司法試験論文式過去問演習

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2008年 司法試験 論文式 環境法 第2問

問題

配点 50点

〔第2問〕(配点:50)

A県内のB地区内に,石綿(アスベスト)を発生,飛散させる原因となる建築材料が大量に使用されている古いビル2棟(以下「ビル1」,「ビル2」という。)が隣接して存在していた。その所有者は,ビル1がC,ビル2がDであり,B地区住民であるEは,ビル1,ビル2と道路を面した向かい側に住居を構えている。Cが平成19年4月からビル1の解体作業をしたところ,Eは,自宅の敷地内の大気中に,石綿が浮遊していることを確認した。

Eは,石綿吸入による健康被害の不安を感じていたところ,今度はDが同年6月からビル2を解体する予定であることを聞き及んだ。Eは,近隣住民全体の健康に影響を及ぼすおそれがあると考えてB地区自治会に自治会として対策を講じるように申し入れた。これを受け,B地区自治会は,A県を介し,Dに対して石綿飛散防止の措置が十分に講じられるように求める申入れを行った。その結果,B地区自治会とDとの間で資料1のような内容の公害防止協定が交わされた。

その後,Dは,ビル2の解体作業に着手したが,E宅の敷地内の大気中に,公害防止協定第2条で定めた許容基準を超える石綿が浮遊していることが確認された。A県が調査したところ,Dは,石綿を発生,飛散させる原因となる建築材料の除去を行う場所をほかの場所から全く隔離していないことが明らかとなった。

資料2は,厚生労働省が石綿について一般向けに説明するために作成したパンフレットの抜粋であり,これを参照しながら,以下の設問に答えよ。

〔設問1〕

Dによるビル2の解体作業がなお続いているという状況の下で,A県知事としては,どのような措置を講ずることができるか。また,Eは,Dに対してどのような訴訟上の請求をすることができるか。

〔設問2〕

Dによるビル2の解体作業が終了したが,Eは,石綿吸入による健康被害の不安を抑え切れないでいる。Eは,C及びDに対してどのような訴訟上の請求をすることができるか。

資料1

公害防止協定書

B地区自治会とDは,Dが行うビル2の解体工事について,同ビルの近隣住民のために次のとおり公害防止協定を締結する。

第1条 Dは,その所有するビル2の解体工事に当たって,周辺に石綿を飛散させないための措置を講ずることを約束する。

第2条 Dは,近隣住民の自宅敷地内の大気中において,1リットルにつき1本を超える石綿を飛散させないことを約束する。

資料2

⑴ 石綿(アスベスト)とは?

石綿(アスベスト)は,天然に産する繊維状けい酸塩鉱物で「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。

その繊維が極めて細いため,研磨機,切断機などの施設での使用や飛散しやすい吹き付け石綿などの除去等において所要の措置を行わないと石綿が飛散して人が吸入してしまうおそれがあります。以前はビル等の建築工事において,保温断熱の目的で石綿を吹き付ける作業が行われていましたが,昭和50年に原則禁止されました。

その後も,スレート材,ブレーキライニングやブレーキパッド,防音材,断熱材,保温材などで使用されましたが,現在では,原則として製造等が禁止されています。

石綿は,そこにあること自体が直ちに問題なのではなく,飛び散ること,吸い込むことが問題となります。

⑵ 石綿が原因で発症する病気は?

石綿(アスベスト)の繊維は,肺線維症(じん肺),悪性中皮腫の原因になるといわれ,肺がんを起こす可能性があることが知られています(WHO報告)。石綿による健康被害は,石綿を扱ってから長い年月を経て出てきます。例えば,中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いとされています。仕事を通して石綿を扱っている方,あるいは扱っていた方は,その作業方法にもよりますが,石綿を扱う機会が多いことになりますので,定期的に健康診断を受けることをお勧めします。

石綿を吸うことにより発生する疾病としては主に次のものがあります。労働基準監督署の認定を受け,業務上疾病とされると,労災保険で治療できます。

ア 石綿(アスベスト)肺

肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものとしては石綿のほか,粉じん,薬品等多くの原因があげられますが,石綿のばく露によって起きた肺線維症を特に石綿肺と呼んで区別しています。職業上アスベスト粉じんを10年以上吸入した労働者に起こるといわれており,潜伏期間は15~20年といわれております。アスベストばく露をやめた後でも進行することもあります。

イ 肺がん

石綿が肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが,肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。また,喫煙と深い関係にあることも知られています。アスベストばく露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり,ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。治療法には外科治療,抗がん剤治療,放射線治療などがあります。

ウ 悪性中皮腫

肺を取り囲む胸膜,肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜,心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍です。若い時期にアスベストを吸い込んだ方のほうが悪性中皮腫になりやすいことが知られています。潜伏期間は20~50年といわれています。治療法には外科治療,抗がん剤治療,放射線治療などがあります。

⑶ どの程度の量のアスベストを吸い込んだら発病するのか?

アスベストを吸い込んだ量と中皮腫や肺がんなどの発病との間には相関関係が認められていますが,短期間の低濃度ばく露における発がんの危険性については不明な点が多いとされています。現時点では,どれくらい以上のアスベストを吸えば,中皮腫になるかということは明らかではありません。

⑷ 省略

⑸ アスベストを吸い込んだかどうかはどのような検査で分かるのか?

胸部エックス線写真でアスベストを吸い込んでいた可能性を示唆する所見が見られる場合もありますが,アスベストを吸い込んだ方すべてに胸部エックス線写真の所見があるとは限りません。

⑹ 吸い込んだアスベストは除去できるか?

いったん吸い込んだアスベストの一部は異物として痰の中に混ざり,体外に排出されますが,大量のアスベストを吸い込んだ場合や大きなアスベストは除去されずに肺内に蓄積されると言われています。

⑺ アスベストが原因で発症する疾患に特有の症状はあるか?

発病し,更にある程度進行するまでは無症状のことが多いと言われています。

⑻ 中皮腫や肺がんの発症を予防するにはどうすればよいか?

過去,石綿にばく露したことによる中皮腫や肺がんの発症を予防することについては現在有効な手段は明らかではありませんが,石綿を吸い込んだ方がすべて中皮腫を発症するわけではありません。吸い込んだ石綿の量,期間,種類によって異なります。

肺がんについては,石綿ばく露と喫煙との組合せで肺がんの発症は相乗的に上昇するとの報告があり,禁煙は重要です。

⑼ 省略

⑽ 省略

⑾ 昔,石綿工場の近くに住んでいたことがあるが大丈夫か?

中皮腫は吸い込んだ石綿の量が多いほど発症のリスクが高いと考えられており,労働者など直接石綿又は石綿含有の製品を取り扱う方は大量にかつ長期にわたって吸い込むので,最もリスクが高いと考えられています。

昭和30年代から40年代ころの間に石綿工場の周辺に居住していた住民の中皮腫の発症については,その実態が明らかではありませんが,国においても情報の収集等を行って,一般住民のリスクについて検討することとしています。

⑿ 省略

⒀ 省略

⒁ 省略

⒂ 建築物(事務所,店舗,倉庫等)はアスベストの危険性があるか?

建築物においては,

・ 耐火被覆材等として吹き付けアスベストが

・ 屋根材,壁材,天井材等としてアスベストを含んだセメント等を板状に固めたスレートボード等が

使用されている可能性があります。

アスベストは,その繊維が空気中に浮遊した状態にあると危険であると言われています。

すなわち,露出して吹き付けアスベストが使用されている場合,劣化等によりその繊維が飛散するおそれがありますが,板状に固めたスレートボードや,天井裏・壁の内部にある吹き付けアスベストからは,通常の使用状態では室内に繊維が飛散する可能性は低いと考えられます。

吹き付けアスベストは,比較的規模の大きい鉄骨造の建築物の耐火被覆として使用されている場合がほとんどです。

建築時の工事業者や建築士等に使用の有無を問い合わせてみるなどの対応が考えられます。

⒃ 建築物(事務所,店舗,倉庫等)に吹き付けアスベストが使用されている場合においては,どうしたらよいか?

吹き付けられたアスベストが劣化等により粉じんを発散させ,労働者がその粉じんにばく露するおそれがあるときは,除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じなければならないこととされています。

出典:法務省「2008年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。