条文・判例・学説を体系的に整理
平和的生存権と私法行為の効力
憲法前文の平和主義ないし平和的生存権として主張される平和とは理念ないし目的としての抽象的概念であり、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものではない。
平成元年6月20日最高裁第三小法廷民集43巻6号385頁(不動産所有権確認、所有権取得登記抹消請求本訴、同反訴、不動産所有権確認、停止条件付所有権移転仮登記抹消登記請求本訴、同反訴及び当事者参加)
広義の交戦権と憲法9条1項の重複
憲法9条2項で否認されている交戦権の内容を国家が交戦者として有する権利と国際法上の用例に従って解するのでなく国家として戦争を行う権利と広く解する見解に対しては同条第1項の規定との重複が避けられないとの批判がある。
砂川事件と自衛のための戦力
砂川事件判決は、憲法9条1項によっても我が国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではないとし、アメリカ合衆国軍隊の駐留は、わが国が指揮権・管理権を行使し得る戦力に当たらないから9条2項に違反しないとしたが、9条2項が自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別としている。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
憲法と条約の関係
憲法と条約の関係につき憲法優位説の立場からは日本国が締結した条約を誠実に遵守することを必要とする旨規定する憲法98条2項について有効に成立した条約の国内法的効力を認めその遵守を強調したものであると考えることになる。
京都府学連事件と13条の私生活上の自由
憲法13条は、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しており、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する。
昭和44年12月24日最高裁大法廷刑集23巻12号1625頁(公務執行妨害、傷害)
自家消費用の酒類製造と幸福追求権
自己消費を目的とする酒類製造を処罰する酒税法の規定は、自己消費目的の酒類製造の自由を制約するとしても、立法府の裁量権を逸脱し著しく不合理であることが明白なものではないから、憲法13条に違反しない。
平成元年12月14日最高裁第一小法廷刑集43巻13号841頁(酒税法違反)
商業宣伝放送と聞きたくない音の自由
最高裁判所は、市営地下鉄内の商業宣伝放送を違法ということはできないとしたにとどまり、聞きたくない音を聞かない自由が精神的自由として憲法13条により保障されるか否かについては、多数意見は判断を示していない。
昭和63年12月20日最高裁第三小法廷集民155号377頁(商業宣伝放送差止等請求事件)
再婚禁止期間違憲判決と婚姻の自由
憲法24条1項は婚姻をするかどうかいつ誰と婚姻をするかについては当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものであり、婚姻の自由は十分尊重に値するものと解することができる。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2427頁(損害賠償請求事件)
再婚禁止期間の立法目的とDNA検査
再婚禁止期間違憲判決は、民法733条1項の立法目的を、女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し、もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるとしたが、DNA検査技術の進歩によって立法目的が合理性を欠くに至ったとはせず、100日を超える部分について、立法目的との関連で合理性を欠くとした。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2427頁(損害賠償請求事件)
夫婦同氏制と通称使用の広がり
夫婦同氏を定める民法750条が憲法24条に違反しないという見解は婚姻前の氏を通称として使用することが近時社会的に広まっていることを論拠とすることができる。
平成27年12月16日最高裁大法廷民集69巻8号2586頁(夫婦別姓訴訟)
定住外国人の地方選挙権
最判平成7年2月28日は、憲法93条2項にいう「住民」とは地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味し、同項は我が国に在留する外国人に対して選挙の権利を保障したものではないが、永住者等であって、その居住区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者に、法律をもって地方公共団体の長・議会の議員の選挙権を付与する措置を講ずることは憲法上禁止されているものではないとした。
平成7年2月28日最高裁第三小法廷民集49巻2号639頁(選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消)
条例による規制の地域差と法の下の平等
憲法が地方公共団体の条例制定権を認める以上、各地方公共団体が各別に条例を制定する結果その取扱いに差別を生ずることがあっても、地域差の故をもって違憲ということはできず、売春の取締りのように法律による全国一律の規律もあり得る事項でも、条例で規律することは憲法14条1項に違反しない。
昭和33年10月15日最高裁大法廷刑集12巻14号3305頁(売春等取締条例違反)
投票価値の平等と二対一基準の否定
選挙権に関する法の下の平等は、投票価値の平等を要求するが、最大の選挙区と最小の選挙区との間で一票の重みの較差がおおむね2対1以上に開いた場合に直ちに違憲となるわけではなく、投票価値の平等は唯一絶対の基準ではない。
平成23年3月23日最高裁大法廷民集65巻2号755頁(選挙無効請求事件)
憲法14条1項の列挙事由と平等原則
憲法14条1項は人種、信条、性別、社会的身分又は門地を列挙するが、これらは例示であり、列挙事由以外の事由による差別も同項の平等原則に反し得る。
昭和39年5月27日最高裁大法廷民集18巻4号676頁(待命処分無効確認、判定取消等請求)
公的機関・私人の前科公表と私生活保護
前科等に関わる事実は、その者の名誉・信用に直接関わる事項であり、みだりに公表されないことについて法的保護に値する利益を有する、この点は、前科等の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても違いはない。
昭和56年4月14日最高裁第三小法廷民集35巻3号620頁(損害賠償等)
意見論評による名誉毀損と相当な理由
公共性・公益目的を備え、意見・論評の域を逸脱しない表現では、その前提事実の重要部分の真実の証明がなくても、真実と信じた相当の理由があれば故意・過失が否定され、名誉毀損の不法行為責任を負わない。
平成9年9月9日最高裁第三小法廷民集51巻8号3804頁(損害賠償)
道路使用許可と集団行進の不許可
道路における集団行進に対する道路使用の許可を拒むことができるのは、これが行われることにより一般交通の用に供せられるべき道路の機能を著しく害するものと認められ、かつ、警察署長が条件を付与することによってもかかる事態の発生を阻止することができないと予測される場合に限られ、そのような場合の不許可は憲法21条に反しない。
昭和57年11月16日最高裁第三小法廷刑集36巻11号908頁(道路交通法違反、公務執行妨害、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う刑事特別法違反、傷害)
新潟県公安条例事件と集団行進の許可制
公共の秩序を保持し又は公共の福祉が著しく侵されることを防止するため、特定の場所又は方法につき合理的かつ明確な基準の下に集団行進についてあらかじめ許可を受けることを必要とする規定を設けたとしても憲法21条に反しない。
昭和29年11月24日最高裁大法廷刑集8巻11号1866頁(昭和二四年新潟県条令第四号違反)
皇居外苑事件と公物の使用許可
皇居外苑などの国民公園は国が直接公共の用に供した財産であり、その利用の許否は、公共の用に供せられる目的に副う限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、公園としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきである。
昭和28年12月23日最高裁大法廷民集7巻13号1561頁(皇居外苑使用不許可処分取消等請求)
法廷における筆記の自由
裁判の傍聴人が法廷においてメモを取る自由は、憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきものであるが、同項によって直接保障されている表現の自由そのものとは異なるから、その制限又は禁止には表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準は要求されず、メモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営の妨げとなるおそれがある場合には、裁判長は法廷警察権によりこれを禁止又は規制することができる。
平成元年3月8日最高裁大法廷民集43巻2号89頁(メモ採取不許可国家賠償請求事件)