2025年 予備試験 論文式 国際関係法(私法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(私法系)]
次の文章を読んで、後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
【事実1】
いずれも甲国籍であるA男とB女は、出生以来日本に居住していた。
AとBは交際していたが、2005年1月、Aは、写真家となるためにBを伴って乙国に渡航した。AとBは2010年1月に乙国で適法に婚姻し、2012年3月にAB間に子C(甲国及び乙国の重国籍)が生まれた。
Aは、写真家として乙国を拠点に活動していたものの、乙国での写真家としての仕事が順調ではなかったため、2013年1月から日本を拠点として活動するようになった。それ以降、Aは、1年のうち8か月は仕事で日本に滞在し、残りの4か月はBとの婚姻生活を送るために乙国に滞在していた。これに対して、Bは、乙国へ渡航直後に乙国の大学に進学して卒業後、ダンサーとして乙国で公演及び指導活動を行っており、引き続き乙国に居住していた。
日本法人のG社に勤務するD女(日本国籍)は、G社乙国支店への転勤を命じられて、2年間の予定で2016年4月から乙国に居住していた。Dは、同年5月、乙国で開催されたパーティーに参加して、A及びBと知り合いになり、同年8月から、Aが乙国に滞在している間にAと不貞行為に及ぶ関係になった。
乙国での駐在期間が満了してDが日本に帰国する直前の2018年3月、Bは、Aの行動から、DがAと不貞行為に及んでいるのではないかと疑念を抱いた。そこで、Bは、Dに対し、AとDが不貞行為に及んでいるとの疑念があるので至急会って確認したい、場合によっては知人にも尋ねてみる、という内容を記載した電子メールを送信したところ、Dは、多忙を理由にBの面会の申し入れを断った。その一方で、Dは、Aとの関係を隠ぺいするため、A及びBの知人10名(全員乙国に居住)に対し、Aとの不貞行為をBに疑われたがBの妄想で事実ではない、実はBは精神疾患で通院している、そもそもAは女性関係が派手でだらしない、という内容を記載した電子メール(以下「本件メール」という。)を一斉送信した。Dは当初の予定どおり、その直後である同月末に日本に帰国した。
AとBは、この件をきっかけに話し合い、婚姻関係を継続することとし、また、Bも活動拠点を日本に移すこととした。B及びCは同年5月に日本に転居し、それ以来、A、B及びCは日本に居住している。
〔設問1〕
【事実1】を前提として、次の問いに答えなさい。
Aは、Aの女性関係が派手でだらしないという内容を記載した本件メールの送信によりAの名誉権が侵害されたとしてDに対して損害賠償を求める訴えを、Bは、精神疾患で通院しているという内容を記載した本件メールの送信によりBのプライバシー権が侵害されたとしてDに対して損害賠償を求める訴えを、それぞれ日本の裁判所に2018年7月に提起した。いずれの訴えについても、日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとする。
⑴ Aの請求について、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。
⑵ Bの請求について、いずれの国の法によって判断されるべきかを論じなさい。
【事実2】
AとBは、一旦は婚姻関係を継続することにしたが、2019年9月、AとDが再び不貞行為に及んでいることがBに判明した。AはBの下を去ってDと同居するに至ったため、BはAとの婚姻関係の継続を諦め、両者は話し合いの結果、離婚することに合意した。
〔設問2〕
【事実1】及び【事実2】を前提として、次の問いに答えなさい。
甲国法にも日本法と同じく協議離婚制度がある。しかし、甲国法では、夫婦は、夫婦が居住している地の裁判所(夫婦が甲国外に居住しているときは、夫婦が居住している国に所在の甲国大使館)で離婚意思の確認を受けた後に、協議離婚の届出をしなければならないとされている。
2019年10月、AとBは、離婚意思の確認を事前に受けることなく、日本のS市で協議離婚の届出(以下「本件届出」という。)をした。
戸籍管掌者は、本件届出を受理した。戸籍管掌者が本件届出を受理すると判断した理由について、準拠法の決定過程を示しながら説明した上で、この判断の当否について論じなさい。なお、甲国法上必要である事前の離婚意思の確認以外の離婚の成立要件は、日本法及び甲国法のいずれについても、満たされているものとする。
【事実3】
2019年10月、AとBは、Cの親権者をBと定めて離婚した。BとCは現在まで引き続き日本に居住している。これに対して、AとDは、2020年3月に甲国に転居し、それ以来、甲国に居住している。
離婚時には、Bの方がAより収入が多かったことから、Cの養育費としてAがBに毎月3万円を支払う旨の合意がAB間でなされ、AはBに対して毎月3万円を送金していた。しかし、2025年1月、Bは右脚に大けがを負い、ダンサーとして公演を行うことができなくなり、収入が激減した。他方、その頃には、Aが甲国で起業した会社が成功を収めて、Aは、高額の収入を得ていた。
〔設問3〕
【事実1】から【事実3】までを前提として、次の問いに答えなさい。
Bは、2025年3月に日本の家庭裁判所に対し、Aを相手方として、Cの養育費を相当額に増額することを求めて調停を申し立てたが、調停事件は不成立により終了し、審判に移行した。この審判事件について、日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるか否かについて論じなさい(調停事件の国際裁判管轄権について論じる必要はない。)。
出典:法務省「2025年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。