2026年 予備試験 論文式 国際関係法(私法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(私法系)]
以下の各設問の解答に当たっては、法の適用に関する通則法(平成 18 年法律第 78 号)を「通則法」と略記して差し支えない。
〔設問1〕
甲国法人の航空会社であるA社(甲国に主たる営業所を有し、日本に従たる営業所を有する。)は、自社の日本語ウェブサイトに客室乗務員の募集要項を掲載した。日本に居住する日本人であるBは、当該募集要項を見てA社の求人に応募したところ、A社に採用されることとなり、A社の甲国所在の主たる営業所において、A社との間で労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結した。本件労働契約の契約書では、契約の準拠法は日本法とされ、Bの雇用期間は3年間で、1回に限り2年間の更新が可能であるが、通算5年間を超えないものとされていた。Bは、本件労働契約に基づき、A社が運航する日本の空港を常に発着空港とする日本と甲国間の国際線の客室乗務員として勤務を開始した。なお、Bについての人事管理の中核的な業務は、A社の日本の営業所が行っていた。
本件労働契約の締結から3年が経ち、A社とBとの間で2年間の契約更新がされたが、当該契約更新後の2年間の期間満了日前に、BはA社から更なる契約更新を行わない旨の通知を受けた。
なお、甲国法上、有期労働契約の上限は36か月とされ、連続した労働期間が合計36か月を超える場合には、最後の有期労働契約はその締結日をもって期間の定めのない労働契約とみなすと規定されている。
Bは、本件労働契約の準拠法にかかわらず、甲国法の上記規定に基づき、A社との間での労働契約は期間の定めのない労働契約とみなされると主張して、A社を被告として、Bが期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び前記契約更新後の2年間の期間満了後の賃金の支払を求め、日本の裁判所に訴えを提起した。
A社は、本件労働契約の最密接関係地は日本であるとして、甲国法の適用を認めるべきではないと主張している。これに対して、Bは、本件労働契約の最密接関係地は甲国であるとして、労働者たるBが適用を主張すれば、甲国法の強行規定である上記規定の適用は認められると主張している。両者の主張の理由付けをそれぞれ示し、いずれの主張を認めるべきか結論を述べなさい。
〔設問2〕
A社は、日本法人の航空会社であるC社(日本に主たる営業所を有し、甲国には営業所を有しない。)との間で、A社が10年間使用した中古の航空機2機を、日本円で20億円相当の価格で売却する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。本件売買契約の契約書においては、航空機2機の引渡地はいずれも甲国、売買代金の支払は甲国通貨建で、A社が甲国に開設した銀行口座への振込みによるものとされ、契約の準拠法は日本法とされていた。
A社は、C社に当該航空機2機を引き渡したが、C社が売買代金を支払わないため、C社に対して当該代金の支払を求める訴えを甲国の裁判所に提起した。甲国の裁判所は、C社に対し、A社への当該代金の支払を命じる判決(以下「本件判決」という。)をし、本件判決は確定した。なお、C社は、甲国では事業活動を一切行っていないものの、甲国所在の銀行口座に日本円で1万円相当の預金を有している。
A社は、C社を被告として、本件判決に基づく執行判決を求める訴えを日本の裁判所に提起した。C社が甲国における上記訴えに応訴していなかった場合に、本件判決が日本で効力を有するために必要な甲国の裁判所の国際裁判管轄権を基礎付ける事由は存在するか否かについて論じなさい。
なお、甲国法には本問に関する範囲で、以下の規定があるものとする。
【甲国法】
甲国内に住所(法人にあっては、主たる営業所)を有しない者に対する財産権上の請求に関する訴えについては、その者の財産又は請求の対象物が甲国内に所在するときは、甲国の裁判所が国際裁判管轄権を有する。
〔設問3〕
A社は自社で使用していた航空機を解体して出た部品を販売しているが、A社が使用していた機内カート(以下「本件カート」という。)をD(甲国に居住する甲国人)に売却し、甲国法に基づき、Dが所有権を取得した。
A社は、甲国所在の自社の倉庫でDのために本件カートを保管していたところ、A社のシステムのエラーによりDに売却したことが記録されていなかったため、E(日本に居住する日本人)にも本件カートを売却することとしてしまい、Eとの間で日本法を準拠法とする売買契約を締結した。Eは、A社が甲国所在の自社の倉庫でDのために本件カートを保管していたことを知らず、知ることもできなかった。Eは、当該契約に基づき、売買代金を支払うとともに、甲国から日本のEの住所に送付された本件カートを受領した。
Eが本件カートを受領してから半年後、Dは、本件カートの真の所有者はDであると主張し、Eを被告として、本件カートの引渡しを求める訴えを日本の裁判所に提起した。Eが本件カートを即時取得したと主張してDの請求を拒むことができるか否かについて論じなさい。
なお、甲国法上、日本民法の定める即時取得に相当する制度はないものとする。
出典:法務省「2026年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。