2009年 司法試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
〔第1問〕(配点:50)
次の事例について,法的な問題とそれに対する考えを述べた上で,XのY社に対する法的地位,権利関係について論じなさい(金銭債権に関して述べる場合は,平成21年5月31日を基準として,金額を明示すること。遅延損害金は考えなくてよい。)。
なお,Y社の就業規則(抜粋)は,後記のとおりである。
【事 例】
Xは,求人雑誌で衣料品等の販売を全国に展開するY社の販売員募集の広告を見て応募し,平成13年4月に期間の定めなく採用された。Xは,希望どおり自宅から徒歩15分のM店で販売員をすることになったが,雇用契約締結の際に,勤務場所や従事する業務について特別の話はなく,雇用契約書にもその記載はなかった。Xの給与は,基本給だけであり,平成20年4月以降は月額30万円で,当月分が毎月25日に支払われていた。Y社では,M店を含めて,就業規則は周知されていた。
ところが,M店店長(以下「店長」という。)は,平成20年12月20日,Xに対し,突然,平成21年2月1日付けでの本社総務課勤務を命じた。Xは,自宅療養中で介護が必要な父親と小学校低学年の子1人の3人暮らしであり,毎年4月と10月に行われる店長との面談で,家族の状況を話し,勤務店を変わることはできないことを伝えていた。Xが「本社は自宅から片道2時間半以上掛かり,通勤は不可能です。病気の父を抱え,家族が転居することはできないし,父と子を残して単身で転居することもできません。それに,これまで,希望していないのに販売員が異動になった例は,聞いたことがありません。」と話すと,店長は,「会社の方針で,人件費削減のために販売員は期間雇用のパート従業員とすることになり,販売員の中で給与が高いXを最初に異動対象とした。本社での具体的な仕事は,まだ決まっていない。給与は,通勤手当が付くほかは変わらない。本社勤務ができないなら,辞めてもらうしかない。」と話した。
Xは,異動に納得ができず,平成20年12月20日以降,店長に対して,家庭の事情などを繰り返し伝えて異動に応じられないと話したが,店長は,異動に従業員の同意はいらないと言って聞き入れなかった。Xは,平成21年2月1日にM店に行ったところ,異動辞令が出ていると言われ,店内に入れず,その後,出社しなかった。Xには,Y社から2度電話があり,本社に出社するように言われたため,M店なら勤務すると答えたが,「本社以外に勤務場所はない,M店では働かせない。」と告げられた。2月25日には給与が振り込まれず,2月27日に,3月1日付けで解雇するとの通知書が送られてきた。Xは,すぐに店長に電話して,解雇は認められないと抗議をしたところ,3月10日に,Xの銀行口座に30万円が送金されるとともに,同日,Y社から,「解雇理由は無断欠勤(就業規則第37条第1号,第5号)であり,送金したのは解雇予告手当である。」と記載された文書と,退職金の支給のための書類が送付されてきた。Xは,Y社に電話して解雇は認めないと伝え,退職金支給書類を返送しなかった。Y社の退職金規程によれば,Xが3月に退職した場合の退職金は105万円であった。
なお,Y社は,Xの後任として,2月1日からパート従業員1名を採用している。また,Xは,生活のため,4月1日から近所のコンビニエンスストアでアルバイトをし,4月と5月に各14万円の収入を得ているが,元のようにM店で働きたいと思っている。
【就業規則(抜粋)】
(転勤等)
第11条 会社は,従業員に対して,業務の都合により,就業の場所又は従事する業務の変更を命じることができる。
(解雇)
第37条 会社は,従業員が次の各号のいずれかに該当するときは,解雇する。
① 職務遂行能力が不十分又は勤務態度が不良でその職務に不適格であるとき。
②~④ (略)
⑤ 前各号に準じる事由があるとき。
出典:法務省「2009年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。