司法試験論文式過去問演習

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2026年 司法試験 論文式 刑事系科目 第2問

問題

配点 100点

[刑事系科目]

〔第2問〕(配点:100)

次の【事例】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。

【事 例】

1 H県警察I警察署司法警察員Pらは、H県I市内において、覚醒剤の密売が行われているとの情報に接し、捜査を進めていた。Pは、令和8年2月3日、覚醒剤取締法違反(所持)で逮捕したXから、「私が持っていたこの覚醒剤は、令和8年1月20日夕方、I市内の路上で、甲から0.3グラムを3万円で購入したものの残りだ。」との供述を得た。Pは、必要な捜査を行い、同年2月18日、同供述に係る覚醒剤密売(以下「本件譲渡し」という。)について、覚醒剤取締法違反(譲渡し)の事実で甲に対する逮捕状の発付を受けた。Pが甲の前科を照会したところ、甲には、覚醒剤取締法違反(所持)の前科1犯(令和6年10月1日確定、懲役1年6月、3年間全部執行猶予)があった。

2 Pらは、令和8年2月20日午前7時頃、I市内の甲方に赴き、甲を前記逮捕状に基づき逮捕した。その際、Pは、甲の左肘内側に真新しい注射痕様のものがあったこと、頬がこけ、目を見開き、手足が小刻みに震えているなど、甲に覚醒剤常用者特有の様子が見られたことなどから、甲が覚醒剤を使用しているとの嫌疑を抱いた。

Pは、同日午前7時30分頃、甲をI警察署へ引致し、甲から、本件譲渡しについての弁解を録取したところ、甲は、「やっていない。何も知らない。覚醒剤とは縁を切っている。」と供述した。Pは、同日午前8時頃、甲に対し、尿の任意提出を求めたところ、甲は、「今は出ない。待ってくれ。」と答えた。Pは、その後も、同日午後0時頃までに、5回にわたり、甲に尿の任意提出を求めたが、甲は、「まだ出ない。」などと答え、尿の任意提出に応じなかった。また、この間、Pは、甲に水を飲むよう勧めたが、甲はこれに応じず、提供された昼食を食べた際も水を飲まなかった。

Pは、同日午後2時頃、甲に対し、再度尿の任意提出を求めたところ、甲は、「しつこいな。出ないんだから仕方がないだろう。」と答えた。また、Pは、この時も、甲に水を飲むよう勧めたが、甲はこれに応じなかった。そこで、Pは、令状を取得し、強制力を用いて甲から尿を採取すること(以下「強制採尿」という。)もやむを得ないと考え、その準備を進め、同日午後4時頃、①強制採尿を実施するための令状の発付を受けた。

Pは、同日午後4時30分頃、I警察署において、甲に対し、前記令状を示し、採尿のためにI病院への同行を求めたところ、甲は、「分かった。」と言ってこれに応じ、警察車両に乗ってI病院まで移動した。Pは、同日午後5時以降、I病院において、約30分間にわたり、繰り返し、甲に対し、「令状は出ているが、自分で尿を出す気はないか。」などと言って尿を自ら提出するよう求めたが、甲は、「出したくても出ない。」などと答えた。同日午後5時30分頃、Pが「では強制採尿するしかないな。」と言うと、甲は、「出ないと言っているだけで、出さないとは一度も言っていない。待ってくれよ。ひどいじゃないか。」と答えたが、尿を自ら提出することはなかった。

そこで、Pは、前記令状に基づき、甲に対する強制採尿を実施しようと考え、同病院のY医師に採尿を開始するよう言った。Y医師は、10年間の泌尿器科勤務経験を有する泌尿器科専門医であり、令和2年以降、I警察署からの依頼により、毎年5件程度の強制採尿の実施経験を有していた。甲はY医師の指示に従ってベッドに横たわり、抵抗することはなかったが、Pら警察官8名は、Y医師から、甲が痛みで暴れ、甲の尿道が傷つくこともあり得るため、甲の手足を押さえるよう言われ、甲の両手両足を押さえた。そして、②Pは、前記令状に基づき、Y医師により甲の尿道にカテーテル(導尿管)を挿入させ、膀胱からカテーテルを経由して甲の尿を体外に排出させるなど、合理的かつ安全な方法で甲の尿を採取し、これを押収した。

3 甲は、令和8年2月21日、本件譲渡しの事実でH地方検察庁検察官に送致され、同日、勾留された。甲は、勾留延長後の同年3月4日、「令和8年1月20日に、I市内の路上で、覚醒剤0.3グラムをXに3万円で譲り渡した。」と述べ、本件譲渡しの事実を認めるとともに、同事実は、知人の乙と一緒に行ったことである旨供述した。しかし、乙との共謀の事実については、甲供述のほかに証拠が発見されなかったことから、甲は、同年3月12日、処分保留で一旦釈放された。他方、前記のとおり採取した甲の尿から覚醒剤の成分が検出されていたため、甲は、同日、覚醒剤取締法違反(使用)(以下「本件使用」という。)の事実で逮捕された。甲は、同月13日、本件使用の事実でH地方検察庁検察官に送致され、同日、勾留された。

4 Pらは、甲に対する捜査と並行して、甲の供述を踏まえ、本件譲渡しへの乙の関与についても捜査を進めた。甲は、取調べにおいて、「令和7年11月頃から乙と一緒に覚醒剤の密売をしていた。私は、客から注文を受けて客に覚醒剤を渡す役割、乙は、客に売る覚醒剤と客にサービスで渡す注射器を用意する役割だった。私は、客から覚醒剤の注文が入ると乙に伝え、客に渡す日の昼頃に乙とI市内のJ公園で会い、乙から覚醒剤等を受け取り、その後、客と会って覚醒剤等を渡していた。代金は私がその場で客から受け取り、後日乙と分けていた。常連と常連から直接紹介された人だけを客にすると決めていたので、乙が顧客リストのデータを自宅のノートパソコンで作成し、記録媒体のマイクロSDカードに保存しているはずである。令和8年1月20日にXに覚醒剤を売った際も、昼頃にJ公園で乙と会って覚醒剤と注射器を受け取り、夕方に私がXと会って覚醒剤と注射器を譲り渡した。」と供述した。

5 その後、Pらは、甲と共謀して本件譲渡しに及んだとの覚醒剤取締法違反(譲渡し)の事実で、捜索すべき場所を乙が一人暮らしをしている自宅アパート居室、差し押さえるべき物を覚醒剤、注射器、スマートフォン、ノートパソコン及びマイクロSDカード等とする捜索差押許可状の発付を受け、同年3月7日午前7時頃、乙の自宅に赴いた。Pがその場にいた乙に対して同許可状を呈示し、捜索を開始すると、乙は、Pらの面前で、居室内に置かれたノートパソコンの側面に右手で触れて何かを指でつまむような動作をした後、その右手を口元に持って行き、口を開けて何かを飲み込むような動作をした。Pは、乙に何を飲み込んだのか尋ねたが、乙は何も答えなかった。

Pらは、引き続き、前記許可状に基づく乙の自宅の捜索を実施し、居室内にあった前記ノートパソコン1台及びスマートフォン1台を差し押さえた。また、Pらは、居室内に置かれていた乙の財布の中から、白色粉末が入ったビニール袋1袋を発見し、乙の承諾を得て同白色粉末が覚醒剤であるか否かを試薬を用いて調べたところ、覚醒剤の陽性反応が出たため、同日午前8時頃、乙を覚醒剤取締法違反(所持)(以下「本件所持」という。)の現行犯人として逮捕した。

Pは、乙をI警察署に引致後、乙に弁解の機会を与えたところ、乙は「黙秘します。」と述べ、一切質問には答えなかった。乙は、同月8日、本件所持の事実でH地方検察庁検察官に送致されたが、検察官に対しても黙秘し、同日に勾留されて以降も、黙秘を続けた。

Pらは、前記ノートパソコンに保存されていたデータを確認したが、顧客リスト等の覚醒剤密売に関するデータは何ら発見されなかった。Pは、甲の前記供述、捜索時の乙の行動及び乙の居室からマイクロSDカードが発見されなかったことを踏まえると、顧客リストのデータが保存されているマイクロSDカードを乙が飲み込んだ可能性が高く、これを押収したいと考えた。そこで、Pは、まずマイクロSDカードが乙の体内にあるか否か及び同マイクロSDカードが自然に排出されるか否かを確認する必要があると考え、I病院の消化器病専門医であるT医師に相談したところ、これらを確認するためには、体内をX線を用いて断層撮影するCT検査により、その位置を確認する必要があるとの意見を得た。Pは、T医師の意見を踏まえ、CT検査を実施することとし、同月10日、③CT検査を実施するための令状の発付を受けた。Pは、同令状に基づき、I病院において、T医師により、乙に対するCT検査を実施させたところ、乙の大腸内にマイクロSDカード様の異物が認められたため、その状況を撮影した。T医師は、CT検査により撮影した画像を確認し、同異物は遅くとも数日内には体外に自然排出されるとの意見を述べた。

その後の同月11日、乙の体内からマイクロSDカードが排出されたため、Pがこれを押収した。

6 Pは、同月12日、前記マイクロSDカードの解析を行ったところ、同マイクロSDカード内には、「顧客リスト2026」と題するファイルが存在した。しかし、同ファイルを開くためにはパスワードの入力が必要であり、Pが乙にパスワードを尋ねても乙は何も答えず、データの解析を試みるも、その内容を確認することはできなかった。

また、Pらは、差し押さえたスマートフォンの解析等を進めたところ、同スマートフォンは、契約名義が乙であることや通信状況等から乙が日常的に使用しているものと認められた。そして、同月13日、同スマートフォン内の動画データを見分したところ、3点の動画データが存在した。これらの動画データは、いずれも、乙方居室内において、同一と認められる人物が乙の誕生日である1月22日に乙を祝っている場面のもので、撮影日は、それぞれ、令和6年1月22日、令和7年1月22日、令和8年1月22日であった。このうち、令和8年1月22日に撮影された動画データの内容は、【資料1】のとおりであった。Pは、これらの動画データを捜査用パソコンを用いて複製した上で、同複製動画データを記録媒体であるDVD(以下「本件DVD」という。)に保存した。

さらに、Pは、前記スマートフォン内の動画データのうち、令和8年1月22日に撮影されたものに、注射器が映り込んでいる場面があったことから、その場面を捜査用パソコンを用いて静止画として保存し、同静止画を出力した写真を添付した捜査報告書【資料2】を作成した。同報告書の内容は、Pが、個別に包装された未開封の注射器12本が乙方内の床上に置かれている状況が写った写真を添付し、同写真の下に「この写真の注射器は、覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。」との説明文を記載したものであった。

Pらは、前記スマートフォン内の動画データの撮影者についての捜査を進めたところ、撮影者は、Wという女性で、Wは、令和5年7月頃にI市内の飲食店に勤務していた際に客として訪れた乙と知り合い、同月頃から乙と交際していた人物と特定したが、Wは、令和8年2月に交通事故により死亡していた。Pは、甲に対し、Wについて知っていることを尋ねたところ、甲は、「乙に交際相手がいることは知っているが、それ以上のことは何も知らない。」と供述し、甲とWは知人関係にはないと認められた。

検察官は、同年3月17日、乙について、本件所持の事実で公判請求した。

Pは、同日、一連の捜査を踏まえ、甲と共謀して本件譲渡しに及んだという覚醒剤取締法違反(譲渡し)の事実で乙を逮捕した。乙は、その後、H地方検察庁検察官に送致され、同事実で勾留された。乙は、本件譲渡しについても一貫して黙秘した。

7 検察官は、その後、甲について、本件使用の事実で公判請求し、さらに、乙との共謀による本件譲渡しの事実で追起訴した。

また、検察官は、乙について、甲との共謀による本件譲渡しの事実で追起訴した。

甲及び乙の審理は、併合されず、別々に行われることとなった。

8 乙は、第1回公判期日における罪状認否において、「覚醒剤を持っていたことは間違いない。譲渡しの事実については黙秘する。」旨述べた。乙の弁護人は、本件所持の事実については争わないとした一方で、本件譲渡しの事実については争う旨述べた。

検察官は、同公判期日において、各公訴事実を立証するため、本件DVD及び捜査報告書【資料2】等を証拠として請求した。検察官は、本件DVDの立証趣旨を「乙が令和8年1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと」、捜査報告書【資料2】の立証趣旨を「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の注射器12本を乙が所持していたこと」としていた。

乙の弁護人は、本件DVD及び捜査報告書【資料2】のいずれについても不同意との証拠意見を述べた。

〔設問1〕

1.下線部①の強制採尿を実施するための令状の種類について論じなさい。その上で、下線部①の令状の発付の要件が満たされていたか否か及び下線部②の行為が適法であったか否かについて、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

2.下線部③のCT検査を実施するための令状の種類について論じなさい。

〔設問2〕

1.本件DVD内の動画データのうち、【資料1】の下線部④の発言が記録されている部分の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。ただし、同動画データの内容が乙方において差し押さえたスマートフォン内の動画データの内容と同一であることは証拠上認定できるものとする。

2.捜査報告書【資料2】の証拠能力について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。

(参照条文) 覚醒剤取締法

第19条 次に掲げる場合のほかは、何人も、覚醒剤を使用してはならない。

(以下略)

第41条の2 覚醒剤を、みだりに、所持し、譲り渡し、又は譲り受けた者(略)は、10年以下の拘禁刑に処する。

(以下略)

第41条の3 次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の拘禁刑に処する。

一  第19条(使用の禁止)の規定に違反した者

(以下略)

【資料1】

[本件DVD内の動画データのうち、令和8年1月22日に撮影されたものの内容]

(なお、以下の表は、本件DVD内に保存されている動画データの内容を本設問用に記載したものであり、以下の表がデータとして保存されているものではない。)

日時 (令和8年1月22日)音声映像
午後7時15分30秒から午後7時15分45秒までW「乙、誕生日おめでとう。恒例のお祝い動画を撮ってます。」 乙「ありがとう。恥ずかしいから短めにな。」 W「誰に見せるものでもないからいいでしょう。」乙方居室内で、乙がテーブルの前に座り、テーブルの上にはケーキが置かれている。同ケーキには「誕生日おめでとう」と記載されたプレートが載せられている。
午後7時15分45秒から午後7時16分15秒までW「一昨日の20日、ランチを一緒にしようと思ったけど、連絡つかなかったの、残念だったな。」 乙「まだ根に持ってるのか。」 W「仕方ないのは分かってる。④私が昨日あなたになぜ20日に連絡つかなかったか聞いたとき、あなたは『20日の昼頃は大事な仕事があって、J 公園に行って甲と会ってた。』って言ってたものね。甲さんはあなたと一緒にいるところを一度見かけたくらいで話したこともないけど、感じのいい人ではないと思う。」同上
午後7時16分15秒から午後7時16分40秒まで乙「うまいな、これ。」 W「ケーキも毎年同じだけどね。」乙がテーブルの上のケーキを 食べている。
午後7時16分40秒から午後7時16分50秒まで(同時刻で撮影終了)乙「まだ撮ってるのか、もうやめろよ。」 W「分かった。撮影終わります。」乙方居室の床が約1秒映り、個別に包装された未開封の注射器12本が床上に置かれている。

【資料2】

捜 査 報 告 書

令和8年3月13日

H県警察I警察署

司法警察員 警視Q 殿
H県警察I警察署
司法警察員 警部補P ㊞

覚醒剤取締法違反

被疑者乙
(本籍、住居、職業、生年月日省略)

被疑者乙に対する頭書被疑事件につき、本日、当職が令和8年3月7日に乙方において差し押さえたスマートフォンを見分したところ、同スマートフォン本体のデータ保存領域内に存在する動画データのうち、令和8年1月22日に撮影されたものの中に、本件に関連すると思料する場面が存在したことから、同場面を捜査用パソコンを用いて静止画として保存し、同静止画を出力した写真1枚を添付して報告する。

原本PDF第13ページの図:個別に包装された未開封の注射器12本が乙方内の床上に置かれている状況の写真

この写真の注射器は、覚醒剤の密売人が客に交付することが多い未使用の注射器である。

出典:法務省「2026年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。