2025年 予備試験 論文式 経済法 第1問
問題
配点 50点[経 済 法]
甲製品(以下「甲」という。)は、公共交通の安全を確保するために用いられる、特殊な性能を備えた機器である。行政機関A(以下「A」という。)は、甲の唯一の需要者となっており、各地方公共団体で使用される甲の全量を一括して発注している。甲の開発には高度な技術と長期間にわたる研究が求められるため、令和5年度末まで、我が国においては、Y1とY2(以下「2社」という。)のみが甲を製造販売していた。
Aは、令和2年度までは、2社との随意契約の方法により甲を調達していた。2社は、Aが各社製の甲の性能や価格を比較した上で、甲の発注見込台数、供給予定地域について、2社間に差を設けているという認識を持っており、それぞれ甲の性能向上のための技術開発に力を入れるなど、競争関係にあった。また、2社は、いずれもAから自社への甲の発注台数を上回る甲の生産をするための十分な技術と体制を備えており、生産拡大は通常の事業活動の範囲内で常に可能な状態にあった。
Aは、甲の購入価格が高止まりしているとの指摘を受けて、令和3年度から甲の発注方法を指名競争入札に変更することとした。Aは、指名競争入札を実施するに当たり、甲が特殊な性能を備えた機器であることから、購入計画を支障なく遂行するために各社の生産及び納入の見通しを確認することが望ましいと考えていた。令和2年11月、Aは、2社それぞれに対して、令和3年度以降の甲の調達に指名競争入札が導入される予定であり、2社を入札参加可能業者に指名する見込みである旨を説明した。その上で、令和3年1月中旬、Aは、Y1に対し、令和3年度の甲の購入計画を口頭で説明し、Y1向けの甲の発注見込台数や供給予定先が記載された文書を配布する方法で情報を提示した。また、令和3年1月下旬、Aは、Y2に対し、令和3年度の甲の購入計画を口頭で説明し、Y2向けの甲の発注見込台数や供給予定先が記載された文書を配布する方法で情報を提示した。このような情報の提示(以下「情報提示」という。)を受けて、2社は、会合を開催し、互いに情報提示を受けた甲が重ならないことを確認した上で、令和3年3月、Aに対し、それぞれ情報提示を受けた甲の納入日、納入場所を記載した納入日程表を提出し、Aとの間で甲の納入を具体的に調整した。Aは、2社とのこのような納入調整(以下「納入調整」という。)により、令和3年度に発注が予定されていた甲の生産及び納入に支障がないと判断し、令和3年4月、2社を令和3年度の甲の指名競争入札における入札参加可能業者に選定した。
令和3年5月に開催された2社の会合において、Y1は、現在の高い利益率を維持する必要があり、また、情報提示を受けた甲についてはAが自社に発注する意向があると考えられるため、情報提示を受けた甲以外の入札には参加しない予定である旨の発言をした。Y2は、Y1が自社と同じ認識を持っていると考え、令和3年度に予定されている甲の指名競争入札においては、情報提示を受けた甲についてのみ入札に参加する見込みである旨の発言をした。
令和3年6月に行われた第一回の甲の指名競争入札は、AがY1に対して情報提示を行った甲の一部を対象とするものであった。Y1は、自社が情報提示を受けた甲の入札であると認識して第一回の入札に参加し、情報提示を受けなかったY2は第一回の甲の入札には参加しなかった。また、令和3年7月から順次行われた第二回以降の甲の指名競争入札においても、2社は、それぞれ自社が情報提示を受けた甲の入札のみに参加し、自社が情報提示を受けなかった甲の入札には参加しなかった。
その後、2社は、令和3年10月に開催された2社の会合において、令和4年度以降の甲の発注に関しても、その指名競争入札に先立ち、令和3年1月と同様の情報提示を受けられるようAに要請することを合意し、令和3年10月、個別にAを訪問し、その旨を要請した。Aは、2社からの要請に応じ、それ以降も毎年度末までに翌年度分の甲の発注に係る情報提示を行っていた。また、2社は、情報提示を受ける都度、会合を開催して情報提示の有無を確認し合うとともに、毎年度末までに翌年度分の甲の発注に関して、それぞれAとの間で納入調整を行った上で、令和4年度以降も自社が情報提示を受けた甲の入札のみに参加し、自社が情報提示を受けなかった甲の入札には参加していなかった。
指名競争入札導入後の落札率(落札価格を予定価格で除したもの。以下同じ。)は、99.7パーセントを下回ることはなく、2社は、指名競争入札の方法により発注された全ての甲をいずれかが受注し、それぞれの受注額は、Aの総発注額のおおむね半分ずつであった。
Aは、甲の購入価格が依然として高止まりしており、指名競争入札が新規参入の障壁となっているとの指摘を受けて、令和5年9月上旬、令和6年度から甲の発注方法を一般競争入札に変更する方針を決定した。Aによるこの方針の決定を受けて、2社は、令和5年9月中旬、会合を開催し、甲の受注価格の低下を抑制し利益を確保するため、Aに対して、2社が協力して一般競争入札の導入に反対し情報提示の継続を要請することを決定した。令和5年10月上旬、2社は、個別にAを訪問し、一般競争入札の導入の中止と情報提示の継続を要請したところ、これらの要請はAから拒否された。
令和6年度の第一回の甲の一般競争入札には、遅れて甲の開発に成功したY3が参加した。一般競争入札の導入に伴い、Aによる情報提示が行われなくなったため、2社は会合を開催しないことにした。令和6年度に実施された甲の一般競争入札は、おおむねY1、Y2及びY3の3社の競札となり、落札率は65パーセントから80パーセントとなっている。
〔設 問〕
2社の行為について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律上の問題点を検討しなさい。なお、入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律については論じる必要はない。
出典:法務省「2025年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。