2025年 司法試験 論文式 民事系科目 第1問
問題
配点 100点[民事系科目]
〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点は、55:45〕)
次の各文章を読んで、後記の〔設問1⑴・⑵・⑶〕及び〔設問2〕に答えなさい。
なお、解答に当たっては、文中において特定されている日時にかかわらず、令和7年1月1日現在において施行されている法令に基づいて答えなさい。
【事実Ⅰ-1】
1.Aは、設備工事業を営むBの従業員である。また、Bは、業務用トラック(以下「甲車」という。)を所有している。
2.令和5年2月10日、Aが、Bの業務として、甲車を運転して片側2車線の道路を走行していたところ、同一方向の隣の車線を走行していたCの運転する乗用車(以下「乙車」という。)が急に車線を変更して甲車の直前に割り込んできた。Aは、急ブレーキを踏み辛うじて追突を回避することができたが、クラクションを鳴らし続けてCに抗議した。
これに腹を立てたCが、信号待ちで両車が停止した際、乙車を降りて甲車に近づき、「何度も鳴らすな。しつこいぞ。」と怒鳴りつけたところ、Aも甲車を降りて口論となった。口論中にCから執拗に挑発を受けたAは、甲車の荷台から取り出した工具を振り回しながらCに向かって行った(以下「本件威嚇行為」という。)。
Aから逃れようとして慌てて乙車に乗り込んでこれを急発進させたCは、ハンドル操作を誤って勢いよく縁石に乗り上げ、乙車を横転させてしまった(以下「本件事故」という。)。本件事故により、Cに怪我はなかったが、乙車に同乗していたCの配偶者Dが重傷(以下「本件負傷」という。)を負って入院した。本件事故についてのAとCとの過失割合は、Aが2割で、Cが8割である。
3.Dは、令和5年3月末に退院した。
【事実Ⅰ-2】
前記【事実Ⅰ-1】(1から3まで)に続いて、以下の事実があった。
4.本件事故以前、CD夫婦は、同居して生計を一にしていた。しかし、Dの入院をきっかけに夫婦仲は険悪となり、令和5年8月以降、CとDとは、生計を分けて別居し、離婚に向けた協議を開始した。令和6年4月上旬には、CとDとは、離婚をすることに合意し、その条件の詳細を詰めている段階にあった。
5.令和6年4月10日、Dは、Bに対し、「㋐Bには本件負傷について損害賠償責任がある。」と主張して、本件負傷についての損害賠償を請求した(以下「請求1」という。)。これに対して、Bは、「仮にDの主張が正当であるとしても、㋑乙車の側にも本件事故の責任があるので、賠償額が減額されるべきである。」と反論した。
〔設問1⑴〕
【事実Ⅰ-1】及び【事実Ⅰ-2】(1から5まで)を前提として、次のア及びイの問いに答えなさい。
ア 下線部㋐の主張について、その根拠を説明した上で、その当否を論じなさい。なお、Aは、本件威嚇行為による本件負傷について不法行為による損害賠償責任を負うものとする。また、自動車損害賠償保障法第3条の規定に基づく責任については、考慮しないものとする。
イ 下線部㋑の反論について、その根拠を説明した上で、その当否を論じなさい。
【事実Ⅰ-3】
前記【事実Ⅰ-1】及び【事実Ⅰ-2】(1から5まで)に続いて、以下の事実があった。
6.令和6年5月10日、Cは、本件事故以前からの持病である心疾患により死亡した。Cは、遺言をしておらず、また、Cの唯一の相続人であるDは、単純承認をした。
7.【事実Ⅰ-3】6の事実を知ったBは、請求1に対して、さらに、「仮にBがDに対し本件負傷についての損害賠償債務を負うとしても、㋒DがCについて相続をした結果、当該損害賠償債務は、消滅したはずである。」と反論した。
〔設問1⑵〕
【事実Ⅰ-1】から【事実Ⅰ-3】まで(1から7まで)を前提として、次のア及びイの問いに答えなさい。なお、下線部㋑の反論の当否にかかわらず、下線部㋑の反論による賠償額の減額はされないものとして考えなさい。
ア 下線部㋒の反論について、その根拠を説明した上で、その当否を論じなさい。
イ アにおける下線部㋒の反論の当否の結論を前提として、BとDとの間での求償を通して、本件負傷による損害をBとDとが両者の間で最終的にどのように負担することになるかを論じなさい。
【事実Ⅰ-4】
前記【事実Ⅰ-1】(1から3まで)に続いて、以下の事実があった。前記【事実Ⅰ-2】及び【事実Ⅰ-3】(4から7まで)は存在しなかったものとする。
8.【事実Ⅰ-1】3のDの退院後、BとDとは、本件負傷についての和解交渉を始め、令和6年4月10日、Bは、Dに対し、本件負傷に係る損害賠償債務の額を150万円とする和解案を提示した。Dは、その案を拒み、Bに対し、本件負傷に係る損害賠償債務の額を250万円として、これを直ちに支払うよう請求した。同月14日、Dは、知人から「弁護士の資格はないが、和解交渉の経験が豊富で信頼することができる。」として紹介されたEに対し、Dを代理してBと和解をすることを報酬10万円で委任した。
9.令和6年7月10日、Eは、Dを代理して、Bとの間で、「Bは、Dに対し、令和7年1月10日までに、本件負傷に係る損害賠償金200万円を支払う。本件負傷についての損害に関し、DとBとの間には、これ以外に一切の債権債務がないことを確認する。」という内容の和解契約(以下「本件和解」という。)を締結した。
弁護士の資格を有していないEがDを代理して本件和解をしたことは、弁護士法第72条の規定に違反するものであった。
10.令和6年11月10日、Bは、Eが弁護士の資格を有しないことを知った。
11.令和7年1月10日、Dは、Bに対し、本件和解に基づき200万円を支払うよう請求した。これに対し、Bは、「㋓EがDを代理して本件和解をしたことは弁護士法第72条に違反するので、Dの請求は認められない。」と反論した。
〔設問1⑶〕
【事実Ⅰ-1】及び【事実Ⅰ-4】(1から3まで及び8から11まで)を前提として、下線部㋓の反論について、その根拠を説明した上で、その当否を論じなさい。
なお、「弁護士法72条の趣旨は、弁護士の資格のない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁止するものと解されるところ」、「同条に違反する行為に対しては、これを処罰の対象とする(同法77条3号)ことによって、同法72条による禁止の実効性を保障することとされている。」と述べる最高裁判所第一小法廷平成29年7月24日判決(最高裁判所民事判例集71巻6号969頁)がある。
(参照条文)弁護士法(昭和8年法律第53号)
(非弁護士との提携等の罪)
第77条 次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。一、二 (略)
三 第72条の規定に違反した者
四 (略)
【事実Ⅱ】
1.令和7年3月10日、婚姻中である父Aと母Bとの子C(17歳)は、A及びBに何ら相談することなく、B方の伯父Dとの間で、Cが所有する絵画甲とDが所有する絵画乙とを交換する旨の契約(以下「契約①」という。)を締結した。同日、Cは、Dの指示する場所へと甲を搬入し、Dは、Cの指示する場所へと乙を搬入した。
2.令和7年3月11日、A及びBは、【事実Ⅱ】1の事実を知った。Bは、Cが乙を手に入れているからBとしては契約①を取り消すつもりはない旨をAに伝えた。しかし、Aは、Cが甲を手放したことは問題であると考えていた。
3.令和7年3月13日、Aは、Bに無断で、A及びBの名義で、Dに対し、契約①を取り消す旨を伝え、Cにもそのことを伝えた。Dは、この取消しは、AがBの許諾を得てしたものであると考えた。また、同日、Aは、Dに対し、甲をCに返還するように伝えた。
4.令和7年3月15日、Cは、18歳となった。
5.令和7年3月17日、Dは、Cの指示する場所へと甲を搬入した。他方で、同日、Cは、Dとの間で、Cが乙を以後Dのために占有することを合意した。
6.令和7年3月21日、Cは、Eとの間で、乙がCの所有物であるとして、乙を代金25万円で売る旨の契約(以下「契約②」という。)を締結した。同日、契約②の代金25万円がEからCへと支払われた。同日、Cは、Eとの間で、Cが乙を以後Eのために占有することを合意した。Eは、Cが乙の所有者であると過失なく信じていた。
7.令和7年3月24日、Eは、Fとの間で、乙がEの所有物であるとして、乙を代金30万円で売る旨の契約(以下「契約③」という。)を締結した。同日、契約③の代金30万円がFからEへと支払われた。同日、Eは、Cに対して、以後Fのために乙を占有することを命じ、Fがこれを承諾した。Fは、Eが乙の所有者であると過失なく信じていた。
8.令和7年3月28日、Fは、Gとの間で、乙がFの所有物であるとして、乙を代金35万円で売る旨の契約(以下「契約④」という。)を締結した。同日、契約④の代金35万円がGからFへと支払われた。同日、Cは、Fからの依頼を受け、Gの指示する場所へと乙を搬入した。F及びGは、Fが乙の所有者であると過失なく信じていた。
9.令和7年3月31日、Dは、Cのところに乙を引き取りに行ったものの、乙が見当たらなかった。同日、【事実Ⅱ】6から8までの経緯を知ったDは、Fに対し、35万円を支払うよう請求した(以下「請求2」という。)。
〔設問2〕
【事実Ⅱ】(1から9まで)を前提として、次のア及びイの問いに答えなさい。
ア 契約①の締結前にDに属していた乙の所有権は、どのような過程を経て、現在、誰に属するかを論じなさい。
イ 仮にDが令和7年3月28日に乙の所有権を再度失ったものとして、請求2の全部又は一部が認められるかを論じなさい。なお、乙の適正価額は30万円であって、その変動はなかったものとする。また、乙の使用利益の返還については、考慮しないものとする。
出典:法務省「2025年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。