2009年 司法試験 論文式 倒産法 第1問
問題
配点 50点[倒 産 法]
〔第1問〕(配点:50)
1.A株式会社(以下「A社」という。)の代表者Pから次のような相談を受けた弁護士として,以下の設問に答えなさい。Pの相談内容は,すべて証拠により裏付けられる事実であるとする。
【Pからの相談内容】
私はA社の代表取締役をしておりますPと申します。
A社は旅館業を営むことを業としております。A社が経営している旅館は,温泉町の一角にあります木造2階建ての温泉旅館です。私の祖父の代からの老舗で,建物は築50年にもなろうとしておりますが,昔からの従業員による家庭的なもてなしと敷地内に温泉が出ること,ちょっとした散策ができる和風庭園があることが好評で,ひいきにしていただいているお客様もいて,これまでやってきておりました。祖父の跡を継いだ父が2年前に急死してからは,それまで東京で会社勤めをしていた長男の私が呼び戻されて,代表取締役として経営に携わってきました。
しかし,さすがに施設が老朽化して,度々の修繕に費用が掛かることもあり,苦しい経営を続けていましたところ,今般の経済情勢の厳しさから,とうとう手元資金がほとんどなくなり,直近の支払のめども立たなくなってしまいました。民事再生というものを申し立てることにより,破産という最悪の事態を避けることができると聞いて,この度御相談に伺った次第でございます。A社の他の取締役である私の母親と妻も賛成してくれており,裁判所に納める予納金として必要なお金は,何とか工面してまいりました。
A社の財務の概要を御説明いたします。まず,最大の債権者はB銀行で,債権額は約2億円です。A社の唯一の資産であります旅館の土地建物に,第1順位の抵当権を有しております。
仕入れその他の取引業者の債権者は15社,債権総額は約3000万円です。それから,お恥ずかしい話ですが,法人税,社会保険料等の公租公課の未納分が約2000万円たまっており,また,従業員の過去1か月分の給料合計約200万円も遅配となっております。負債は以上のとおりです。
資産としては,先ほども申し上げましたとおり,唯一のものが旅館の土地建物で,B銀行の2億円の抵当権がついております。この土地建物についている担保権はこれだけです。この土地建物の時価は,温泉が出ることを考慮してもせいぜい1億円ではないかと,幾つもの不動産業者が査定を出しており,間違いのないところだろうと考えられます。しかし,B銀行は,この不動産の時価は1億5000万円は下らないはずであり,そのような前提で支払条件を示さない限り,抵当権の実行も辞さないと,強く主張しています。
この土地建物のほかには特段の資産はなく,裁判所への予納金を支払うと,手元の資金はわずかしか残っていない状態です。
こうした現状から,A社単独での再生は困難であり,どこかにスポンサーを見付けて支援をしていただかなければならないことは,私も理解しております。そこで,八方手を尽くして探しましたところ,ようやく1社だけ,支援を引き受けていただける会社が見付かりました。この会社は,同じ県内で幾つも旅館を経営しておりますQ社です。援助の条件といたしましては,出せる金額は1億5000万円が上限で,Q社自らが主体となって施設と従業員を引き受けて経営することを希望していますが,負債や抵当権の負担は引き継がないことを支援の条件としています。私どもも,旅館の経営者としての能力には限界を感じており,Q社に旅館を引き継いでいただけるのは有り難いと思っております。Q社としては,これからのシーズンを控えて,できるだけ早く引継ぎをすることを強く希望しておりまして,私としても,従業員を引き止めるにももう限界で,一刻も早くQ社に入っていただかなければならないと感じております。
ただ,A社の株主構成としては,私が株式の60%を有しているほか,遠方に住む2名の弟がそれぞれ20%を保有しておりますところ,弟たちは,民事再生を申し立てることには理解を示してくれましたが,旅館を人手に渡すことについては強く反対しており,簡単に納得してくれそうにありません。
このような現状ですが,どうかよろしくお願いいたします。
〔設 問〕
⑴ 弁護士としてA社を代理して再生手続開始の申立てをし,その手続中において,Q社に対し,同社の希望する条件で,A社の事業を承継させる方針を立てたとする。その場合に再生手続開始決定後に採るべき手続について述べなさい。
⑵ 下線 を引いた部分で示したB銀行の方針に対して,A社として採り得る対応策について述べなさい。
⑶ 再生手続開始直後,Pから以下のような相談を受けた。考えられる対処方法について論じなさい。
【Pからの相談内容】
昔から旅館の日本庭園の手入れをお願いしている庭師のCさんへの昨年秋の庭木の剪定の代金30万円が未払になっています。Cさんから,この30万円を直ちに支払ってもらわない限り,今後の作業はしないとの通告がありました。Cさんは大変な腕利きですし,うちの庭園のことは熟知していますので,他の業者に代えるのは大きなマイナスです。これからの行楽シーズンに向けて,すぐにでも庭園の手入れをしてもらう必要があるのですが,手元にあるお金で未払金を支払ってあげることはできないでしょうか。
2.前記1の相談内容に係る事案において,再生手続開始決定前,A社は建築業者D社に対して,旅館の離れの建物の改修工事を請負代金200万円で発注し,代金の一部として120万円を支払っており,再生手続開始決定時点において,工事は出来高2割の状態であったとする。A社とD社との間の請負契約が再生手続開始決定後にどのように処理されることになるのかについて説明しなさい。
出典:法務省「2009年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。