2012年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
A社,B社,C社及びD社(以下「4社」という。)は,いずれも石油を原料とする化学製品甲の製造販売をしている。国内における甲製造販売業者には,4社のほかにX社,Y社及びZ社があり,我が国における市場占有率は,上位から順に,X社30%,A社15%,B社14%,Y社14%,Z社13%,C社6%,D社4%となっているほか,輸入製品が4%となっている。上記各社の甲の品質にはほとんど差はない。また,輸入製品は,国内製品よりも若干低価格であるものの,その分品質がやや劣っていることもあって,購入者は特定の需要者に限られており,ここ10年ほど輸入製品の市場占有率に変化はない。なお,甲に代替する商品はない。
甲製造販売業者は,甲を直接需要者に販売しており,需要者との間で価格交渉を行い,個別に価格を決定している。甲は,石油製品である乙を分解して得られる化学物質を原料としているため,乙の市場における価格(以下「乙価格」という。)が甲の製造コストに大きく影響する関係にあり,従来から,甲製造販売業者は,甲の販売価格を引き上げる際,乙価格の上昇を理由としてきている。
甲の市場占有率の状況は,工場立地等の関係から,東日本地区と西日本地区で大きく異なっており,X社及びY社は,主に東日本地区において販売しており,A社,B社及びC社は,主に西日本地区において販売しており,Z社は東日本地区でしか,また,D社は西日本地区でしか販売していない。西日本地区における市場占有率は,上位から順に,A社32%,B社24%,C社14%,X社10%,D社10%,Y社8%となっている。以上のような市場状況は,ここ十数年変化はなく,各社の製造設備は基本的に従前の取引量を前提としたものとなっているため,短期的に製造量を増やすことは各社とも難しい状況にある。また,甲製造販売業者とその需要者との取引は,固定的な関係にあって取引先が変更されることは少ない。
以上のような市場状況の下で,4社は,かねてから,3か月に1回程度の割合で,営業部長による会合(以下「部長会」という。)を開催し,主として西日本地区における甲の販売に関する情報交換を行っていた。平成16年には,乙価格が高騰したため,部長会において,西日本地区における甲の販売価格の値上げについて合意し,この合意に基づいて各社が顧客との値上げ交渉を行い,一部顧客との間で値上げに成功したことがあった。また,平成18年春頃から再び乙価格が上昇してきたことから,同年6月に開催された部長会において,西日本地区における甲の販売価格の値上げについて合意し,この合意に基づいて各社が顧客との値上げ交渉を行い,一部顧客について同年8月販売分からの値上げに成功したことがあった。
〔設問1〕
その後,乙価格は安定していたが,平成20年に入ってから上昇が続いたことから,同年6月15日に開催された部長会(出席者は,A社のP部長,B社のQ部長,C社のR部長,D社のS部長)において,P部長は,「A社としては,乙価格の上昇傾向が深刻なので,今年の8月販売分から,西日本地区の顧客に対する甲の販売価格を1キログラム当たり10円をめどに引き上げたいと考えている。これまでも4社が同調して値上げした場合には,ある程度値上げに成功しているので,今回もB社,C社,D社にも同時に値上げをお願いしたい。」旨を述べたところ,S部長も賛同した。これに対して,Q部長は,「B社としては,需要が伸び悩み値下げ要求も出されている中で,値上げについて取引先の理解を得ることは難しいと考えている。値上げは時期尚早である。」と述べ,R部長は値上げの是非についての態度を明らかにしなかった。そのため,同日の部長会は明確な結論を出すことなく終了した。
上記部長会を終えて帰社したP部長は,それまでの経緯から,「A社が先行して値上げを実施すれば,他社も追随するのではないか。」と考えた。そこで,A社は,以後,B社,C社及びD社との間で部長会等の会合を開催することなく,同年8月販売分について西日本地区の顧客との値上げ交渉を開始した。もっとも,A社は,顧客との交渉開始に先立って,「8月販売分から甲の販売価格を1キログラム当たり10円の値上げをすべく,まず西日本地区の顧客との交渉を開始する。」旨の新聞発表を行い,P部長は,上記新聞発表と同じ頃に,Q部長,R部長及びS部長に対し,「A社は,8月販売分から甲の販売価格を値上げいたします。」という内容のメールを一方的に送信した。B社,C社及びD社は,いずれもA社の値上げ交渉開始から数日ほど遅れて,同年8月販売分について西日本地区の顧客との値上げ交渉を開始し,結果として,4社ともおおむね1キログラム当たり10円近い値上げに成功した。Y社は,上記新聞発表によってA社の値上げを知り,直ちに同年8月販売分について西日本地区の顧客との値上げ交渉を行い値上げに成功した。
この場合の4社及びY社の行為は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)に違反するといえるか検討しなさい。
〔設問2〕
平成21年になると乙価格は低下し,しばらく安定していたが,平成22年暮れ頃から上昇に転じ,平成23年になってもその傾向に変化はなかった。4社は,同年2月15日に開催された部長会(出席者は,A社のE部長,B社のF部長,C社のG部長,D社のH部長)において,乙価格の上昇によるコスト増を甲の販売価格に転嫁する必要があるとの結論に達し,同年4月販売分から,西日本地区の顧客に対する甲の販売価格を1キログラム当たり10円をめどに引き上げること,顧客との値上げ交渉の進捗状況について情報交換するために,同年4月10日に再度部長会を開催することを合意した。
上記2月15日の部長会を終えて帰社したG部長は,部長会における合意の内容を上司に報告したところ,「独占禁止法上の問題があるのではないか。以後,他社とは関わりを持たないように。」との指示を受けた。そこで,C社は,他の3社に何ら連絡をすることなく,同年4月販売分について西日本地区の顧客との値上げ交渉を行わなかった。また,G部長は,急に別の予定が入ったという虚偽の連絡を入れて,同年4月10日に開催された部長会を欠席した。C社を除く3社は,同年4月販売分について西日本地区の顧客との値上げ交渉を行った。その結果,A社及びB社は,一部顧客との間で値上げに成功したが,D社は,大口取引先に拒否されるなどしたために,結果として値上げに成功しなかった。
この場合の4社の行為は,独占禁止法に違反するといえるか検討しなさい。
出典:法務省「2012年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。