2022年 司法試験 論文式 国際関係法(私法系) 第2問
問題
配点 50点〔第2問〕(配点:50)
Xは、日本に住所を有する日本人であり、陶磁器製の食器の収集を趣味としている。Xは、30年ほど前から毎年、陶磁器の生産が盛んな甲国に赴いて1週間ほど滞在し、甲国内の複数の陶磁器製造・販売業者(後出のY社、Z社を含む。)の営業所を訪れて、気に入った食器の購入を行っている。Xは、10年ほど前からは、自身の趣味としての収集だけでなく、事業として、甲国内で仕入れた食器を日本国内の顧客向けに販売している(この事業を行うに当たっては、日本の自宅建物の一部を営業所として使用している。)。
Y社は、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社であり、甲国以外には営業所も財産も有していない。Y社は、創業から長い歴史を有する老舗であり、Y社製の食器は、世界的なブランドになっている。Y社は、自社製の食器を他社には卸さず、甲国内の自社の営業所でのみこれを販売するとの経営方針を採っており、世界各国のバイヤーは、甲国内のY社の営業所に赴いてY社製の食器を仕入れた上で、それぞれ自国内の顧客向けにこれを販売している。Y社とY社製の食器の買主との間で締結される売買契約においては、後述のとおり、商品引渡地は定められていないものの、Y社は、買主から依頼があれば、買主の費用負担により、買主の指定場所に宛てて商品を発送することとしている。Y社製の商品の中でも、磁器製の皿の表面に甲国伝統の模様を顔料で描いた絵皿が特に有名であり、Y社は、毎年、模様を変えた新たな絵皿を発売している。
Z社も、食器を中心とする陶磁器製品の製造・販売を業とする、甲国に本店を有する甲国の会社であり、Z社製の食器も、Y社製の食器と同様に世界的なブランドになっている。Z社は、Y社とは異なり、自社製の食器を他社に卸しているほか、甲国以外の国にも営業所を展開するなどしており、世界各国のバイヤーは、様々な経路を通じてZ社製の食器を仕入れることができる。
Y社では、一定金額以上の商品を販売する際には、Y社が用意した売買契約書2通にY社と買主の双方が署名した上で、それぞれが1通ずつを保管するという方法を採っている。これは、甲国法上、一定金額以上の物品の売買については、当事者全員が署名した書面による契約書を作成していなければ、当該売買契約は効力を生じないとされていることによるものである(後掲の甲国契約法P条を参照。)。Y社の売買契約書には、甲国法を契約準拠法とする旨の条項が置かれているが、商品引渡地や代金支払地などの債務の履行地を定める条項、債務不履行による損害賠償債務の履行地を定める条項、裁判管轄や仲裁などの紛争解決方法に関する条項は、いずれも置かれていない。
Y社は、新商品を含むY社の取扱商品の一覧表カタログを毎年発行し、それを優良顧客に宛てて送付しており、数年前からは、Xに対しても当該カタログを送付していた。
新型コロナウイルス感染症が世界的にまん延拡大していた令和3年において、Xは、Y社の営業所に赴くことなくY社の商品を購入したいと考えて、Y社に対して、インターネットを利用した映像と音声を送受信する方法によるオンライン会合を開催して商談を行うことを提案した。Y社は、Xが優良顧客であったことから、特別にこの提案に応じることとした。オンライン会合において、Xは、購入を希望するY社製の新商品である絵皿(以下「本件商品」という。)のカタログ番号をY社に伝え、これを受けてY社が示した本件商品のカタログ写真の映像を確認した上で、Y社との間で、本件商品を500セット購入する内容の売買契約(以下「本件契約」という。)を口頭で締結した。本件契約の締結に際して、XとY社の間で、Xが本件商品のカタログ記載の価格にXの住所までの送付費用を加えた売買代金全額をY社名義の甲国所在の銀行口座に振り込んで支払うことが合意されたが、それ以外の事項については、従前からの取引を通じて、XにおいてもY社の売買契約書の記載内容を十分に承知していることを踏まえ、Y社の売買契約書の記載内容と同様の扱いをすること(本件契約の準拠法を甲国法と定めることのほか、本件商品の引渡地や紛争解決方法については特段の定めをしないことなどが含まれる。)が合意された。なお、この時点では、XとY社は、本件契約に関する契約書を作成していない。
XがY社から本件商品500セットを購入したのは、日本有数の百貨店チェーンであるA社からの依頼に基づくものであった。A社は、日本全国に展開する百貨店の各店舗において「甲国物産展」を行うことを予定しており、その目玉商品として甲国製の食器皿を販売することとし、その仕入れをXに依頼していた。Xは、本件契約の締結後、直ちにA社との間で本件商品500セットの売買契約(以下「転売契約」という。)を締結していた。
しかし、その後、本件商品について、使用されている顔料が人体の健康に重大な被害を及ぼすおそれがあるとの報道が世界各国でなされた。この報道を受けて、A社は、本件商品を「甲国物産展」の目玉商品とすることを断念し、品質に関する契約不適合を理由として、Xに転売契約の解除を通知した。
以上の事実を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各問は独立した問いである。
また、甲国契約法には次の条文が置かれており、本件契約は、甲国契約法P条の「政令で定める一定金額以上の物品売買契約」に該当するものであった。
【甲国契約法】
P条(一定金額以上の売買契約の方式)
政令で定める一定金額以上の物品売買契約は、当事者全員が署名した書面でしなければ、その効力を生じない。
Q条(債務の履行の場所)
契約上の債務の履行をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の債務の履行は債権者の現在の営業所(営業所がない場合にあっては、その住所)において、それぞれしなければならない。
[設問1]
A社から転売契約の解除の通知を受けて、Xは、Y社に対し、Y社の債務不履行を理由に本件契約を解除する旨を通知した(この時点で、Y社は、Xに売却する予定の本件商品500セットについて特定をしていなかった。)。そして、Xは、転売契約に係る自らの債務不履行責任の追及を避けるとともに、A社を取引先としてつなぎとめるため、本件商品に代わる「甲国物産展」の目玉商品となり得るものとして、急きょ、Z社製の食器皿500セットをZ社から購入し、転売契約と同一価格でA社に提供することとした。このZ社製の食器皿は、本件商品と比べると高額であったが、A社との間の転売契約で定められていた納期までに入手できる甲国製の食器皿は、Z社製の食器皿しかなかった。A社は、このようなXの対応に満足し、XからZ社製の食器皿500セットを購入することにしたが、Xは、結果的に多額の赤字を計上することとなった。
そこで、Xは、Y社を被告として、本件契約に関するYの債務不履行によって被った損害の賠償を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。本件訴えについて、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。
なお、甲国は、「国際物品売買契約に関する国際連合条約」(以下「ウィーン売買条約」という。)の締約国ではない。また、本件契約は、解除されるまで有効に成立していたものとする。
[設問2]
XとY社が口頭で本件契約を締結した当日に、Y社は、自らが署名した契約書2通をXの住所宛てに発送し、Xが署名した上で1通を返送するよう依頼した。その翌日に、Xは、カタログ記載価格に送付費用を加えた売買代金全額を、X名義の日本所在の銀行口座からY社名義の甲国所在の銀行口座に振り込んで支払った。その後、Y社の署名がされた契約書2通がXの住所に届いた。しかし、その翌日に、本件商品に関する報道がなされ、A社は、直ちにXに転売契約の解除を通知した。
そこで、Xは、届いた契約書には署名をしないまま、本件契約は甲国契約法P条の方式要件を満たしていないから当初から効力を生じていないと主張し、Y社を被告として、支払済みの売買代金全額の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。
甲国がウィーン売買条約の締約国ではないとして、次の〔小問1〕及び〔小問2〕に答えなさい。なお、日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。
〔小問1〕
XがY社にオンライン会合を求めたのは、Xが甲国に入国した直後に甲国内で外出禁止令が出されたことが理由であった。Xは、甲国内で滞在していたホテルからY社とオンライン会合を行っていた。この場合に、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められるかどうかについて論じなさい。
また、甲国において外国人の入国を全面的に制限する措置が採られていたために、甲国に渡航することができなかったXが、自宅からY社とオンライン会合を行っていた場合はどうか、論じなさい。
〔小問2〕
Xが主張する支払済みの売買代金全額の返還請求が認められるかどうかの問題について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。
なお、本件訴えにおいて、本件契約が当初から効力を生じていないとのXの主張が認められることを前提とする。
[設問3]
甲国は、ウィーン売買条約の締約国であり、同条約で認められる留保宣言を一切行っていない。Xは、本件契約とは別途、自宅からY社とのオンライン会合を行い、Y社製の最高級ティーカップ・セットを1セット購入する内容の売買契約を口頭で締結していた。Xが、日本の裁判所に係属する民事訴訟において、この契約は方式要件を満たしていないため当初から効力を生じていないとの主張をしている場合に、日本の裁判所は、Xの当該主張が認められるかどうかの問題について、ウィーン売買条約を適用して判断すべきか。日本の裁判所の国際裁判管轄権は認められるものとして、同条約第1条及び第2条の規定に触れつつ論じなさい(同条約のその他の条文について論じる必要はない。)。なお、この契約を締結する際、Xは、配偶者へのプレゼントとしてティーカップ・セットを購入するものである旨をY社に伝えていた。
出典:法務省「2022年司法試験論文式試験問題」。原本PDFから本文・表・図を抽出し、字下げ・下線・枠などの体裁を保ったまま、画面の幅に合わせて折り返しています。