2006年 司法試験 論文式 民事系科目 第1問
問題
配点 100点[民事系科目]
〔第1問〕(配点:100)
1. P株式会社(以下「P社」という。)は,ホテル事業及びスポーツ施設の運営事業を主たる事業目的とする会社法(平成17年法律第86号。以下同じ。)上の公開会社であり,スポーツ事業部門にかかる資産の帳簿価額は,P社の総資産額の約40%を占めている。
Q株式会社(以下「Q社」という。)は,ショッピングセンターの運営事業及びスポーツ施設の運営事業を主たる事業目的とする会社法上の公開会社である。Q社は,P社の議決権総数の40%に当たるP社株式を保有し,Q社の代表権のない取締役AがP社の代表取締役を兼任しているが,A以外に両社の取締役を兼任する者はいない。
Q社はかねてP社のスポーツ事業部門の買収に関心を有しており,Q社の取締役会においては,もしQ社がP社のスポーツ施設を所有することとなれば,Q社のスポーツ事業部門の業績向上に有用であるという意見と,当該スポーツ施設をショッピングセンター用の大型店舗に転用すれば大いに活用できるという意見とに分かれていたが,いずれにせよP社からのスポーツ事業部門の譲受けを積極的に進めるべきことで意見は一致していた。なお,Q社は,株式買取請求権の行使を懸念し,これが問題となる手続は利用しないこととした。
P社は業績が思わしくなく,特にスポーツ事業部門が不振であったため,P社の取締役会においては,ホテル事業に傾注して業績の立て直しを図るべきであり,スポーツ事業部門をQ社に譲渡することに賛成の意見が多数を占めた。ただし,スポーツ事業部門を譲渡することには取締役の一部に強い反対があったため,Q社にスポーツ事業部門を譲渡するが,将来,P社の業績が回復すればスポーツ施設の運営事業を再開することは妨げられないよう,Q社との間で約定をしておくべきことで意見がまとまり,その点については,Q社からの一応の了解も得られた。
〔設問1〕 この段階で,P社法務部の担当者が弁護士であるあなたのところに,本件に関する会社法上の手続の進め方について相談に来た。Q社がスポーツ施設の運営事業を承継する場合と,当該スポーツ施設をショッピングセンターに転用する場合とに分けて,回答すべき内容を検討しなさい。なお,後記2記載の事実は,ここでは考慮せずに解答すること。
2. その後,P社代表取締役Aが複数の専門家に鑑定をさせたところ,収益からみたスポーツ施設の運営事業の事業価値は20億円を下らず,また,スポーツ施設の資産価値も30億円を下らないとの回答を得たが,Q社代表取締役Bは,帳簿価額により算定した10億円以下にするよう強く求めた。
P社は,スポーツ施設の運営事業の今後の動向,当該事業再開の可能性,Q社との関係の継続等も考慮した上で,契約内容の再検討を行った。その結果,P社代表取締役AとQ社代表取締役Bとの間で,別紙の契約書による契約が締結され,当該契約は履行された。なお,当該契約の締結については,P社の取締役会において承認され,さらに,P社の株主総会において特別決議により承認された。Q社の取締役会においても,当該契約の締結に先立ち,重要事実が開示され,Aを議決から排除した上でその締結を承認する決議がされた。
〔設問2〕 上記の事実関係について,会社法上の問題点を検討しなさい。
別 紙
事 業 譲 渡 契 約 書
P株式会社(以下「甲」という。)とQ株式会社(以下「乙」という。)とは,甲の事業の譲渡につき,次のとおり契約を締結する。
記
第1条(事業譲渡)
(1) 甲は甲のスポーツ施設の運営事業部門(以下「本事業」という。)を乙に譲渡し,乙はこれを譲り受ける。
(2) 本事業の譲渡により,本事業にかかわる甲の資産及び負債は,乙に譲渡される。
第2条(譲渡日)
譲渡日は,平成○年○月○日とする。ただし,法令上の制限,手続上の事由により必要あるときは,甲・乙協議の上,これを変更することができる。
第3条(譲渡価額)
本事業の譲渡の価額は,金10億円とする。
第4条(競業の禁止)
甲は,本事業の譲渡の後は,スポーツ施設の運営事業を行わない。
第5条(瑕疵担保責任)
譲渡資産に重大な瑕疵があった場合は,本契約の趣旨に従い,甲・乙協議の上,その解決に当たる。
第6条(善管注意義務)
甲は,本契約締結後,引渡し完了に至るまで,善良なる管理者の注意をもって本事業及び譲渡資産の管理運営を行い,本事業及び本契約に重大な影響を及ぼすような行為をする場合は,あらかじめ乙と協議するものとする。
第7条(支払方法)
乙は,第3条の譲渡価額から甲の乙に対する債務額を控除した額を支払うものとする。また,譲渡価額の支払方法は,甲・乙協議の上,別途定める。
第8条(従業員の取扱い)
本事業に従事している甲の従業員の雇用については,甲・乙協議の上,別途定める。
第9条(移転手続)
譲渡資産のうち登記,登録,その他移転のために必要とするものについて,甲・乙協力してその手続を行う。
第10条(取引先等の継承)
乙は,甲の本事業に関する顧客及び仕入取引先を継承する。
第11条(費用負担)
譲渡資産に関する公租公課,保険料等の費用は,日割計算により,譲渡日までの分は甲の負担,その後の分は乙の負担とする。
第12条(契約の変更又は解除)
本契約締結の日から譲渡期日に至る間において,天災地変その他の事由により甲の財産又は経営状態に重要な変動が生じたときは,甲・乙協議の上,条件を変更し,又は本契約を解除することができる。
第13条(効力発生)
本契約は,本事業の譲渡に必要な法令の手続が終了したときに,その効力を生ずる。
第14条(管轄裁判所)
本契約に関する紛争については,○○地方裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。
以上の証として,本契約書を2通作成し,甲・乙各々その1通を保有する。
平成○年△月△日
(甲)P株式会社
代表取締役 A
(乙)Q株式会社
代表取締役 B
出典:法務省「2006年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。