条文・判例・学説を体系的に整理
イギリスの法の支配と国会主権の確立
イギリスで20世紀までに成立した法の支配は、制定法とコモン・ローを中心とした「正規の法」による支配を意味し、裁判所による法の適用の保障を要求するものであるが、17世紀の国会と国王との抗争を経て国会が主権を有するという観念が確立されたことは、この法の支配の内容を根拠付けるものではない。
形式的法治国家と法律の留保
19世紀後半のドイツで採用された法治国家概念が今日では形式的法治国家論であると批判されている根拠として、法律の留保の下、行政権が国民の権利を制限し義務を課すには法律の根拠が必要とされたが、法律がどのような内容を伴っているかは問題とされなかったことが挙げられる。
法治主義と法の支配の接近と国民主権
現在の立憲主義国家の多くは、統治原理として法治主義を掲げる場合であっても、その内実は法の支配原理とほぼ同じ意味を持つようになっているが、現在の立憲主義国家の多くが国民主権原理を採用していることは、その根拠とはならない。
国の私法上の行為と憲法9条の直接適用
憲法9条は私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではないが、国が一方当事者として関与した私法上の行為であっても、その成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情があるときは、同条の直接適用を受ける。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
自衛戦争放棄否定説と交戦権
憲法9条1項が国際紛争を解決するための戦争を放棄したものであり、自衛戦争を放棄したものではないとの考え方に立った場合でも、同条2項後段の「国の交戦権は、これを認めない」は、交戦国が国際法上有する権利を否認したものと解することができる。
外国軍隊と戦力の概念
憲法9条2項が保持を禁止した戦力とは我が国が主体となってこれに指揮権・管理権を行使し得る戦力をいうものであり外国の軍隊はたとえそれが我が国に駐留するとしてもここにいう戦力には該当しない。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
国民投票無効訴訟の管轄裁判所
国民投票に関し異議がある投票人は、中央選挙管理会を被告として、告示の日から30日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができる。
憲法改正原案の発議に必要な賛成議員数
国会法によれば、憲法改正原案の発議には、衆議院においては議員100人以上、参議院においては議員50人以上の賛成を要し、法律案を発議する場合(衆議院20人以上、参議院10人以上)よりも賛成議員数が加重されている。
間接適用説と私法の解釈
私人間の関係に憲法の基本権保障規定をそのまま適用ないし類推適用することはできず、私的支配関係において個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害の態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるときは、民法1条、90条等の私法の一般条項の適切な運用によって調整が図られる。
昭和48年12月12日最高裁大法廷民集27巻11号1536頁(三菱樹脂事件)
男女別定年制と公序良俗
女子の定年年齢を男子より低く定めた就業規則の部分は、企業経営上の観点から女子を差別しなければならない合理的理由が認められず、専ら女子であることのみを理由とした性別のみによる不合理な差別を定めたものとして、民法90条の規定により無効であり、この判断に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等を定める民法の規定とともに憲法14条1項が参照される。
昭和56年3月24日最高裁第三小法廷民集35巻2号300頁(雇傭関係存続確認等)
私立大学の退学処分と補導の経由義務
私立大学の学生に対する退学処分に当たり、あらかじめ本人に反省を促すための補導を行うことが教育上必要かつ適切か、その方法と程度は、学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断に委ねられ、学則等に格別の定めがない限り、補導の過程を経由することが常に学校当局の法的義務であるとまでは解されない。
昭和49年7月19日最高裁第三小法廷民集28巻5号790頁(身分確認請求)
旧監獄法の受刑者の非親族との信書発受
旧監獄法46条2項の下で、受刑者の親族以外との信書の発受は、監獄内の規律・秩序の維持、受刑者の身柄の確保又は改善・更生の点で放置できない程度の障害が生ずる相当の蓋然性がある場合に限り、その防止のため必要かつ合理的な範囲で制限でき、具体的事情を考慮せず発信を不許可とした措置は違法である。
平成18年3月23日最高裁第一小法廷集民219号947頁(損害賠償請求事件)
未決拘禁者の閲読制限と障害の相当蓋然性
最大判昭和58年6月22日(よど号ハイジャック記事抹消事件)は、未決勾留により拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由の制限が許されるためには、監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であるとした。
昭和58年6月22日最高裁大法廷民集37巻5号793頁(損害賠償)
天皇の人権制約と他の国民への波及批判
天皇も国民に含まれ憲法第3章の権利の享有主体であるが、憲法自体が規定する皇位の世襲と職務の性質との関係で特別に広範な人権制約が認められるとする見解に対しては、公務員を全体の奉仕者とする憲法15条2項のような憲法の文言上の手掛かりがあれば、他の国民についても天皇と同様に広範な人権制約が認められることになるとの批判がある。
外国人の政治活動の自由の限界
判例によれば、外国人の政治活動の自由の保障は、我が国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位に鑑みこれを保障することが相当でないと解されるものには及ばないが、この立場に立っても、外国人には参加の態様にかかわらず政治的な主張を行うデモや集会に参加する自由が保障されなくなるわけではない。
法人の政治献金の自由と規制の困難
会社は自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、自然人たる国民と同様に政治献金をする自由を有し、会社による政治献金について自然人による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請はないとする判例の立場に対しては、法人に自然人と同様の政治献金の自由を保障すると、政治腐敗への対応策として企業・団体献金を法律で禁止することが困難になるとの批判がある。
施設内喫煙禁止の合憲性
喫煙の自由は、憲法13条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではなく、未決勾留により拘禁された者に対する喫煙の禁止は、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様を総合的に考慮すると、必要かつ合理的な制限であり、憲法13条に違反しない。
昭和45年9月16日最高裁大法廷民集24巻10号1410頁(国家賠償請求)
労働組合の政治献金と組合員の自由
労働組合は組合員の経済的地位の向上を本来の目的とする団体であり、その目的のために組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定しその選挙運動を推進すること自体は自由であるが、その政党に寄付する資金の費用負担を組合員に強制することは許されない。
昭和50年11月28日最高裁第三小法廷民集29巻10号1698頁(組合費請求)
強制加入の税理士会の政治献金と会費
税理士会は強制加入団体であり会員の脱退の自由が保障されていないから、税理士会が政治資金規正法上の政治団体に対して金員を寄附することは、税理士法改正に関わるものであっても、税理士会の目的の範囲外の行為であり、その寄附のため会員から特別会費を徴収する決議は無効である。
平成8年3月19日最高裁第三小法廷民集50巻3号615頁(選挙権被選挙権停止処分無効確認等)
国籍取得の準正要件と平等原則
国籍法3条1項(平成20年改正前)が、日本国民である父から出生後に認知された子につき、父母の婚姻(準正)を日本国籍取得の要件としている点は、立法目的自体には合理的な根拠が認められるが、社会的状況の変化により当該区別と立法目的との間の合理的関連性が失われ、憲法14条1項に違反する。
平成20年6月4日最高裁大法廷民集62巻6号1367頁(国籍法違憲判決)