2026年 予備試験 論文式 労働法 第1問
問題
配点 50点[労 働 法]
次の事例を読んで、後記の〔設問〕に答えなさい。
【事例】
1 Y社は、P県内で一般貨物自動車運送事業、荷役作業請負等を行う運送会社である。Y社に所属する運転手70名のうち30名については、Y社と雇用契約ではなく業務委託契約を締結していた。Y社は、業務委託契約を締結している運転手(以下「業務委託運転手」という。)に対しては、売上から管理費、無線使用料、車両償却費、任意保険料、事務手数料、燃料代、車検費用等を控除した金額を報酬として支払っていた。業務委託運転手は、雇用保険及び社会保険には加入しておらず、また、報酬から所得税の源泉徴収はされず、Y社から指定された会計事務所に依頼して確定申告をしていた。他方で、雇用契約を締結している運転手(以下「雇用契約運転手」という。)については、給与は基本給と歩合給で構成されており、雇用保険及び社会保険に加入していた。このように二つの契約形態が併存するのは、かつてY社には雇用契約運転手しかいなかったところ、10年前にY社が別会社から事業譲渡を受けて事業を拡大した際に、当該別会社の契約形態の一部を導入したからであった。もっとも、業務委託運転手の方が雇用契約運転手より手取り額が高くなるため、事業拡大後に入社した運転手は、自身の希望で業務委託運転手を選択する者が多かった。
Y社の運転手は、業務日にY社の車庫からY社所有のトラックに乗り、Y社の従業員である配車担当者の指示に従い、指定された集荷場所に行き、そこから指定された配送場所まで指定された荷物を運搬していた。業務日や休日は、業務委託運転手及び雇用契約運転手のいずれも同じ条件であり、Y社が決定するシフトによって決められていた。Y社がシフトを決めるに当たって、業務委託運転手及び雇用契約運転手は、いずれも休日の希望を出すことはできるものの、希望が必ず通るというわけではなかった。また、業務委託運転手が、シフトにより指定された日の業務を拒否することは想定されていなかった。
2 令和7年9月1日、Y社は、業務委託運転手に対し、Y社の売上の約4割を占める発注元S社からの受注条件が厳しくなったことを理由として、令和8年4月以降、報酬計算の際に売上から控除する管理費を2割引き上げること(以下「本件条件変更」という。)を通知し、令和7年11月末までに本件条件変更についての同意書(以下「同意書」という。)を提出するよう求めた。
業務委託運転手であるA1及びA2は、近年の燃料費の高騰による手取り額減少に加え、本件条件変更が実施されると、手取り額が雇用契約運転手とほぼ同じ額になってしまうことを不満に思い、社外の個人加盟のX合同労働組合に相談に行き、同組合に加入してX合同労働組合Y支部(以下「X組合」という。)を結成した。
令和7年9月18日、X組合は、Y社B社長を名宛人として、X組合の結成を通告するとともに、本件条件変更を見直すことを求めて団体交渉を申し入れた。Y社は、同月25日、A1及びA2は労働者ではなく個人事業主であって、X組合は労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働組合ではないとして、X組合の団体交渉の申入れを拒否した。
3 ところで、Y社が受注している運送業務は、P県内での運送を行う短距離運送業務が3割、近隣県まで運送を行う中距離運送業務が7割程度であった。Y社は、これまでは雇用契約運転手及び業務委託運転手の別なく、どの運転手にも短距離運送業務と中距離運送業務をおおむね3:7の割合になるように割り振っていた。
X組合は、令和7年10月及び同年11月に計3回、Y社の始業前の時間帯に、Y社の車庫入口付近の敷地外で、業務委託運転手に同意書を提出しないよう呼び掛ける文書を配布した。その結果、同年11月末になっても同意書を提出しない者がA1及びA2以外に6名いた。そこで、これらの者に対し、上司の運輸部長Cが同意書の提出を促したところ、そのうち数名は「X組合が交渉中と聞いているので、その結果を待ちたい。」と述べた。
令和7年12月以降、A1及びA2は、短距離運送業務と中距離運送業務を5:5の割合で割り振られるようになり、短距離運送業務を担当する日が他の運転手と比較して月3日ないし4日ほど多くなった(以下「本件配分変更」という。)。短距離運送業務の方が中距離運送業務より受注単価が低く、業務委託運転手の報酬のベースとなる売上が少なくなるため、本件配分変更によりA1及びA2の報酬は、約10%の減額となった。そこで、A1及びA2が配車担当者に本件配分変更の理由を問い合わせたところ、同配車担当者は、「理由は分からないが、B社長の指示だ。」と答えた。
X組合は、令和8年2月6日、本件条件変更の見直しと併せ、本件配分変更はA1及びA2の組合加入を理由とした不利益な取扱いに当たるとして、その是正を協議事項に加え、団体交渉を再度申し入れたが、Y社は前回と同様の理由によりこれを拒否した。
4 Y社は、同意書を提出していない業務委託運転手に再三にわたり同意書の提出を促したが、令和8年2月に入っても、同意書を提出していない者がA1及びA2以外に3名いた。このままでは同年4月からの本件条件変更開始に支障が出ると考えたY社は、X組合に対し、同年2月16日、「団体交渉ではなく、『意見交換会』であれば応じる。」と通告した。X組合も同年4月までに協議をしたいと考えていたことからやむなくこれに応じることとし、同年2月20日、X組合とY社の間で「意見交換会」が行われた。
5 「意見交換会」のY社側の出席者は、Cと総務部長Dであった。Dは冒頭で、「この会はY社の方針を説明して理解してもらう場であって、X組合の意見はB社長に伝えるが、最終的にはB社長の判断にまかせてもらう。」と述べた。そして、Dは、本件条件変更に関し、資料を示してS社からの受注条件の変更によりY社の利益が大幅に下がる見通しであることを説明し、本件条件変更があっても雇用契約運転手と同等の収入が確保されるなどと述べて、X 組合に本件条件変更への理解を求めた。また、本件配分変更について、Cは、令和7年12月以降、Y社が受注する短距離運送業務が増えたこと、A1及びA2は業務委託運転手の中では比較的高齢であることから、負担の少ない短距離運転業務を増やしたのであり、組合加入を理由とするものではないと説明した。しかし、X組合側が、A1及びA2よりも高齢の業務委託運転手がいるのではないかと追及したところ、Cは、しどろもどろになり、「B社長が判断したことだから詳細は分からない。」などと述べ、説明が二転三転した。
X組合は、再度、本件条件変更及び本件配分変更の撤回やB社長の出席を求めて団体交渉の開催を要求したところ、Dは、「意見交換会は要望があれば継続するが、本件条件変更や本件配分変更はY社としての決定事項で、それを説明するだけなので、B社長が出席する必要はない。」などと発言した。その後も令和8年3月5日及び同月25日の2回にわたり「意見交換会」が開催されたが、Y社側の出席者及び回答内容は同様であった。
同年4月1日以降、Y社は、同意書を提出していない業務委託運転手も含めた業務委託運転手全員に対し、本件条件変更に基づく報酬を支払うようになった。
6 X組合は、令和8年5月10日、①Y社の一連の対応が労組法第7条第2号の団体交渉拒否に当たると主張し、また、②本件配分変更が労組法第7条第1号の不利益な取扱いに当たると主張して、労働委員会に不当労働行為の救済申立てを行った。
〔設問〕
1 労働委員会において、Y社は、A1及びA2が労組法上の労働者ではないと主張したが、この主張は認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げながら、あなたの考えを述べなさい。
2 Y社は、仮に、設問1に関しY社の言い分が認められず、X組合が労組法第5条第1項の要件を満たすとされた場合であっても、「意見交換会」により実質的に団体交渉を行ったと主張した。この主張を踏まえて、X組合の①の主張は認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げながら、あなたの考えを述べなさい。
3 X組合が労組法第5条第1項の要件を満たすとされた場合、②の主張は認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げながら、あなたの考えを述べなさい。
出典:法務省「2026年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。