条文・判例・学説を体系的に整理
法の支配と法治主義の区別
「法の支配」は「法律による行政」の原理(形式的法治主義)を意味するものではなく、法律自体の内容の正当性をも問う原理である。
日本国憲法と法の支配
日本国憲法は、憲法の最高法規性、基本的人権の保障、特別裁判所の設置の禁止、裁判所による違憲立法審査権等の規定からして、「法の支配」の原理に立脚している。
法の支配の意義
法の支配とは、専断的な国家権力の支配、すなわち人の支配を排し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理である。
天皇の無答責
憲法は天皇の無答責を明文で規定していないが、内閣の助言と承認のもとで行われた天皇の国事行為について、天皇が責任を負うことはない。
国事行為の限定列挙
国政に関する権能を天皇に付与しないとしても、憲法が定める国事行為以外の行為を新たな国事行為として法律で定めることは許されない。
天皇による内閣の助言承認の拒否
天皇の国事行為には内閣の助言と承認が必要で内閣がその責任を負い、天皇は国政に関する権能を有しないから、天皇は内閣の助言と承認が不当であると判断した場合でも、これを拒むことは認められない。
9条1項の限定放棄説
憲法9条1項は侵略戦争を放棄したものであり自衛戦争は放棄されていないとする見解(限定放棄説)は、侵略戦争と自衛戦争等とを区別できることを前提とするから、およそ国際紛争解決の手段でない戦争は現実にはあり得ず両者を峻別することは困難であるとする主張とは整合しない。
9条2項の戦力不保持の意義
憲法9条2項を、1項全体の目的の実効性を確保するために一切の戦力の不保持を定める規定と解する見解では、2項は確認的規定ではなく実質的な意義を有する規定となる。
交戦権の意義
国際法上の交戦権は敵国領土の占領や船舶の臨検・拿捕など交戦国に認められた諸権利を指すから、交戦権を国家として戦争を行う権利と解する見解とは整合しない。
砂川事件の条約違憲審査と統治行為論
日米安全保障条約のように高度の政治性を有する条約の内容が違憲か否かの法的判断は、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限り、裁判所の司法審査権の範囲外のものである(砂川事件判決)。
昭和34年12月16日最高裁大法廷刑集13巻13号3225頁(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反)
条約と憲法の優劣
条約の効力は憲法の効力に優位するとの見解によれば、条約締結権に関する憲法の規定は、条約の効力の根拠を定めたものではないことになる。
立候補の自由の憲法上の保障
立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえできわめて重要であり、憲法15条1項の保障する重要な基本的人権の一つと解される。
昭和43年12月4日最高裁大法廷刑集22巻13号1425頁(公職選挙法違反)
未成年者と児童酷使の禁止
未成年者は、精神的・肉体的に未成熟なことから成人とは異なった特別の保護を必要とする場合があり、憲法27条3項は児童の酷使を禁止している。
外国人の裁判を受ける権利
裁判を受ける権利(憲法32条)は、権利の性質上日本国民のみを対象とするものではなく、外国人にも保障される。
昭和53年10月4日最高裁大法廷民集32巻7号1223頁(在留期間更新不許可処分取消)
法人の人権享有主体性
憲法第3章の人権規定は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用される。
昭和45年6月24日最高裁大法廷民集24巻6号625頁(取締役の責任追及請求)
国籍法違憲判決と嫡出性による区別
日本国籍は重要な法的地位であり、父母の婚姻による嫡出子たる身分の取得は子が自らの意思や努力によっては変えられない事柄であるから、こうした事柄により国籍取得に関して区別することに合理的な理由があるか否かについては慎重な検討が必要である。
平成20年6月4日最高裁大法廷民集62巻6号1367頁(国籍法違憲判決)
非嫡出子相続分違憲決定の審査基準
非嫡出子相続分規定の違憲性について、最高裁平成25年大法廷決定は、立法目的自体の合理性及び当該目的と手段との実質的関連性についてより強い合理性の存否を検討すべきであるという審査基準を採用せず、家族形態の多様化や国民意識の変化等の諸事情を総合的に考慮して違憲と判断した。
平成25年9月4日最高裁大法廷民集67巻6号1320頁(遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
尊属殺重罰規定違憲判決
尊属殺という特別の罪を設け刑罰を加重すること自体は直ちに違憲とはならないが、加重の程度が極端であって立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失しこれを正当化し得べき根拠を見出し得ないときはその差別は著しく不合理なものとして違憲となる。
昭和48年4月4日最高裁大法廷刑集27巻3号265頁(尊属殺人)
非嫡出子法定相続分規定の合憲性審査
非嫡出子という身分は子が自らの意思や努力によって変えることはできないが、嫡出性の有無による法定相続分の区別の合理性については立法目的自体の合理性及び当該目的と手段との実質的関連性についてより強い合理性の存否を検討すべきであるという基準は判例で採用されていない。
平成25年9月4日最高裁大法廷民集67巻6号1320頁(遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)
北方ジャーナル事件と検閲
検閲が過去に行政権により濫用されたという歴史的経緯は、検閲の主体を行政権に限り、裁判所の仮処分による事前差止めを「検閲」に当たらないとする解釈を支える理由となる。
昭和59年12月12日最高裁大法廷民集38巻12号1308頁(輸入禁制品該当通知処分等取消)