2008年 司法試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
〔第1問〕(配点:50)
以下の事例を前提として,各設問に答えなさい。
【事 例】
A社及びB社は乗合バス事業を営む会社である。A社の主要な営業地域は甲市であり,B社の主要な営業地域は乙市である。甲市は,東北地方の中央に位置する甲県の県庁所在地であり,その人口は約20万人である。乙市は,東北地方の太平洋側に位置する乙県の県庁所在地であり,人口約100万人の政令指定都市である。甲市と乙市との間の主要な移動手段には鉄道(JR)と自動車があるが,その移動に鉄道で約2時間30分,高速道路を利用した自動車で約3時間を要する。
甲市ではA社及びX社の2社の乗合バス事業者が,乙市ではB社,C社,Y社及びZ社の4社の乗合バス事業者が営業しており,所有バス台数による市場占有率(シェア)は,A社が甲市で75%,B社が乙市で50%である。なお,C社は乙市で30%のシェアを有している。
最近,高速バス(都市間を結び,停車する停留所を限定して運行する急行系統で,運行系統キロがおおむね50キロメートル以上の乗合バスをいう。)の運行について,国土交通省の規制が緩和され,新規参入が原則として自由となった。この結果,鉄道よりも料金が安いことから,高速バスの人気が上昇している。市場調査によれば,甲市-乙市間についても,高速バスに対する相当の需要が見込める状況にある。A社は,当初自社単独で甲市-乙市間の高速バスを運行する計画を立てたが,同社は乙市に営業地域を有しないため,乙市内のバス乗場及び車庫,乙市に在住する職員の確保等が困難であって,自社のみではその運行が困難であることが明らかとなった。同時に,他社の参入可能性についても調査したところ,甲市,乙市を主要な営業地域とする各社は,いずれも単独で甲市-乙市間の高速バスを運行することは事業経営上困難であろうとの予測結果が出た。
そこで,A社から,B社に対して甲市-乙市間の高速バスの共同運行を打診したところ,同社は関心を示し,この2社の間で高速バスの共同運行を行う計画が検討された。
ところで,甲市で一日のバス乗降客数が圧倒的に多いのは甲駅バスターミナルであるが,同ターミナルはA社の所有に係る施設であり,X社はその運行に係るバス路線のバス乗場をA社から賃借しているところ,その賃貸借契約においては,X社が当該乗場をどの運行路線の停留所として利用するかについてA社の承認が必要であるとされている。また,乙市において,ビジネス街,学校等に近接し,一日のバス乗降客数が格段に多いのは乙駅バスターミナルであるが,同バスターミナルにバス乗場を設置し,保有しているのは,乙市を主要な営業地域とする乗合バス事業者の中でB社及びC社の2社のみであり,ほかの2社は,乙駅から約1キロメートル離れた繁華街に2社共同のバスターミナルを設置し,主として郊外の住宅地との間の路線を運行している。
A社及びB社は,協議の結果,2社で甲市-乙市間の高速バスを共同運行することで合意に達した。その共同運行計画として合意した事項は次のとおりである。
⑴ 2社は,2社間で決定した運行時刻表に従って,各社のバス及び運転手を提供して高速バスを運行する。
⑵ 2社は,それぞれ自社の発券所において高速バスの乗車券を販売するが,乗客の混乱を避けるため,乗客は2社が販売した切符によりいずれのバスにも乗車できることとする。
一方,運賃の設定方法等については合意に達せず,なお複数の案を検討中である。それらの案とは,①案(共同運行である以上,2社の公平の観点から2社で協議して運賃を決定する。),②案(運賃は各自で決定し,運賃の配分も行わない。),③案(運賃は各自で決定することとするが,運賃売上げは共同でプールした上で,各社の運行回数比によって配分する。)の3案であり,いまだ決着をみていない。
〔設問1〕
あなたはA社から相談を受けた弁護士である(ただし,設問1に限る。)。
A社の担当者は,①案ないし③案について,「A社とB社がJR,自家用車に対抗して高速バスを共同運行するものであり,共同で運行時刻表を決定し,その決定に従って,それぞれのバスを運行させるのであるから①案が自然であり,また運営上も最も支障がないので望ましいということになった。他方で,バスの機材,人件費等を各社で負担するものであり,①案については法的リスクがあるかもしれないという危惧が呈され,②案が提出された。しかし,②案では,いずれのバスに乗客が乗車するか否かにかかわらず,発券した会社が売上げを保持し得ることとなり,バスの運行と無関係に収益が定まるから,不公平となるという反論が出された。そこで,折衷的に③の案が提案された。」と説明した。
上記⑴,⑵の内容の共同運行計画を前提として,運賃の設定等に関する①案ないし③案を比較しつつ,それらの案についての私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の問題点とその考え方を論じ,最大の利益が確保でき,かつ独占禁止法に抵触しないような案を示しなさい。
〔設問2〕
その後,A社及びB社は,独占禁止法に抵触しないような内容で運賃の設定方法を定めた共同運行事業協定を締結し,甲市-乙市間の高速バスの運行を開始したところ,人気を博し,当初期待した以上の売上げを達成した。また,高速バスへの乗換えを希望する乗客が,一般道においてもA社又はB社の乗合バスを利用する例が多くなったため,A社の甲市,B社の乙市におけるシェアは,それぞれわずかながら増加した。
そのような状況をみたX社は,甲市-乙市間の高速バスへの参入を企画し,C社に対して,共同で新規に甲市-乙市間の高速バスを運行することを提案した。C社も,X社の提案に対して前向きに応じ,両社による協議が開始された。
他方,C社は,X社の提案を契機に既存のA社及びB社による共同運行への参加についても検討したところ,A社及びB社の共同運行への参加の方がより採算性が高いとの試算結果が出た。そのため,C社は,A社及びB社に対して,その共同運行への参加を申し入れたところ,両社がこれに応じたため,X社との協議を打ち切り,A社及びB社の共同運行に参加することとした。
A社,B社及びC社の3社は,協議を進め,本件共同運行事業の協定に以下のような条項を盛り込んだ。すなわち,「本件共同運行に,3社以外のほかの事業者を加入させないものとする。また,甲市-乙市間の高速バスを運行し,又は運行しようとする3社以外のほかの事業者から甲駅又は乙駅内のバスターミナル内のバス乗場の利用の申出があった場合は,これを拒否する義務を負う。これに反した場合には,ほかの2社にそれぞれ違約金1億円を支払うものとする。」という条項である。その趣旨は,各社にとって,この高速バス事業は初めての試みであって,当該事業に必要な初期投資,すなわち,トイレ設備を有し,リクライニング仕様に優れた新車両の導入や新路線の停留所の設置,広告宣伝などにかなりの費用が必要であるため,相応の利益を確保し,投資金額を最大限回収し得るようにすることにあった。
以上のA社,B社及びC社の共同運行事業の協定について,独占禁止法上の問題点を論じなさい。
出典:法務省「2008年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。