2012年 司法試験 論文式 経済法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
X社は,特殊な植物から抽出した栄養成分を主とする栄養機能食品(注)αを製造・販売する大手食品メーカーであり,自社製品を甲というブランド名で販売している。
αは,近年の健康志向の増大により市場が拡大しているが,独自の製法を必要とすること,原料である植物の調達が容易ではないことから,αを製造・販売するメーカーは6社に限定されている。また,価格より品質を優先する消費者の傾向とあいまって,メーカー間の価格競争はほとんど行われていない。なお,αの類似品としてβがあり,栄養機能食品の対象となる栄養成分はαとほとんど異ならないが,当該栄養成分を抽出する植物が異なることから,多くの消費者にとってβの栄養機能はαよりも大きく劣ると考えられており,仮にαの価格が大幅に引き上げられたとしても,αに代えてβを購入しようとする消費者はほとんど存在しない。
甲は,他社製品に比べて栄養成分の体内吸収率が高いこと,X社の知名度の高さ,テレビでの有名タレントを使ったコマーシャルなどから人気商品となっており,その市場占有率は40%で第1位で,2位以下を大きく引き離している。なお,他社の市場占有率は,A社18%,B社15%,C社11%,D社9%,E社7%である。そして,甲を指名して購入する消費者も少なくないことから,栄養機能食品の販売業者にとっては,これを取りそろえておくことが不可欠の製品となっている。
甲の流通経路は,⑴卸売業者を経て,薬事法上の許可を受けた薬局及び店舗販売業者(以下「薬局・薬店」という。)の店頭で販売されるものが9割以上を占めているほか,⑵インターネットを通じた販売(以下「ネット販売」という。)が新たに登場してきている。⑴に関しては,X社は,資本・人員・保管設備などの良否を勘案して,各都道府県ごとに卸売業者1社を選んで代理店とし,それらの者のみに甲を販売している(以下「代理店卸売業者」という。)。代理店卸売業者は,各都道府県を担当地域として当該地域内で積極的な販売を行うよう義務付けられているが,他の都道府県での販売に特に制約は課されていない。⑵に関しては,インターネットのホームページを通じて注文を受け,宅配業者が配送するもので,無店舗のインターネット販売業者(以下「ネット販売業者」という。)がこれを手掛けている。その場合,ネット販売業者は,薬局・薬店相互の間で在庫調整や換金の必要性などから低価格で取引されている甲を,薬局・薬店から購入してその販売に充てている。ネット販売は,店舗や人員のコストが節約できることなどから,薬局・薬店の店頭での販売価格に比べて5%~10%ほど安いことが多く,最近,その売上高は増加傾向にある。
X社は,当初から,ネット販売業者によるネット販売が,薬局・薬店による店頭での販売と異なり,ⓐ甲の摂取目安量や摂取方法について,顧客の求めに応じて説明やアドバイスを行う機会がなく,製品の栄養機能が十分に発揮できなくなるおそれがあること,ⓑ甲は,品質保持のため摂氏15度以下の冷暗所での保存が必要なところ,その配送や保管における温度管理が不十分となり,品質が劣化するおそれがあることを理由に,これに消極的な姿勢を採ってきた。そして,このままネット販売業者によるネット販売が拡大すると,上記ⓐⓑにより甲のブランドイメージが損なわれる危険が大きいと考え,今後はこれを行わせないようにするとの方針を決定し,そのために以下のような方策を採ることを考えている。
① ネット販売業者に甲が販売されないようにするため,甲を扱っている薬局・薬店に対し,甲を,専ら一般消費者に対してのみ販売するよう要請する。
② ①の要請を遵守させるため,代理店卸売業者に対し,肉眼では見えない製品の隠しロット番号を用いた取引先の薬局・薬店の監視を義務付け,同要請に従わない薬局・薬店には甲を販売しないようにさせる。
〔設 問〕
X社が実施しようとしている上記①及び②の方策について,独占禁止法上の問題点を指摘して検討しなさい。
(注)「栄養機能食品」とは,栄養成分(ビタミン・ミネラル)の補給のために利用される食品であり,同食品として,その栄養成分の機能を表示して販売するためには,健康増進法に基づき,一日当たりの摂取目安量に含まれる当該栄養成分量が,定められた上・下限値の基準の範囲内である必要がある。また,摂取目安量や摂取方法等についての注意喚起表示を行う必要がある。他方,それは,薬事法上の許可を受けた薬局及び店舗販売業者でなければ販売することができない「医薬品」には該当しないから,これ以外の者であっても販売することができる。
出典:法務省「2012年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。