2023年 予備試験 論文式 国際関係法(公法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(公法系)]
【事例】
A国では、B国からの分離・独立を主張するB国内の少数民族団体αの指導により、在A国のB国大使館前で連日デモ運動が行われ、その動きは日増しに激化していた。事態を憂慮したB国による警備強化の要請にもかかわらず、A国の対応は鈍く、A国の警察をB国大使館付近に配置して警備に当たらせるなどの方策を講じることは一切なかった。そのような中、αのメンバーがデモに乗じてB国大使館敷地内に火炎瓶を投げ込み、同大使館の建物に火災が発生した。
近隣住民の通報によりA国の消防隊が出動してB国大使館に到着したところ、B国大使館員は全員、既に同大使館の敷地外に避難していたほか、B国大使もC国に出張して不在であり、A国からB国大使に連絡を取ることはできなかった。その間にも火災はB国大使館の建物全体に広がり、同大使館の敷地周辺に所在する建物への延焼のおそれが生じたため、A国の消防隊は、B国から同国大使館の敷地内への立入許可を得ることなく、敷地内で消火活動を開始した。B国大使館の建物は全焼したが、早期の消火活動の結果、周辺建物への延焼は免れた。
A国の消防隊が消火活動を行う過程で、B国大使館内にC国国民Xが監禁されているのが発見された。Xは消防隊員により救助され、B国大使館付近の病院に搬送された。また、A国の消防隊は、A国外務省を通じて、Xを救助した旨を在A国のC国大使館に通報した。その後、病院でC国領事がXと面会し事情を尋ねたところ、Xは、A国滞在中に、B国大使館員により強制的にB国大使館に連行され監禁されたことが判明した。
在A国のB国大使は、A国の消防隊の消火活動が終了した後にA国に再入国し、この間のB国大使館をめぐるA国の行為について、外交関係に関するウィーン条約(以下「外交関係条約」という。)の違反を理由にA国に対して抗議した。また、B国は、Xに関し、Xによるαへの活動支援がB国国内法違反に当たる疑いがあるため、同人をB国大使館に連行して同大使館内に留置したのであり、後日B国へ移送する予定であったと主張して、A国に対しXの身柄の引渡しを求めた。これに対して、A国は、B国によるXの身柄の引渡請求には応じなかった。
Xは、退院後、在A国のC国大使館に身を寄せた。そして、C国は、Xの身体の自由が侵害されたことなどを理由にB国に対して外交的保護権を行使して損害賠償請求を行った。他方、A国は、B国との間に、外交関係条約を含む国際法の解釈又は適用に関する紛争が存在することをB国に通告したが、2か月経過してもB国からは仲裁裁判所への付託を含むいかなる回答も受領しなかったことから、当該紛争を国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に付託することにした。
A国、B国及びC国はいずれも国連の原加盟国であるとともに、外交関係条約及び紛争の義務的解決に関する選択議定書(以下「選択議定書」という。)の締約国であり、外交関係条約にもその選択議定書にも留保は付していない。また、これら3国は、ICJ規程第36条第2項に基づく宣言を留保なしに行っている。なお、A国とB国の間には犯罪人引渡しに関する条約は存在しない。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
1.A国は、外交関係条約上、いかなる義務の違反に問われ得るかについて論じなさい。
2.B国大使館によるXの身柄の拘束について、A国がB国のいかなる国際法違反を問うことが可能かについて論じなさい。
3.A国が前記設問2においてB国の国際法義務違反の追及が可能である場合、B国をICJに一方的に訴えるために可能な裁判管轄権の基礎を全て論じなさい。
4.C国がB国に対して外交的保護権を行使するための要件を述べ、この事例においてその要件が満たされるかどうかについて論じなさい。
【参考資料】 選択議定書(抜粋)
この議定書及び1961年3月2日から同年4月14日までウィーンで開催された国際連合の会議において採択された外交関係に関するウィーン条約(以下「条約」という。)の当事国は、
条約の解釈又は適用から生ずるあらゆる紛争を、自国に関するものである限り、他の解決方法が当事国により合理的な期間内に合意される場合を除くほか、国際司法裁判所の義務的管轄に付託する希望を有することを表明して、
次のとおり協定した。
第1条
条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、国際司法裁判所の義務的管轄の範囲内に属するものとし、したがつて、これらの紛争は、この議定書の当事国である紛争のいずれかの当事国が行なう請求により、国際司法裁判所に付託することができる。
第2条
両当事国は、一方の当事国が、他方の当事国に対し、紛争が存在する旨の見解を通告した後2箇月の期間内に、その紛争を国際司法裁判所にではなく仲裁裁判所に付託することにつき合意することができる。前記の期間が経過した後は、いずれか一方の当事国は、請求により、当該紛争を国際司法裁判所に付託することができる。
第3条
1 両当事国は、第2条に規定する2箇月の期間内においては、国際司法裁判所に付託する前に調停手続を執ることにつき、合意することができる。
2 調停委員会は、その構成の後5箇月以内に勧告を行なわなければならない。勧告が行なわれた後2箇月以内に紛争の当事国がその勧告を受諾しない場合には、いずれか一方の当事国は、請求により、当該紛争を国際司法裁判所に付託することができる。
出典:法務省「2023年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。