲の会」の幹部会は,甲に含まれる化学物質に関する新たな安全基準を設定することの是非を含めた検討を,甲に含まれる化学物質について専門的な知見があり,かつ,20社各社と利害関係のない大学の研究者3人に依頼することを決定し,これに基づいて,会長が同研究者らに依頼した。その結果,甲に含まれる化学物質に関する新たな安全基準が提言されたことから,「甲の会」の幹部会は,その提言どおりの安全基準を「甲の会」の自主基準として設定することを決定し,これに基づいて,会長が,20社の担当営業部長に伝達した。20社は,「甲の会」の自主基準であるこの新たな安全基準を採用し,これを遵守するに至っている。
しかし,X社は,「甲の会」が採用した安全基準に従っていない。「甲の会」の会長は,甲の古参の製造販売業者であるX社が「甲の会」の安全基準を遵守しないことにより,内装建材甲全体の信用や評判に悪影響が及ぶのではないかと恐れ,再三にわたり,X社に対して,「甲の会」の安全基準を遵守するよう説得を試みた。ところが,X社の経営者は,安全を軽視する発言に終始し,説得に応じなかった。そのため,「甲の会」の幹部会は,甲を取り扱う全ての建材専門商社に対して,X社から甲を購入しないよう要請することを決定し,これに基づいて,会長が,それら建材専門商社の担当者が一堂に会した会合において,その旨要請した。それら建材専門商社の担当者は,協議の上,この要請に応じることを申し合わせた。その後,それら建材専門商社のほとんどは,X社からの甲の購入を中止するに至った。このため,X社は,甲を販売する取引先を容易に見つけ出すことができなくなっている。
〔設 問〕
「甲の会」の会長が行った上記要請について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点を分析して検討しなさい。
出典:法務省「2015年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。