司法試験論文式過去問演習

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2011年 司法試験 論文式 労働法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。

【事 例】

1 Y社は,A県に本店を置く信用金庫であり,店舗数は44店,従業員数は920名である。X1は昭和45年に,X2は昭和46年に,それぞれY社に入社した者である。

Y社には,従業員で組織するM労働組合(以下「M組合」という。)とN労働組合(以下「N組合」という。)が併存しており,M組合は,本店及び全ての支店において,従業員の80パーセント以上を組織している。X1は,Y社の従業員の9パーセント弱を組織する少数組合であるN組合の組合員であり,顧客開拓と営業活動に従事している。X2は,Y社B支店に勤務する営業担当調査役である。営業担当調査役は,Y社,M組合間及びY社,N組合間の各労働協約で非組合員とされている地位であるが,通常の管理職のような人事権や責任は有しておらず,X2は,一般の組合員と同様に,上司であるB支店長の業務命令に従って通常の営業活動に従事している。

2 Y社は,就業規則において,定年制及び定年後の嘱託社員制度について次のとおり規定していた。

第74条 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日が属する年度末をもって退職する。

第75条 満60歳で定年に達した従業員が希望し,会社が必要と認めた者については,1年ごとの契約によって再雇用し,満63歳に達した日が属する年度末まで嘱託社員として勤務させる。

2 嘱託社員の月額給は,定年に達した年度の月額給から5パーセントを減じて支給する。定期昇給は実施しない。

3 嘱託社員の勤続年数は,退職金の算定期間に算入しない。

嘱託社員制度の運用実績としては,平成10年から平成15年までの定年退職者68名のうち,病弱者5名を除く63名が嘱託社員として再雇用されており,従業員間では,本人が希望すれば再雇用されるとの認識が定着していた。嘱託社員の所定労働時間は,定年到達直前と同一(1日8時間)であり,職務内容もほぼ同一であった。

3 Y社は,平成14年ころから,M組合及びN組合から65歳定年制の導入に関する要求を受け,これら労働組合との間で団体交渉を開始した。当時,Y社は,多額の不良債権を抱え,預金金利及び経費が貸出金利を上回る「逆ざや現象」が生ずるなど,資産内容が悪化し,A県を管轄する財務局から経営内容の改善指導を受けていた。そこで,Y社は,M組合及びN組合に対し,定年年齢を65歳としつつ,定年延長後の賃金水準を満60歳到達年度より大幅に引き下げることを内容とする定年延長制度の提案を行った。これに対して,M組合は,同制度によって雇用の安定が図られることを積極的に評価し,Y社の提案に基本的に賛成した。そして,Y社とM組合は,5回の交渉を経て合意に達し,平成15年6月,後記4記載の就業規則第74条ないし第77条と同一内容の定年延長制度を定める労働協約(定年延長協定)を締結した。

一方,N組合は,Y社の提案に対して,定年延長には賛成したものの,賃金水準の引下げについては,現行嘱託社員制度上の賃金水準の維持を強く主張して反対した。そこで,Y社は,平成14年から平成16年にわたって合計18回,N組合との間で団体交渉を行ったものの,合意に至らなかった。この間,Y社は,賃金水準引下げの必要性を示す最近5か年分の貸借対照表,損益計算書,営業報告書等の資料を開示するなど,N組合との間で誠実に交渉を行った。

4 同年3月20日,Y社は,以下のとおり就業規則を改訂して定年延長制度を導入し,労働基準法第106条第1項の手続に従って従業員に周知させた。また,労働基準監督署への届出に際しては,同法第90条に従い,事業所ごとにM組合から意見を聴取し,賛成する旨の意見書を得て添付した。

第74条 従業員の定年は満65歳とし,定年に達した日が属する年度末をもって退職する。

第75条 従業員が満60歳に達した日が属する年度の翌年度初日をもって嘱託社員とする。

第76条 嘱託社員の月額給は,次のとおりとする。

⑴ 基本給
従業員が満60歳に達した日が属する年度の月額給の54パーセントを支給する。
⑵ 勤務手当
1万円から3万円の範囲内で,各社員の勤務内容に応じて支給する。

第77条 退職金は,嘱託社員としての勤務を終了した年度末に支給する。ただし,本人の申出により,退職金の50パーセントを限度として,満60歳から65歳の期間中に分割支給することができる。なお,嘱託社員の勤続年数は,退職金の算定期間に算入しない。

5 上記定年延長制度及び賃金体系の導入に伴い,Y社従業員は,満60歳到達後は,嘱託社員となり,所定労働時間は,1日8時間から7時間と短縮されるものの,職務内容は,満60歳到達以前と比較して,ほぼ同じ内容で就業することになる。改訂後の就業規則第76条第2号所定の勤務手当及び第77条所定の退職金の分割支給規定は,Y社の当初提案にはなかったが,このような労働条件変更及び職務内容に不満を抱いたM組合が団体交渉において要求し,これに応じて追加されたものである。

上記定年延長制度及び賃金体系の導入後の給与水準は,同様の制度導入を行った他の信用金庫と比較すると,下位の部類に属するが,極端に低いわけではない。

6 X1は平成19年に,X2は平成20年に,それぞれ満60歳に達し,それぞれの翌年度の初日から嘱託社員となった。その結果,X1の基本給は,満60歳到達直前の月額給と比較して46パーセント減額となり(月額30万円から16万2000円に減額),X1が改訂前の就業規則に基づいて満60歳から63歳までの間に得ることを期待できた給与額が1026万円であったのに対し,満60歳から65歳までの間に得る給与額は,勤務手当(X1の場合は月額1万円)を合わせて1032万円となる。また,X2の基本給も,満60歳到達直前の月額給と比較して46パーセント減額となり(月額35万円から18万9000円に減額),X2が改訂前の就業規則に基づいて満60歳から63歳までの間に得ることを期待できた給与額が1197万円であったのに対し,満60歳から65歳までの間に得る給与額は,勤務手当(X2の場合も月額1万円)を合わせて1194万円となる。

なお,X1及びX2がY社から受給する退職金の額は,本件勤務延長制度及び賃金体系の導入前後で変化はない。また,X1及びX2は,一定の資産を保有していたため,退職金の分割支給(改訂後の就業規則第77条)を申請していない。

[設 問]

⑴ 改訂後の就業規則がX1及びX2をそれぞれ拘束するか否かについて,法的な論点を指摘しつつ論じなさい。

⑵ Y社とM組合が締結した定年延長協定がX1及びX2をそれぞれ拘束するか否かについて,法的な論点を指摘しつつ論じなさい。

なお,⑴,⑵を通して,高齢者等の雇用の安定等に関する法律及び同法上の論点に触れる必要はない。

出典:法務省「2011年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。