2023年 司法試験 論文式 知的財産法 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
動物αは、日本のある地域にのみ生息しているネコ科の動物であるが、警戒心が強く動きが俊敏であるため目撃例が非常に少なく、その生態には不明なところが多い。動物αの研究者であるXは、いくつかの証拠から動物αの生息域を絞り込み、その域内で動物αに認識されずに撮影できるポイントを発見し、そこにカメラ等の機材を設置・固定して、撮影する角度も最適に調整した上で録画を開始し、その場を立ち去って50時間放置した。このようにして撮影された映像(以下、この50時間分の映像を「X映像1」という。)に、動物αが鮮明に映っていた。Xは、X映像1に断続的に映っている動物αの部分の合計約3時間分から、各30秒から2分程度の10個のシーンを抽出し、さらに、これらのシーンを時系列と異なる順番に配置して、15分の映像(以下「X映像2」という。)を作成した。
民放のテレビ局であるYは、動物αについての番組(以下「Y番組1」という。)を作成し、放送した。Y番組1の一部として、Xの許諾を得てX映像2は放送された。
以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したものであり、相互に関係はないものとする。
[設問1]
出版社のZは、ネコ科の動物についての図鑑を発行した。この図鑑は2種あり、一つは書籍単独(以下「Z図鑑1」という。)、もう一つはZ図鑑1に各種ネコ科の動物の映像が収録されたDVD(以下「Z・DVD」という。)が付属しているもの(以下「Z図鑑2」という。)である。Z図鑑1は全部で250ページから成り、うち2ページにおいて動物αの画像5枚(以下「Z画像」という。)が掲載されている。Z・DVDには各15分程度の映像作品が5つ収録されており、そのうちの一つとして、動物αの映っている映像(以下「Z映像」という。)がある。Z画像とZ映像は、放送されたY番組1を録画したものから、Z画像についてはX映像2の一部を抜き出して、Z映像についてはX映像2の全部を抜き出して、それぞれ作成されたものである。XはZに対し、訴訟を提起した。
⑴ この訴訟において、Xは、X映像2を自らの著作物として主張している。Xがこのような主張をすることには、X映像1を自らの著作物として主張する場合と比較して、Xにとってどのような利点があるかについて論じなさい。
⑵ XがZに対して、その著作権に基づいてなし得る請求としてどのようなものが考えられるか。⑴の解答を踏まえ、その請求の妥当性についても論じなさい。
[設問2]
Yは、Y番組1とは別の番組(以下「Y番組2」という。)において、X映像2を使用することを企画したが、Xの許諾が得られなかったため、将来的に同種の番組を作成する際に使用することも視野に入れて、X映像2と同様の映像を自ら作成することとした。このため、Yのスタッフは、X映像1の撮影場所を特定し、その場所にX映像1と同様の範囲が映るようにカメラ等の機材の位置と角度を調整して設置・固定し、50時間放置して撮影を実行した。さらに同スタッフは、撮影された映像の中から、動物αがX映像2で見られたのと似た動きをしている10個のシーンを抽出し、これらをX映像2で見られたのと同じ順番になるように配置した15分の映像(以下「Y映像」という。)を作成した。その後、Y映像はY番組2の一部として放送された。Y番組2の終了間際に出されるテロップには、Xの氏名が「協力者」として表示されていた(この部分以外に、Y番組2においてXの氏名が表示される部分は存在しない。)。XはYに対し、訴訟を提起した。
⑴ この訴訟において、Yにより侵害された著作権法上の権利として、どのような権利をXが主張すべきかについて論じなさい。
⑵ ⑴で解答した権利に基づいて、XがYに対してなし得る請求としてどのようなものが考えられるか。その請求の妥当性についても論じなさい。
[設問3]
Y番組1の放送後、視聴者から、Y番組1中のX映像2を見た飼い犬が急に激しく吠え立て始め、X映像2を見ている間それがやまなかったという多数の報告がYに寄せられた。X映像2を見た犬の反応の映像が視聴者の笑いを誘うものになるかもしれないと考えたYは、バラエティ番組の企画として、次のような実験(以下「Y実験」という。)を行うこととした。Y実験は、タブレットにⅩ映像2を記録し、そのタブレットを持ったYのスタッフが、街で犬を散歩させている飼い主に声掛けして、承諾を得られた場合、その犬に、タブレットに記録されたⅩ映像2を再生して見せる、というものである。Yは、Y実験が犬に映像を見せるために行うものであることから、Y実験に際してⅩ映像2をタブレットに記録することや、それに記録した映像を再生することが著作権侵害に問われることはないと判断したため、Y実験に関してⅩに許諾を求めることはしなかった。
YがY実験を実施したところ、承諾を得られた飼い主が20名いたため、20匹の飼い犬にX映像2の全てを見せた。Y実験の完了直後に、実験に用いたタブレットに記録されたX映像2はYにより削除された。
Y実験が行われたことを知り、この企画をくだらないものと思い立腹したXは、Yに対し、損害賠償を求める訴訟を提起した。
⑴ Yはどのような根拠に基づいて下線部のような判断をしたと考えられるか。簡潔に答えなさい。
⑵ Y実験においてYのスタッフは、各飼い主に対して事前に実験の趣旨を説明した際、飼い主が映像を見る必要はない旨伝達していたが、珍しい動物αに興味を持った飼い主3名がX映像2の全てを見ていた。この場合に、YがXの著作権を侵害したと言えるか。⑴の解答を踏まえ、論じなさい。
出典:法務省「2023年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。