司法試験論文式過去問演習

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2007年 司法試験 論文式 民事系科目 第2問

問題

配点 200点

[民事系科目]

〔第2問〕(配点:200〔設問1から設問3までの配点の割合は,10:6:4〕)

次の文章を読んで,以下の1から3までの設問に答えよ。

Ⅰ XとYの間には,美術工芸品甲の売買契約をめぐって争いがある。以下は,この紛争について,Xの側のJ弁護士とYの側のK弁護士が平成18年5月初めに確認した【弁護士間で確認された事実】,【Xの言い分】,【Yの言い分】及びK弁護士と弁護実務修習中の司法修習生L(以下「L修習生」という。)が平成18年5月末に交わした【K弁護士とL修習生の会話】である。

【弁護士間で確認された事実】

1. 平成17年9月ころ,美術品収集家のXは,Yの勧めに応じて,p国在住のAが制作した美術工芸品を買うことにした。Yは,外国を歩き回って現地の美術工芸品を買い付け,それを輸入して売っている者であり,Aから,既に完成している作品甲の売却の内諾を得て,買主を求めていた。

2. Aの作品は,p国の伝統的な祭祀具に独自の工夫を凝らしたものであり,その大きさ・装飾・塗り等も一つ一つ異なっている。そして,作品の目立たない箇所には,作者の銘・完成年月日・作品番号などが刻印されている。YはAが制作した甲の写真をXに見せて購入を勧めた。

3. 9月28日,Yは,Xと代金額・支払時期などについて協議したことを反映させたメモを作成し,Xに交付した。そこには,次のような趣旨が記載されていた。

① 甲の代金額
600万円
② 甲の納品日と場所
平成17年12月7日,Xの自宅に届ける。
③ 支払期日
内金200万円申込み時
中間金200万円平成17年12月7日
残代金200万円平成18年1月10日
④ 支払方法
中間金は甲の納品時に現金で支払う。それ以外は,○○銀行××支店Y名義の普通預金口座に振り込んで支払う。
⑤ 所有権移転時期
甲の所有権は代金完済時にXに移転するものとする。

4. 9月28日,Yはメモを交付する際,「甲は,私が費用を払って船便で日本に輸送するが,p国からの船便は月に2便程度で,輸送には1か月前後を要する。納品は,メモのとおり12月初旬を見込んでいるが,船便の状況によっては,1か月程度は遅れるかもしれない。」と説明した。これに対して,Xは,「それくらいの遅れなら構わないが,どんなに遅くとも来年(平成18年)2月末日までに甲を納品して欲しい。」と述べただけで,Yの申込みに対して確定的な返事をしなかった。

5. 10月1日,Xは,Yの指定する銀行口座に,あらかじめ預かっていた振込用紙を用いて200万円を振り込んだ。

6. 10月6日,Yは,Aに国際電話で甲の売買契約の申込みをして,Aの承諾を得た。そして,同日,甲の代金の一部をAの銀行口座に送金した。

7. 10月28日,Yは,他の美術工芸品の買い付けを兼ねて再びp国に渡航した。Yは,Aに代金の一部を支払って甲の引渡しを受け,翌日,B運送会社に船便で甲をp国から日本に向けて送ることを依頼し,これを引き渡した。この時点では甲に傷はなかった。

8. 12月5日に日本でBから甲を受け取ったYは,同月7日,X宅に甲を持参し,Xは,準備した中間金200万円をそろえて応対した。しかし,その場で梱包を解いて,作者銘などの刻印を調べようとしたところ,甲の扉の可動部分の根元に亀裂と塗りの剥落があって開閉に支障があり,Xが扉を慎重に開けようとした際に,支持部品が折れてしまった。このため,Xは,甲の受領を拒み,用意をしていた中間金200万円を支払わなかった。Yは,仕方なく甲を持ち帰り,運送品に傷が生じていたことをBに連絡し,Bから事実関係を調査するとの回答を得た。

9. 12月8日,Yは,同業者の友人に甲を鑑定してもらい,甲の価格は,傷があれば300万円程度になってしまうだろうとの評価を聞いた。Yは,その事実は伏せて,Xに,急いでp国に渡航して甲の修理が可能かどうかをAに尋ねてみるので待って欲しい旨を依頼し,この点ではXの同意を得た。しかし,「甲の残代金をAに支払う必要があるので中間金を直ちに支払って欲しい。」というYの懇請を,Xは拒絶した。

10. 12月10日,p国に渡航したYは,自分が工面した金でAに甲の残代金を支払った。Yが,持参した甲の破損部分の写真をAに見せて尋ねたところ,Aは,「傷が分からなくなるような修理は可能であるが,甲をいったん分解し,傷のない部品と取り替えて組み立て直し,全体の塗装もやり直す作業が必要なので,修理には約2週間の期間と50万円の費用を要する。仕事が詰まっているため,早くても修理に取り掛かれるのは1か月先になる。」と答えた。

11. 12月12日,帰国したYはX宅を訪れて修理に要する費用や期間について説明し,修理品の納品は早くても2月半ば以降になると述べた。これに対して,Xは,傷のある甲は受け取れないと述べた。甲の修理をAに依頼するのかどうかについて話を詰める前に,Yが,中間金の支払と甲の修理費用の前払を求めたところ,Xは激怒し,「どれだけ遅くても来年2月末までに,傷を修理した甲を持ってこなければ,支払済みの200万円は返してもらうし,損害賠償も払ってもらうから覚悟しておけ。」と述べてYを追い返した。

12. 12月25日,BからYに荷物の破損に関する相談があり,Bは,Yに対して,鯨が輸送船にぶつかるというこれまでに経験のない事故があったため甲が破損したと推測されると説明した上,日本とp国の間の往復の船便の輸送料及び甲の修理代金50万円はBが支払う旨の約束をした(なお,BからYに上記支払約束を確認する旨の書面が平成18年1月末に届いているが,甲の破損の経緯は,その後も不明である。)。そこで,Yは,Aに対して,国際電話をかけ,「甲を運送業者Cに頼んで航空便で送るので,早急に修理して欲しい。修理を完了した甲は,あなたのところに取りに行って船便で日本に送るようCに頼んであるので,修理の完了をCのp国現地事務所に連絡して欲しい。修理代金は,修理済みの甲の受領確認と発送の連絡がCからあり次第送金する。」旨を述べた。Yは,Aの承諾を得たので,翌日,甲をCに取りに来てもらって,A宛に航空便で送った。

13. 平成18年1月25日,Yは,Cから,「修理済みの甲をAより受け取り,直近の船便で送る。日本への到着予定は3月5日になる。」との連絡を受けた。Yは,修理代金50万円をAの銀行口座に送金した。さらに,Yは,甲の修理が完了した旨をXに電話で連絡した。Xが甲を航空便で送るよう求めたのに対して,Xが費用を負担してくれるなら手配すると返答したところ,Xは「それなら結構だ。」と言って電話を切った。そこで,Yは,Cに運送方法の変更を指示せず,甲は船便で日本に輸送された。

14. 3月5日,Yは,Cから甲を受け取り,梱包を解いて傷がないことを確認した。同月7日,Yは,甲をX宅に持参して,受領と引換えに残代金400万円の支払を求めたが,Xは,契約は既に解除したとして,甲の受領も残代金の支払も拒絶した。

【Xの言い分】

甲は,Dからの依頼を受けて平成18年5月に開催されるある美術展に出展するため,少し高いと思ったが,平成17年12月には納品できるということだったので買った。Dの主催している美術展は有名で,今回,甲のような美術工芸品がテーマとなっていたことは,Yも知っていて当然だし,だからこそYは私に甲を売り込んできたに違いない。甲が2月中に引き渡されなかったため,出品物の図録撮影に間に合わず,美術展への出展は不可能になった。これでは,何のために高い買物をしたのか分からない。

Yが甲を持参したのは,約束した納品期日を3か月も過ぎている。こんなに遅れたのは,甲に傷が付いたためだが,その原因はBの運送ミスにあり,そんな業者を選んだYに責任がある。それなのに,傷物を持ってきた挙げ句,中間金の支払が遅れているとか,私に修理代の50万円を負担しろなどと言ってきたのだから論外である。私は,甲の修理をAに依頼したり,修理品を船便で送ることには同意していない。Aへの修理依頼や船便での運送はYが自らの判断でやったことである。遅くとも2月末には納品してくれなければ困ることは,契約前に言っておいたし,12月12日にも警告した。さらに,1月25日にYが電話してきたときにも,私はYに甲をp国から航空便で送れと言った。傷の修理に時間がかかったのに,こちらの正当な要求を無視して,更に1か月もかけて船便で送るとは,人を馬鹿にしている。

1月25日に,私は,船便で送るような態度をとるなら,もうこの契約は結構だ,と今一度警告した。私は,2月末までは残代金400万円を支払う準備をしていたのだが,2月末に甲が届かなかったことでこの契約は終わっているから,支払っていた200万円を早く返して欲しい。また,私は,甲を自宅で保管するために,昨年(平成17年)の10月30日に20万円する特注のアクリルケースを専門業者Eに注文していた。これが不要になったので,3月3日に,私はEに8万円を支払って契約を合意解除せざるを得なかった。美術品収集家としての私の評判は地に落ちた上,美術展が開催される20日間,甲をDに貸していたら得られたはずの10万円の賃料を得ることもできなくなった。こうした損害は,Yにはきちんと賠償してもらいたい。

【Yの言い分】

5月にD主催の美術展があることは,もちろん知っているが,そこにXが甲を出展するなどという話は初耳である。

そもそも,甲に傷が付いたことについて,私には責任がない。甲の破損は不可抗力によるものである。仮にBに過失があったとしても,私は甲が壊れやすい高価品であることをBに示してきちんとした梱包の依頼をしていたのだから,専門家のBを信頼して任せた私のどこに落ち度があるというのか。だからこそ,甲の破損についてBは,日本とp国の間の往復の船便の輸送料及び甲の修理代金50万円を支払うと言っている。Bは大企業であって,事後処理についての交渉態度も誠実で,Xの言うようないい加減な業者ではない。

私としては,本来なら甲をそのままでXに渡せば十分だったはずで,私が航空運賃や修理代金50万円を取りあえず立て替えてまでAに修理を依頼したのは,修理を求めるXの指示に従ってそれに誠実に応えたためである。修理によってこの程度の納品の遅れが出ることは,Xにも伝えてあり,むしろXがそれを了解した上で,強く甲の修理を求めていたのである。

その後も,私は,修理のために甲を航空便で送るなど,速やかな納品のためにできる限りのことをやった。3月7日の納品は,むしろ最善の努力の結果である。Xは,12月12日に会ったときにも,1月25日に電話連絡をした折にも,確かに2月中の納品を求めていた。しかし,美術展に間に合わなくなるなどという事情については,Xは何も言っていなかった。また,航空便は船便の何倍も費用が掛かる。契約では船便で送ることになっているから,船便で送った甲が届くのが3月初めになったことには何の問題もない。運送費用の増加分を負担もせずに航空便で送れなどと要求するのは身勝手であり,Xも最終的には船便で結構だと無茶な要求を引っ込めたではないか。

また,3月7日に至るまで,Xは,一度も契約を解除すると明言したことがない。3月7日になって唐突に解除を主張するのは,私が努力してきたことを無意味にしてしまうもので,全く理不尽である。

逆に,私は,Aに甲の代金を支払うため,資金が必要だった。こうした事情は,Xの要望を容れて代金を分割払にした経緯から,Xも十分承知していたはずである。それにもかかわらず,Xが中間金を支払ってくれなかったので,私は自分で支払資金を別途工面しなければならず,非常に迷惑した。本来文句を言えないはずの甲の傷を理由に,甲の受取を拒絶して中間金を支払わなかったXの態度こそ不当である。

【K弁護士とL修習生の会話】

K弁護士: 今月初めに,X側のJ弁護士との間で事実の確認をした上で,折り合いがつかないかと話し合ってみましたが,Xは,あくまでも裁判で決着をつけたいようです。Yのために,Xがどういう主張をしてくるかを予想した上で,それに対して,Yとしてはどう反論するかを考えておかなければなりません。そこで,本件について検討し,その結果を私に報告して欲しいのです。

L修習生: 先生,それでは,判例の考え方に沿って,まずは,Xが主張してくる法的構成を予測して,それへの対応を考えればよいのですか。

K弁護士: 基本はそうですが,判例と異なっていても,通説や有力説があって,Xに有利となれば,X側は,それに沿って法的構成を工夫してくることも考えられます。

L修習生: そうなると,判例と学説の対立があれば,それも整理しておく必要がありますね。

K弁護士: 本件と関係ない点についてまで詳しく整理・検討したゼミの報告みたいなものを書いていただく必要はありません。あくまで確認された事実に照らして,お互いにどういう主張をすることになるのかを中心に,簡潔にまとめて欲しいのです。また,こちらの言い分をきちんと主張するのは当然ですが,Xの言い分が仮に認められた場合についても,さらに,こちらとしては対応を考える必要がありますね。

L修習生: 例えば,私は,Yの言い分に沿ってYには帰責事由がないことを強く主張しようと考えていますが,裁判所に,帰責事由がないとはいえない,と判断される場合の対応も考える,ということでしょうか。

K弁護士: それは一つのポイントですね。その点は,契約解除の根拠の一つにも関係してきますね。それについて,私には,気になっている点があります。近時,債務者の帰責事由を必要とせずに契約の解除ができるという考え方も,学説では有力に主張されているようですね。

L修習生: はい,以前から,履行遅滞による解除に帰責事由は不要とする見解がありますし,近ごろは,債務不履行一般について重大な債務不履行があれば帰責事由がなくても解除ができるという見解もあります。ただ,こうした見解を細部まで正確に理解して理論的な反論を準備するのは,私には少し荷が重いです。

K弁護士: 分かりました。ほかにも学説はあるようですから,そういう理論的な問題は,X側の具体的な主張を見た後で,一緒に検討しましょう。場合によっては,友人の大学教授に話を聞いてみます。君は,仮に債務不履行を理由とする解除には帰責事由を要しないという見解が採用されたとしても,確認された事実に即して考えた場合,Xは本件契約を解除できない,という主張が可能かどうかを考えてください。

L修習生: はい。ところで,先生,Yの側から未払代金等の支払を求める反訴を起こすことも検討しなければいけませんか。

K弁護士: その点は私が検討しますから,書かなくてよいです。いろいろ言いましたから,課題を整理しましょう。まず,(a)支払済み代金200万円の返還と18万円の損害賠償を請求するためにXが主張してくると予想される様々な実体法上の法的構成を,確認された事実を前提として検討してみてください。次に,(b)Yはこれに対して,どのように反論すればよいかを考えてみてください。先ほど言いましたように,帰責事由がなくても債務不履行を理由とする解除ができるという解釈論の当否自体の検討はしなくてもよいです。以上の2点について報告書を書いてきてください。

〔設問1〕 あなたがL修習生であるとして,K弁護士が指示した課題(a)及び(b)についてどのような報告をすべきか,検討の結果を述べなさい。なお,本件については,すべて日本法が適用されるものとする。また,解答に当たっては,後記Ⅱ以下の事実は考慮しないこと。

Ⅱ 前記ⅠのXY間の売買契約に関して,平成18年6月15日,XがYに対して訴えを提起したところ,その訴訟は,次のように推移した。

1. Xは,Yに対して,甲の売買契約を解除したとして,原状回復として支払済みの売買代金相当額200万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みまで年6分の割合による利息,並びに債務不履行に基づく損害賠償として250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めて,訴えを提起した。なお,訴状は平成18年6月22日にYに送達されている。

2. Xの訴状には次のような記載があり,Xは第1回口頭弁論期日において訴状の内容を陳述し,また,同期日において甲4号証その他の書証を提出した。なお,甲4号証にはF名義の署名があるだけで,捺印はされていない。

【訴状】

<前略>

第1 請求の趣旨

1 Yは,Xに対し,200万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え

2 Yは,Xに対し,250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え

3 訴訟費用は被告の負担とする

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

第2 請求原因

<中略>

5 平成17年12月12日,XはYに対して,「どれだけ遅くても来年2月末までに,傷を修理した甲を持ってこなければ,支払済みの200万円は返してもらうし,損害賠償も払ってもらう。」と述べて,修理済みの甲の引渡しを催告すると同時に,平成18年2月28日の経過をもって甲の売買契約を解除する旨の意思表示をした。

<中略>

8 Xは,Xが甲を購入し美術展に出展する話を聞き付けた同好の美術品収集家Fから,平成17年11月上旬ころから,美術展終了後に甲を譲り渡して欲しい旨の懇請を受けていた。そして,同年11月28日,Xは,Fとの間で,美術展終了後の平成18年6月10日を引渡し期日として,甲を850万円で転売する旨の契約を締結したが,Yが甲を適時に引き渡さなかったために,購入代金600万円と転売代金850万円の差額250万円を得ることができなかった。

<中略>

第3 証拠

<中略>

3 請求原因8の事実は,F名義の文書(甲4号証)で証明する。

<後略>

【F名義の文書(甲4号証)】

平成17年11月22日

X様

本日はお目にかかることができず,残念でした。

先日来お願いしておりますように,甲を是非ともお譲り下さい。来年の6月8日までに850万円を用意することができる予定ですので,同日以降に代金の決済と甲の引渡しを行うということで,お願いできれば幸いです。改めて御連絡いたしますので,御検討のほどよろしくお願いいたします。

F(署名)

3. Yは,第1回口頭弁論期日において,あらかじめ提出していた答弁書に従って,「Xの請求をいずれも棄却するとの判決を求める」との請求の趣旨に対する答弁をした上で,「旧知のFに甲の購入の事実を問い合わせたところ,『覚えがない』とのことであったので,訴状記載の請求原因8の事実は否認する」と述べた。そして,(陳述①)「『覚えがない』と言っているFがこのような文書を作成したとは考えられないので,甲4号証の成立も否認する。」との陳述をした。

4. また,Yは,第1回口頭弁論期日において,訴状の請求原因5の記載について「『どれだけ遅くても来年2月末までに,傷を修理した甲を持ってこなければ,支払済みの200万円は返してもらうし,損害賠償も払ってもらう。』とのXの発言があったことは認める。」という陳述をした。第1回口頭弁論期日の後,弁論準備手続が開始され,同手続は計3回の期日をもって終結した。

その後,Fの証人尋問並びにX及びYの当事者本人尋問を行うために,第2回口頭弁論期日が開かれたが,この期日の冒頭の弁論準備手続の結果陳述に引き続いて,Yは(陳述②)「訴状の請求原因5記載のXの発言のうち,『支払済みの200万円は返してもらう』旨の発言があったことは否認する。」との陳述をした。そして,(陳述③)「仮に訴状の請求原因5記載のとおりのXの発言があったとしても,それが解除の意思表示に該当することは争う。」との陳述もした。

なお,受訴裁判所は,弁論準備手続における両当事者との協議の結果,この第2回口頭弁論期日をもって弁論を終結する予定にしている。

〔設問2〕 下線部のYの陳述①から③までに関する次の設問に答えなさい。なお,設問はXが訴状で採用した実体法上の法律構成の当否を問うものではない。

(1) 陳述①の訴訟法上の効果を,Yが甲4号証の成立について認否をしなかった場合と比較して,論じなさい。

(2) 陳述②と③の訴訟法上の効果(攻撃防御方法としての許容性を含む。)を論じなさい。

Ⅲ 以下の問題は,前記Ⅱの訴訟を前提としている。ただし,第2回口頭弁論期日が開かれる前であるものとして答えなさい。

Yは,第3回弁論準備手続期日が終了した後に,このまま訴訟を続けると業界の噂になって,他の顧客との取引に支障が出かねないと考え,ある程度の譲歩をしてもよいので,何とか訴訟を終わらせてほしいと,K弁護士に相談した。そこで,K弁護士は,X側のJ弁護士に協議を申し入れた。K弁護士は,J弁護士から,Xが「以前から欲しいと思っていたY所有の仏像乙を手に入れることができるのであれば,訴訟にはこだわらない。」と述べているという話を聞かされたので,そのことをYに伝えたところ,Yは「乙であれば手放してもよい。」とK弁護士に述べた。このことをJ弁護士に伝えると,J弁護士から,次のような提案があった。

「YがXの請求債権が存在することを認めた上で,乙を代物弁済としてXに譲渡するのであれば,訴訟については矛を収めることにする。その方法だが,(方法①)Yが1週間以内にXの自宅に乙を持参すれば,その場で訴えの取下げを合意する契約を結び,きちんとした契約書を作る。その方法が嫌であれば,(方法②)次回の口頭弁論期日にYが乙を持参して,法廷でXに手渡してくれれば,請求債権はそれで消滅したということで,その期日に請求の放棄の手続をとる。あるいは,(方法③)同じく法廷で乙を授受することを前提として,YがXの請求債権を認め,これが代物弁済によって消滅したこと及びXとYの間に本件に関し一切の債権債務が存在しないことを相互に確認する旨の訴訟上の和解をするということでも結構だ。」

〔設問3〕 K弁護士の立場で,①から③までのいずれの方法をXの側に求めるべきかにつき,訴訟法上の観点から論じなさい。ただし,訴訟費用の問題を論ずる必要はない。

出典:法務省「2007年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。