2022年 予備試験 論文式 国際関係法(公法系) 第1問
問題
配点 50点[国際関係法(公法系)]
アフリカ中央部に位置するA海外州及びB海外州は、ヨーロッパのC国の植民地として19世紀初頭から統治されていた。互いに隣接するA・B両海外州の間には山脈があり、その分水嶺は、C国の国内法で同国の行政区画線の一部としてこれら2つの海外州間の境界線を構成していた。20世紀に入ると、1930年代からC国内が革命により内乱状態となり、A・B両海外州もその影響を受けたが、A海外州はその混乱に乗じて、B海外州との間の山脈を越えたところにあるB海外州内のα地域に税務事務所を設置して、同地域における徴税に係る活動を開始した。これに対してB海外州は、A海外州に抗議して、A海外州がα地域に設置した税務事務所の撤去を求めるとともに、当該税務事務所の撤去をA海外州に命ずるようC国に上申したが、A海外州もC国も、こうしたB海外州の求めに対していかなる対応も行わなかった。
その後、脱植民地化の過程において、A海外州もB海外州も、1960年にそれぞれA国及びB国としてC国からの独立を果たし、A・B両国は、その独立直後から両国間の国境画定条約を締結するための交渉を行ってきた。ところが、A国は、α地域を自国領と主張し、その独立直後から同地域に自国軍隊を駐留させたため、B国は、こうしたA国の行動に対して定期的に抗議を行ってきた。しかし、A国は、更に警察や住民登録のための行政機関等を現地に常駐させるなど、α地域に対する実効的な支配を強化していったことから、α地域に関係する国境線だけはA国とB国との間で合意に至らず、常に紛争の火種となっていた。そこで、B国は、1990年に、A国を相手に、α地域における国境線の画定問題を国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に一方的に付託したところ、A国は、ICJに出廷する意思を示さず、この問題についてICJが判断を下すことはできない旨の書簡をICJに送付した。
他方で、A国とB国は、自国の安全保障の観点から、C国及びC国に隣接するD国とともに、1995年に軍備管理に関するP条約を批准した。この条約によると、当事国は、核兵器を開発も保有もしないこと(2条)、正規軍の兵員数の上限を2万人とすること(3条)とされていた。なお、D国は、P条約第2条について、「この規定は、いかなる状況においても、D国には適用されない。」という留保を付した上でP条約を批准したところ、C国のみがD国の批准の3か月後にD国の留保に異議を申し立てた。なお、P条約には留保に関する規定が置かれていなかった。
B国は、A国との国境画定交渉が停滞していることを不満として、2000年頃からα地域を武力で奪還すべく正規軍の規模を3万人に増やし、その半数の兵力をα地域の近くに配置した。これに対してA国は、P条約第3条の運用を停止すると宣言し、正規軍の兵員数を4万人まで増員して、そのおよそ半数の兵員をα地域に駐留させることを決定した。また、A国は、その当時B国内で生じていた反政府デモを利用し、このデモを指導していた政治団体Sに対して、資金のほか武器・弾薬等も供与してB国内の状況を更に混乱させようとしたため、この動きを察知したB国は、個別的自衛権の行使を主張してα地域に自国軍隊を進め、B国軍隊は、α地域に駐留していたA国軍隊との間で交戦状態に入った。
A国、B国、C国及びD国は、いずれも国際連合(以下「国連」という。)の加盟国である。また、これら4国は、いずれも1969年の条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。)についていかなる留保も付さずに1980年から当事国となっている。また、P条約については、A国、B国、C国及びD国のいずれにおいても、それぞれの国内手続が行われて批准がなされ、1996年に効力が発生している。さらに、A国及びB国は、独立した年に国連に加盟するとともに、ICJ規程第36条第2項に基づき、裁判所の管轄権を受諾する宣言を行ったが、B国は、「B国が本質上自国の国内管轄内にあると判断する紛争」には、この選択条項受諾宣言が適用されない旨を国連事務総長に通告している。
以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。
〔設問〕
1.B国は、α地域が自国領であると主張する観点から、国際法上いかなる議論が可能かについて論じなさい。
2.A国は、α地域におけるB国との国境線の画定問題についてICJが判断を下すことはできないと主張するために、国際法上いかなる議論が可能かについて論じなさい。
3.C国は、条約法条約の適用上、P条約との関連でD国といかなる条約関係を主張することが可能かについて論じなさい。
4.A国は、自国正規軍の増員をP条約違反に問われないために、国際法上いかなる議論が可能かについて論じなさい。
5.A国は、α地域におけるB国の軍事行動が国際違法行為であることを主張するために、国際法上いかなる議論が可能かについて論じなさい。
出典:法務省「2022年司法試験予備試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。