2012年 司法試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
【事 例】
Xは,平成10年,インテリアデザイン設計・施工業を営むY社に期間の定めなく雇用され,入社以来,主にインテリアデザイン設計を担当している社員である。Xが入社した当時,Y社には,同じインテリアデザイン設計担当として勤続年数10年以上の正社員が1名いたが,この社員は平成20年に転職した。ところが,Y社は人材を補充しなかったため,同年以降,X一人でインテリアデザイン設計を担当していた。Xは,これでは自己の業務負担が大きく,まとまった休暇の取得もままならないことをY社に訴え続け,Y社は,適した人材が見付からないことを理由になかなか人材を補充しなかったが,ようやく平成23年4月になって,デザイン専門学校を卒業したばかりのAを正社員として雇用し,インテリアデザイン設計担当とした。
ところで,Xは,共働きの妻が出産し,その産前産後休業後に妻が職場復帰できるよう,それに合わせて2か月の育児休業を取得しようと考え,Y社の承認を得て,同年7月1日から同年8月31日まで所定の休日を除く43日の育児休業を取得した。
Xは,当初,同年9月1日からは妻が育児休業を取得し,自分は職場復帰する予定でいたところ,妻の勤務先が繁忙で,同月中は妻の休業が困難であり,妻も勤務継続を希望した。そこで,Xは,いまだ消化していない当該年度の年次有給休暇20日分をここで利用しようと考え,同年8月25日,Y社に電話で連絡し,同年9月1日から同月30日まで所定の休日を除く20日の年次有給休暇を取得する旨申し出た。
他方,Y社は,マンション建設・販売業を営むB社が新築マンションのインテリアデザイン設計・施工を外注する案件につき,他社に先んじて営業活動を展開し,Xが1年近く,B社との交渉や企画提案等に従事してきたところ,同年7月上旬頃,B社から,同年9月中にB社がY社及び競合他社の各企画提案を受け,その最終評価に基づき外注先を決する旨を伝えられていた。
そこで,Y社は,同年8月25日に電話連絡してきたXに対し,前記事情を説明し,大きな利益が見込まれる前記案件を受注するためには,Xが最終的な企画提案及び交渉を行う必要が大きく,入社したばかりで実務経験の浅いAには任せられないことを理由に,同年9月の年次有給休暇の取得は避けてもらいたい旨申し出た。しかし,家庭の事情を優先せざるを得ないと考えたXは,これに応じなかった。そこで,Y社は,同年8月26日,Xに電話連絡し,同年9月半ばまでは何とかAに代替させるとしても,他社との企画競争及びB社との交渉が山場となる同月15日から同月30日までの期間中(うち勤務日10日)は,Xによる年次有給休暇の取得が事業の正常な運営を妨げるとして,同月1日から同月14日までの期間における年次有給休暇は承認するが,同月15日から同月30日までの期間における年次有給休暇は承認しない旨通知するとともに,同年10月中であれば,これに相当する期間の年次有給休暇を取得しても差し支えない旨提案した。
しかし,Xは,この提案も受け入れず,そのまま,同年9月1日から同月30日まで出勤しなかった。
Y社は,やむなくXに代えてAを企画提案及び交渉に当たらせたが,その実務経験不足から,結局,前記案件につき受注できなかった。
Y社は,Xが同月15日から同月30日までの間の勤務日にY社の承認を得ずに出勤しなかったことが,就業規則に規定された懲戒事由である「正当な理由なく,業務上の指示命令に従わなかったとき」に該当するとして,就業規則所定の手続に従って,Xを懲戒処分であるけん責処分にした。また,Y社は,同年10月,毎月末日締めで計算される同年9月分の賃金につき,Xに対し,Y社がXの年次有給休暇を承認しなかった同年9月15日から同月30日までの間の勤務日である10日相当分の賃金を控除して支給した。さらに,Y社は,同年12月支給に係る賞与につき,Xに対し,全額支給しなかった。Y社は,これについて,就業規則に定められた賞与の支給条件に従った措置であるとしているところ,就業規則には,賞与支給に関して,次のように規定されていた。
すなわち,12月支給の賞与の対象期間は,5月初勤務日(同年では5月2日)から10月最終勤務日(同年では10月31日)まで,支給対象者は,同期間の出勤率(出勤した日数÷有効に取得した休暇日を含めた所定労働日数)が90パーセント以上の者(同年の前記対象期間で所定労働日124日のうち112日以上出勤した者)とされ,その出勤率の算定において,年次有給休暇はこれを出勤したものとみなす旨の規定はあるが,育児休業についてその旨の規定はない。
また,賞与額の算定については,月額基本給3か月分の額から,月額基本給を20日分で除して得た額に欠勤日数を乗じて得た額を差し引く計算方式を採ることとされている。育児休業は無給とされているところ,前記賞与額の算定においては,年次有給休暇も含め,全ての取得休暇日を欠勤日数に算入するものと規定されている。
なお,Xは,同年5月2日から同年10月31日までの間,前記のとおり出勤しなかった同年7月1日から同年9月30日までの期間を除き,全ての勤務日に出勤した。
〔設 問〕
Y社がXに対して行った懲戒処分,平成23年9月分給与からの10日相当分の賃金控除及び同年12月の賞与全額不支給の各措置について,法律上の問題点を指摘し,あなたの見解を述べなさい。なお,Y社はXに対して賞与を支給すべきであるとする見解の場合には,前記計算方式による賞与額の算定において欠勤日数を何日として計算すべきか,また,その根拠について説明しなさい。
出典:法務省「2012年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。