司法試験論文式過去問演習

過去問の答案を投稿・採点

2007年 司法試験 論文式 民事系科目 第1問

問題

配点 100点

[民事系科目]

〔第1問〕(配点:100)

次の文章(資料①から③までを含む。)を読んで,後記の設問1及び設問2に答えよ。

1. 甲株式会社(以下「甲会社」という。)は,自動車の電子部品を製造する会社である。甲会社は兄弟であるA1とB1が中心となってその設立を行ったものであり,その後も,A1が代表取締役社長,B1が取締役副社長として,甲会社の共同経営を行ってきた。

2. 甲会社は,平成7年4月に,多角化の一環として,ゲームソフト開発部門を創設した。その際,B1と親交があったCがゲームソフト開発部門の責任者に就任した。Cの入社を契機として,甲会社の業績は急速に向上した。甲会社は,平成15年4月には,東京証券取引所(マザーズ)に上場を果たした。初値は1560円を記録し,その後も,甲会社の株価は1000円台で推移した。

3. 甲会社の取締役会は5名で構成され,A1及びその妻A2,B1及びその友人B2並びに取引金融機関から出向しているDが取締役に就任していた。

4. 甲会社の業績は好調であったが,平成17年の秋以降,過酷な競争にさらされ,その成長に陰りが見え始めた。これとともに,その経営方針をめぐって,A1とB1との間で争いが生ずるようになり,甲会社の株価も300円前後と低迷した。

5. このような状況下で,自動車部品の総合メーカーである乙株式会社(以下「乙会社」という。)から,甲会社に対し,自動車部品の製造におけるシナジー(相乗)効果を期待して,経営統合の話が持ち込まれた。A1は,自動車部品製造の業界における自力での生き残りは難しいと判断して,乙会社の提案に前向きの姿勢を見せた。これに対し,B1は,あくまで自主経営を目指すべきであるとして,B1を中心とする経営陣による甲会社株式に対する公開買付けの実施について外資系ファンドとの交渉を始めた。甲会社をめぐるこれらの動きが新聞で報道されたことを契機として,甲会社の株価は平成18年5月中旬には900円台に急騰した。

6. 平成18年6月7日,甲会社は,臨時取締役会を開催して,乙会社に対する募集株式の第三者割当てを決定した。この件に関しては,甲会社の株主総会は開催されていない。かかる決定に際しては,B1らの反対が予想されたため,A1は,B1及びB2が海外出張に出かけた時期を見計らって臨時取締役会を開催することとした。甲会社の定款には,取締役会の招集通知について会日の2日前までに発するとする定めがあり,当該取締役会の書面による招集通知はB1及びB2が海外出張中である6月4日に発され,また,B1及びB2は,同日に電子メールでも招集通知と同内容の連絡を受けた。しかし,B1及びB2は,結局6月7日の臨時取締役会までに帰国することができず,同取締役会では,取締役5名中3名が出席し,出席者全員の賛成で募集株式の発行に係る議案が可決された。資料①は,この臨時取締役会の議事録である。

7. 乙会社においても,同日,甲会社株式を引き受ける件について,取締役会で全員賛成の決議がされた。株式を引き受けるに当たり,乙会社では,○○法律事務所に依頼し,意見書を受領しているが,資料②は,この意見書の抜粋である。また,乙会社は,甲会社の財務状況及び経営統合の効果についての調査を△△監査法人に依頼し,報告書を受領しているが,資料③は,この報告書の要旨である。乙会社がこの募集株式に対して払い込んだ金額は,平成17年12月7日から平成18年6月6日までの6か月間の甲会社の株価の平均額に90パーセントを掛け合わせたものとして算定されている。

8. 海外出張から帰国したB1は,かかる第三者割当ての決定に対して猛烈に反発した。そこで,A1は,ゲームソフト開発部門の事業譲渡等によるB1の独立を提案してB1と交渉を開始したものの,その途中に,先の第三者割当てによる募集株式の発行を強行した。結局,B1の独立は実現しなかった。第三者割当ての実施によって,乙会社は,甲会社の議決権の55パーセントを保有する株主となった。なお,第三者割当てによる募集株式発行については,適法な公告が行われたほか,募集株式の割当て及び払込みについての手続に法令違反はなかった。

9. 乙会社の子会社となった甲会社では,平成18年9月29日開催の定時株主総会において,任期満了となったB1及びB2を取締役として再任せず,また,A1及びA2に加えて,新たに乙会社関係者を取締役に選任した。

10. 第三者割当ての実施後,甲会社の株価は600円台で推移した。その後,平成18年12月に,甲会社のゲームソフト開発部門の中心であったCがゲームソフト会社の大手である丙株式会社に好条件で引き抜かれ,そのニュースが業界誌に掲載されたことにより,甲会社の株価は急落した。乙会社は,平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)の決算に当たり,甲会社の株価が140円と,取得価格の50パーセントを割り込んだことから,監査法人の意見に従い,保有する甲会社株式の評価額について1株当たり300円から140円にする減損処理を行った。

11. Xは,平成17年9月1日に乙会社の株式を1単元購入し,以後これを継続して保有している株主である。Xは,平成19年5月に,乙会社に対し,甲会社から第三者割当てを受けた当時からの乙会社の代表取締役社長Y1及び担当取締役Y2は取締役としての善管注意義務に違反して甲会社の株式を引き受け,同株式の減損処理による損害を乙会社に与えたとして,Y1及びY2に対する損害賠償責任を追及する訴えを提起するように求めた。なお,Xは,損害賠償額として,甲会社1株当たり160円の減損処理額に乙会社の引き受けた株式数を乗じた金額を主張している。

〔設問1〕

甲会社の乙会社に対する募集株式の発行が行われた後において,B1はどのような法律上の措置を執ることができるか,あなたの意見を述べなさい。

〔設問2〕

Y1及びY2の乙会社に対する責任について,あなたの意見を述べなさい。

資料①

臨時取締役会議事録

平成18年6月7日午後1時15分,当本社会議室において,取締役5名中2名欠席のもと取締役会を開催した。取締役社長A1が議長席につき次の議題を付議した。

(決議事項)

1. 募集株式の発行について

取締役社長A1から,下記の条件で乙株式会社に対して募集株式の発行を行うことについて提案があった。質疑応答の後,付議され,出席者全員異議なくこれを決議した。

(1) 発行方法:第三者割当てによる

(2) 払込金額:1株当たり300円

(3) 発行株式数:550万株

(4) 株式の種類:普通株式

(5) 払込期日:平成18年6月26日

(6) なお,本件株式の発行後,乙会社は当社の発行済株式総数の55パーセントの株式を保有する株主となる。

以上をもって議題の審議を終了したため,議長は午後2時15分閉会を宣した。

この議事の経過の要領及び結果を明確にするため,本議事録を作成し,出席取締役及び出席監査役はこれに記名押印する。

平成18年6月7日

議長 取締役社長 A1 印

取締役 A2 印

取締役 D  印

常勤監査役 E1 印

社外監査役 E2 印

社外監査役 E3 印

資料②

○○法律事務所の意見書の抜粋

(略)

Ⅲ ソフト開発部門関係

1 調査結果

ⅰ 本件事業部門の概要について

本件事業部門は,売上こそ対象会社の全売上額の20パーセントにすぎないが,経常利益の段階では,他の部門がいずれも赤字となっていることから,全体の100パーセントを占めており,正に,対象会社の収益のかなめである。

本件事業部門の製品(以下「本件製品」という。)は,いわゆる「次世代ゲーム機用ゲームソフト」と呼ばれるものであるが,対象会社の本製品は,過去において業界で高い評価を得ている。

対象会社がこの事業を行うようになったのは,約11年前に,Cが,当時経営していたゲームソフト開発会社が経営難となった際に,大学時代の先輩である対象会社の現経営者の一員であるB1に援助を要請し,対象会社の支援によって,当該ゲームソフト会社の負債を整理し,対象会社に新設されたゲームソフト開発部門の責任者として入社したことからである。

その後,Cに対しては,何回もヘッドハンティングの誘いがあったが,Cは,このような経緯から,B1に対する恩義を感じて,これを断ってきたとのことである。

また,これらの具体的な開発作業を行っているのは,対象会社の従業員ではなく,下請契約を締結した個人のSE(システムエンジニア)であるが,企業への帰属意識は低い。

ⅱ 基本契約の締結状況と内容

開発の発注元との間では,必ず契約が締結してあり,その管理態勢についても何ら問題となるべきところはなかった。

また,SEとの下請契約についても,全員との間で締結されており,その内容も含めて特に問題はないと考えられる。

ⅲ 契約内容における特殊な条項について

Cは,ゲームソフト業界において,カリスマゲームクリエイターと呼ばれるほどの人気を誇っており,過去,数々のヒット商品を世に送り出している。

そのために,取引先とのソフト開発基本契約においては,Cの継続雇用が契約存続の条件となっているものが大半である。

2 結論

ⅰ 前記のような事情から考えて,今後,対象会社の経営陣が交代することとなった場合には,Cが独立し,又は競争会社へ転職する可能性が高い。なお,対象会社には,割増退職金を受領した者についての退職後1年間の競業禁止規定があるが,その受領は退職者の選択に任されており,Cがこれを受領する可能性は極めて低い。

なお,開発基本契約は,前述のように,Cの雇用継続を条件とするものが多いが,開発完了後については,この適用はなく,対象会社に対するプレミアムフィーの支払は,Cが退職したとしても,一定期間(2年が大半である)継続される。

ⅱ さらに,下請のSEの大半は,Cのカリスマ性からこれを慕って集まっている者であり,Cの退職後も対象会社との下請契約を締結することは考えにくい。

以上のような事情を考慮すれば,対象会社において,第三者割当増資を行って,現経営陣,特にB1を更迭することとなれば,Cも退職するおそれが高く,その場合には,本件事業部門において,現状のような収益を今後も継続して上げていくことは非常に困難であると考えられる。

(略)

資料③

△△監査法人の報告書の要旨

経営統合に基づく経済的効果について

貴社は,本件甲会社との経営統合の経済的効果として,約24億円の相乗効果があるとの判断に基づいて,事業計画を立てている。そこで,その妥当性について,以下検討する。

1 事業計画書の記載とその妥当性の検証

(1) 研究開発費の低減

事業計画書には,貴社における研究開発費約200億円のうち,15パーセントを占める電子部品関連について,これを半減し,約15億円減額することができるとの記載がある。

貴社は,最終商品に関する機密保持の問題もあり,電子部品について独自に研究開発をしている。しかし,そのうち多数のものについては,単価や性能の問題から,現在,甲会社製品の供給を受けている。そこで,貴社がその製造する商品に合わせた基本性能を示して,電子部品を甲会社に開発させ,あるいは,甲会社と共同して開発を行うことにより,研究開発費の大幅な低減が可能である。そこで,前記事業計画書記載の研究開発費の低減は,その実現性について不合理なものとは考えられない。

(2) 開発期間の短縮

事業計画書には,(1)記載のような研究開発部門の統合により,新製品に使用する電子部品の開発期間がおおむね半分の9か月ほどに短縮することができ,これによって,部品調達コストを2パーセント低減することができるとの記載がある。

技術コンサルタントの試算によれば,開発期間が,平均でも現状の半分程度に短縮可能とされている。また,今後,甲会社との共同開発が可能な部品の調達額を前提とした場合には,この開発期間短縮による効果は,人件費などを含めて総合すれば,約6億円と試算されている。これらは,高度な専門分野の問題であるが,その判断過程などにおいて,合理性を欠くと考えられる部分はなく,この判断を前提とした事業計画の内容については不合理なものとはいえない。

(3) 製造計画に応じた調達と流通コストの低減

事業計画書には,貴社グループ工場の一角に甲会社工場を移転することにより,貴社の生産計画に応じて,電子部品の供給を受けることが可能となり,かつ,これによって流通コストを低減することができるとの記載がある。その前提とされた技術コンサルタントの試算による,ⅰ)貴社の主力工場に隣接する現在利用されていない貴社第21工場を甲の工場として利用した場合の移転費用の算出,並びに,ⅱ)これによる流通コスト削減に関する考え方に不合理なところは見当たらず,これを前提とした削減効果についても不合理なものとはいえない。

したがって,これらの効果を約3億円としている事業計画書の記載には,不合理な部分は見当たらない。

(4) 人材交流の実施

事業計画書には,研究者の人材交流を通じて,貴社新製品の開発について,部品開発も含めた一貫した発想が生まれる可能性があるとの記載がある。

確かに,人材交流の実施による効果に関する前記事業計画書の記載に不合理な点は認められないが,具体的な効果の算定は不可能である。

2 結論

以上の検討により,本件甲会社との経営統合に基づく貴社における経済的な相乗効果を約24億円と考えることは,不合理であるとはいえない。

出典:法務省「2007年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。